夕焼けは、君の色
僕は、君の背中を見ている時間がいちばん好きだ。
——なんて、絶対に言えないけれど。
放課後の教室は、いつも少しだけ広く感じる。
窓から差し込む夕陽が、君の黒髪を赤く染めている。
「まだ帰らないの?」
そう聞く君の声は、何でもない顔をしているのに、やけに優しい。
「うん。……もうちょっとだけ」
本当は、君と同じ時間に帰りたいだけだ。
君は、バスケ部のエースで、クラスの中心にいる人。
僕は、図書委員で、目立たない側の人間。
なのに、どうしてだろう。
体育館で君が笑った日から、僕の世界は少しだけ傾いてしまった。
君が汗を拭いながら、無邪気に仲間と笑っていたあの日。
その横顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
ああ、これって。
認めたくなかったのに。
僕はきっと、君が好きなんだ。
「お前、最近ぼーっとしてるよな」
机越しに、君が顔を覗き込む。
近い。
息が触れそうな距離に、心臓がうるさく鳴る。
「そ、そんなことないよ」
視線を逸らすと、君は少しだけ困ったように笑った。
「なんかあったら言えよ?」
——言えるわけない。
“君が好き”だなんて。
放課後の廊下を並んで歩く。
影が、長く伸びる。
ほんの少し、肩が触れた。
それだけで、世界が止まったみたいだった。
君は気づいていない。
気づかなくていい。
だって君には、好きな人がいる。
この前、部活の後に嬉しそうに話していた。
隣のクラスの女子のこと。
そのときの君の顔は、僕が知らないくらい、まっすぐで。
……ああ、やっぱり敵わない。
「どうした?」
立ち止まった僕に、君が振り返る。
夕焼けを背にした君は、少しだけ遠い。
「なんでもないよ」
笑うのは、得意だ。
好きだよ。
言わないけど。
言えないけど。
君の隣にいられる時間が、なくなるのが怖いから。
バス停に着く。
「また明日な」
いつも通りの言葉。
「うん、また明日」
たぶん、明日も好きでいる。
この気持ちは、どこにも行かないまま、僕の中で静かに色づいていく。
夕焼けは、今日も君の色をしている。
そして僕は、その色に触れられないまま。




