火竜討伐へ
アルセの関所門の先には、レイドバトルの参加者が乗れるだけの馬車が用意されていた。
馬車に乗って火竜の出没地点の近くまで街道を進むことになる。
なんとも至れり尽くせりだ。
さすがは勇者が先導する案件だけあって、待遇がいい。
感心しながら、リオンたちは馬車に乗り込む。
ちなみにリオンの愛馬メアは、先日の山脈越えの疲れを癒すため、宿の厩舎で休ませている。
馬車は四人乗りで、リオンとシルフィードの他に四十代ぐらいの剣士と、吟遊詩人が相乗りになった。
まずは剣士が自己紹介する。
「俺はダン。個人ランクはBだ。今回は俺がおまえらギャラリーの護衛を務めることになった。よろしくな」
短い黒髪を後ろに撫でつけた無精ひげの男が人懐っこい笑みを浮かべる。
鍛えられた逞しい肉体に着古した鎧をまとい、腰には黒い大剣。
雰囲気はベテラン冒険者だ。
隣の吟遊詩人も続く。
「僕はエルディ。吟遊詩人です。戦闘向きじゃないですが、逃げるのは得意ですよ」
柔和な笑みを浮かべてそう言ったのは、亜麻色の長い髪を後ろで三つ編みにした細身の美人だ。
一見背の高い女性のようだが、声は男だった。
さすが歌を生業としているだけあって艶のある美声だ。
勇者の活躍を歌にしてほしいという依頼を受けて参加したらしい。
リオンとシルフィードも名乗る。
昨日登録したばかりのFランク冒険者だが、本業は旅の商人という設定にした。
「それにしても、ギャラリーに護衛? ずいぶん待遇がいいんですね」
シルフィードの当然の疑問に、ダンが頭を掻きながら苦笑する。
「まあ、一応、高レベルモンスターの討伐任務だからな。一緒に行った冒険者に何かあったら勇者の評判に傷がつくだろ? あの人ら、そういうの気にするからさ。戦闘力が低い奴らが死なねぇように守るのが今回のオレの仕事。あ、気を悪くするなよ?」
ダンの言葉にリオンは納得する。
なるほど、見栄っ張りのエリオネルらしい。
「火竜討伐とはいえ、勇者様がついてるから大丈夫でしょう」
楽天的なエルディの言葉を聞いて、ダンの表情が引き締まる。
「言っておくが、危なくなったらすぐ逃げろよ。勇者がついているとはいえ、何が起こるかわからんのが討伐任務だ。追い詰められたモンスターの中には、死に物狂いで襲ってくるやつもいる。そうなると俺も守り切れねぇかもな。油断すると命を落とすぜ」
そう言ったダンの顔は真剣そのものだ。
長年の経験に基づくベテラン冒険者の言葉には説得力があった。
馬車に揺られながら、とりとめない会話をしていると、ふいにダンがリオンの顔をじっと見てきた。
戸惑いの表情を浮かべるリオンに、ダンは尋ねる。
「……おまえ、聖女ソフィア様に似てるって言われねぇか?」
「えっ……えーと……」
「よく言われます」
唐突に母の名を出され挙動不審になったリオンの代わりに、答えたのはシルフィードだ。
「だろー? まさか親戚とか?」
「いえ、他人の空似です。ダンさんはソフィア様をご存じで?」
「ああ、二十年ぐらい前かな? 伝説の勇者一行がオレの街に来たとき、握手してもらったんだ。俺、大ファンだったんだよー!」
興奮気味に顔を紅潮させたダンの横で、ふふっとエルディが笑う。
「確かに、金の髪と緑の瞳はソフィア様の特徴ですね。僕は直接の面識はないけど、伝説の勇者ウィンとその一行がテーマの歌は、今でも幅広い層に人気があるんですよ」
意外なところで、また母たちの痕跡に出会ってしまった。
気恥ずかしいような、誇らしいような複雑な気持ちで、リオンはとりあえず愛想笑いを浮かべた。
二十分ほど街道を走ったところで、馬車はゆるやかに止まった。
ここからは歩きだ。馬車を降りた冒険者たちは、勇者を先頭に山の中に入る。
リオンたちは最後に続き、最後尾はダンが務めた。
木々の間を縫うようにして狭い獣道をしばらく登ると、目的地が見えてくる。
山の中腹あたり、森の木々の途切れた先の山肌にぽっかりと開いた大きな洞窟があった。
晴れた空の下、風にそよぐ木々の木漏れ日が揺れる。
のどかな春の景色の中、そこだけは異様な気配に包まれていた。
焼け焦げたような異臭が漂うそのあたり一帯の木々は、なぎ倒されて炭と化している。むき出しの地面や岩肌の一部は高熱で溶けて崩れ、洞窟の周辺には、火竜に喰われたらしい大型の獣の骨が散らばっていた。
いつの間にか肌がじわりと汗ばんでいる。
春の始めにしては異様なほど暑いのだ。
その熱は、暗い洞窟の中から発されているのがわかった。
ときおり響く地鳴りのような音は、竜の唸り声だろうか。
「こりゃひでぇな……俺らはここでストップだ」
洞窟から三十メートルほど離れた場所で、ダンが立ち止まり、リオンたちをせり出した岩の影に隠れるように誘導する。
「ギルドからの情報では、ターゲットは推定二百歳前後の若い雄の竜らしいが、この様子じゃだいぶ気が荒いぞ」
「……洞窟の中で戦うのはまずいですね。まずはどうやっておびき出すか……勇者の腕の見せ所ですね」
職業柄だろうか、洞窟を見るエルディの目は恐怖にまさる好奇心で輝いている。
「あいつらに倒せるかな?」
果敢にも洞窟に近づいていく冒険者たちを見つめるリオンの隣で、シルフィードが薄く笑いながら呟いた。
「それでは、勇者たちのお手並み拝見といきましょうか」




