おまえらだったのか
まだ薄暗い早朝、リオンとシルフィードが集合場所である聖女像の広場につくと、すでに同行者らしき数人の冒険者がいた。
ベテラン冒険者っぽい人もいれば、吟遊詩人のような人もいる。
冒険者は戦闘要員だろうが、吟遊詩人は勇者の活躍を語り継いでいくために雇われているのだろう。
エリオネルは、そうとう自己顕示欲が強いらしい。まあギルドでのやり取りから察しはついていたが。
しばらく待っているうちに人数が揃いはじめる。
最後に来た三人組が、勇者エリオネル・ライトスターのパーティだった。
「やあやあ、皆さんおそろいのようだね。今日は僕のために集まってくれてありがとう!」
エリオネルがへらへらしながら手を挙げて挨拶すると、その場に集まった冒険者たちは、こぞって憧れと賞賛の目で彼を見た。
エリオネルは深みのある青をベースに金で縁どられた豪奢な鎧に身を包んでいた。宝石をちりばめた派手な意匠のロングソードを腰に差したその姿は、まさに勇者にふさわしい堂々たる風格だ。
レイドバトルの参加者たちがエリオネルの前に集まると、彼は自分のパーティメンバーを紹介してくれた。
「魔導士のラヴィスくん。そして僧侶のイデアちゃんだ。みんな、仲良くしてくれ」
ラヴィスと呼ばれた若い男が会釈する。ひょろりと背が高く、茶色い髪を後ろで束ねている。細い目に銀縁の片眼鏡が神経質そうな印象だ。質の良い深緑のローブに身を包み、値打ちものらしい大きなオーブがついた杖を持っていた。
隣のイデアは、昨日ギルドでエリオネルと一緒にいた女だ。肩まで伸ばしたサラサラの青い髪に、大きな紺色の瞳の美少女。白を基調として縁に金をあしらった僧侶服が、見る者に清楚かつ高貴なイメージを与える。彼女は年季の入った古木の杖を持っていた。
リオンはエリオネルたちの高級そうな装備品を見ながら、Sクラスの冒険者って、やっぱ金持ちなんだなと思った。
参加者は勇者パーティを入れて全部で二十五名。
これから、お互いの自己紹介の流れかな、と思ったら、他の冒険者達の自己紹介は割愛された。
エリオネルにとっては、その他大勢は名前を覚える価値もないらしい。
そして、なぜかエリオネルの演説が始まった。
「僕たちはつい先日まで、キグナシア帝国から選ばれた勇者の一人として、魔族の国フレスイードで戦ってきた。そこでは様々な強敵が立ちはだかってきたが、僕たちは人間の勝利のために臆することなく立ち向かってきた。そして、一定の成果を得て、報告のためにキグナシアに帰国するところだった」
これまでのあらすじのような内容だ。
熱の入った弁を奮うエリオネルの後ろで、魔導士と僧侶は背景に徹している。
なるほど、勇者の背景に彼らがいると絵になる。ビジュアルで選んだんだろうか?
集められた冒険者たちは勇者の演説を感銘を受けたように聞き入っているように見えるが、雇い主の勇者に忖度しているのだろうか?
この状況にさまざまな疑問が湧いてくる。
リオンは自分と他の人達との温度差に居心地の悪さを感じた。
救いを求めるように隣のシルフィードを見ると、目を閉じて穏やかな顔で瞑想していた。寝ているのかもしれない。
憧憬と賞賛に満ちた聴衆の目を集め、エリオネルの演説はヒートアップする。
「アルセの冒険者ギルドに来てみれば、なんと! 街道に近い洞穴に凶暴な火竜が住み着いたというじゃないか! これは勇者として見過ごすわけにはいかない! こうして、僕は勇者の名のもとに君たちと共に討伐部隊を組織したというわけだ! 人助けも勇者の務めだからね」
エリオネルが前髪をかき上げ、キラリと白い歯を見せて笑うと、女性の参加者たちからキャーと謎の歓声が上がった。
冒険者たちが勇者の演説に士気を上げる中、リオンは取り残されたような気分で立っていた。
その時、シルフィードがまっすぐに手を挙げてエリオネルに質問した。
「勇者様、あなたがたの得た一定の成果とはなんでしょう?」
「おお、よくぞ聞いてくれた!」
エリオネルは待ってましたとばかりに続ける。
「魔物がひしめくフレスイードの怪しげな森の中で、僕たちは強敵に遭遇した。強大な力を持った魔族――奴は自ら、炎の四天王バーンハルトと名乗った」
バーンハルト……律儀に名乗ったんだね……
リオンは赤銅色の髪をした大柄な髭のおっさんの豪快な笑い声を思い出す。
あいつの自己顕示欲も大概だ。
……っていうか、バーンハルトが会議で言ってた勇者って――エリオネル、おまえらだったのか!
「炎の四天王との戦いは苛烈を極めた! だが僕たちは三人で力を合わせ、勝利を信じて戦った! そして死闘の末、ついに四天王を倒したんだ! ――だが、残念なことに、止めを刺す前に逃げられてしまった……」
俯いて悔しげに拳を震わせるエリオネル。
バーンハルトは、勇者の方が逃げ帰ったって言ってたけど……?
リオンは怪訝な顔で首を傾げるが、周りの冒険者たちはエリオネルに感情移入し、悔しげに唇を噛みしめている。
「だが!!」
言って、エリオネルは顔を上げる。
「四天王バーンハルトとの戦いは、しっかりとこの身体で記憶した。次に会ったら必ず倒す! そして、僕たちのこの経験は必ずしや魔族たちを打ち倒す力となるだろう!」
力強い勇者の言葉に、冒険者たちが歓声を上げる中、シルフィードがリオンの耳元で囁く。
「やはり勇者たちは、フレスイードの情報を得るための斥候で間違いないですね」
リオンは頷く。
シルフィードの父、智将と名高い風の四天王カーディナルの見解は正しかったのだ。
勇者の熱い演説が終わると、レイドバトルの参加者たちはぞろぞろと大通りを通り、アルセの関所門に移動した。
火竜の住み着いた洞窟は、アルセ谷の街道に面した山の中だった。
目的地に行くには関所門を通り、街道から山に登るのが最短ルートだ。
たとえギルドの依頼でも、関所門をくぐるには例外なく通行証が必要だ。
そう、またしても通行証の出番だ。
リオンはこれを使うたびに譲ってくれた見知らぬ旅人に感謝する。
門番の前に通行証をかざして、すみやかに通り抜けたリオンの後ろで、何やらもたつく声がした。
「あれ? たしかここに入れたはず……」
エリオネルが懐のあたりをまさぐっている。
その横で僧侶イデアも焦った顔で道具袋をゴソゴソしていた。
後ろで魔導士ラヴィスが細い目をさらに細めて苛立たしそうに言った。
「エリオネル、イデア、まさかまた通行証を失くしたなんて言わないよな? 再発行手続き、クソ面倒くさかったんだぞ」
(まさか……)
リオンがシルフィードを見ると、ニヤリと口端を上げて人の悪い笑みを浮かべている。
そうか、通行証を譲ってくれた親切な旅人は、おまえらだったのか……
すべてを察したリオンは、通行証を探してもたつく二人を、あたたかい目で見守った。
その後、エリオネルたちの通行証は荷物の中から見つかり、冒険者たちは全員そろってアルセの関所門を通り抜けることができたのだった。




