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冒険者ギルド

 リオン達は、ひとまず計画通りに魔族の金貨を人間の通貨に両替することにした。

 金銭の両替施設は冒険者ギルドの中にあるらしい。


 聖女の像がある広場から大通りを抜けると、ひときわ大きな建物が目に入る。

 そこがアルセの街の冒険者ギルドだった。

 二階建ての石造りの館で、外観は砦を思わせる重厚な作りだ。黒光りする木でできた両開きの扉の上には、交差する剣と翼を模したギルドの紋章が飾られている。

 建物の前には厳つい鎧を着た冒険者や、荷車を押す商人、馬を引いた旅人など、様々な人々が行き来している。その、いかにもな冒険の雰囲気にリオンの心は踊る。

 馬のメアを外の厩舎に預けて、リオンたちは建物の中へ向かった。


 扉を開けて初めに目に入ったのは、様々な冒険者たちがたむろする中央の広間だ。

 素朴な木の内装が天井の梁から吊るされた橙色のランタンに照らされ、どこか温かい雰囲気を醸し出している。

 建物の左側にある食堂兼酒場から賑やかな喧噪が聞こえてくる。肉の焼ける香ばしい匂いが、リオンの胃袋を刺激した。

 しかし食事の前に、使えるお金を準備しなければ。


 冒険者ギルドの中には、冒険者のための様々な機関が備わっていた。

 中央の広間には様々な依頼を取り扱うカウンターに、依頼書がびっしりと貼りつけられた掲示板。その前では依頼を求める人々が内容を吟味している。

 掲示板の手前側に木製の机と椅子が並んでいて、冒険者たちが座って談笑していた。そこは、待機や待ち合わせのために使われているようだ。


 右側には武器や防具の売買・修理を行う店や、アイテムの売買を行う店がある。

 そしてその奥に、魔物から得た素材などを査定して買い取る場所がある。そこで通貨の両替も取り扱っているらしい。

 シルフィードはフレスイードのゴールドバルと呼ばれる金貨を二枚取り出し、カウンターで両替を依頼した。

 店員の眼鏡をかけた白髪頭の老人が、神妙な顔で金貨を眺める。


「これは魔族の金貨だね。あんたたち、フレスイードで商売してきたのかい?」

「そうですけど、何か問題でも?」


 老人は、申し訳なさそうに首を振って、金貨を返却した。


「残念だが、つい十日ほど前に国からお達しがあってね。この通貨は取り扱いができないことになった」


 な、なんだってー!!! 

 

 驚愕の表情を浮かべる二人。

 現実は無常である。

 

 ――『すぐに金貨を二枚ほど両替して、荷馬車と適当な商売用の荷物を買いましょう』


 そう言ったシルフィードの得意げな顔がリオンの脳裏によみがえる。

 智将と名高い四天王カーディナルの息子の完璧な計画も、お金がなくては実行不可能である。

 作戦変更。

 リオンとシルフィードは、依頼掲示板の前にある待機所の片隅でヒソヒソと話し合う。

 

「とりあえず今日の食費と宿代だけでも、どうにかしないとな」


 春とはいえ、ここは大陸でも寒い地域だ。夜は殊更に冷える。野宿用の道具もないので、建物の軒下でも借りて震えながら眠るしかない。一晩だけならまだしも、何日もそんな生活は避けたい。

 とにかくお金が必要なのだ。

 

「そうだ、オレのつけてる指輪、どれか売れないかな?」

 

 リオンが魔王である父からお守り代わりにもらった指輪は三つ。それぞれに物理耐性アップ、魔力アップなど付帯効果付きの高級品だ。


「ダメですリオン様。これは一介の旅人が持つような品ではない。売りに出せば身分を疑われます」


「じゃあ他に売れるようなものは……」


 リオンとシルフィードは一通り所持品を調べる。

 二人がフードつきのマントの下に身につけている服や装飾は高価だが、売りに出せば足がつくようなものばかりだった。

 その他で売れるようなものはない。

 シルフィードはとりあえず金があれば現地調達できると考え、換金できるような品を持ってきていなかった。食料も最小限の保存食のみだ。


「どうしようシルフィード……」


 リオンの不安げな視線を受け、シルフィードは決意した。

 

「……こうなったら背に腹は代えられません。私のツノを折って売りましょう」

「何を言い出すんだシルフィード!」


 ぎょっとしたリオンの前で、シルフィードは顔色一つ変えずに淡々と言う。 


「魔族の素材は高く売れるはずです。ツノ一本ぐらいなら、しばらくすれば再生するので大丈夫です」


 リオンは青ざめる。

 大丈夫なわけない。

 ツノは魔族の象徴。そして魔力のコントロールに深く関わる大切な器官だ。

 魔族にとって、角を折られるというのは大変な屈辱である。

 その上、魔力のコントロールが乱れると、身体にも様々な悪い影響が出てくるだろう。 


「ダメだ、シルフィード!」

「しかしリオン様、このままでは今夜の宿代もありません」

「だからって身体を売るなんてダメだ! 頼むから、もっと自分を大切にしてくれ」

「リオン様を野宿させるよりマシです」


 いつのまにか言い争う声が大きくなっていた。

 周りの冒険者が、聞こえてきたリオン達の会話にあやしげな雰囲気を感じてざわざわヒソヒソしている。


 その時、リオン達の座るテーブルに一人の冒険者らしき男が座った。

 

「お取込み中失礼だが……金に困っている様子だね」


 リオンとシルフィードの怪訝な視線をものともせず、男は余裕に満ちた笑みを浮かべる。


「身体を売るなんて穏やかじゃないな。ここは冒険者ギルドだ。ひとつ僕たちと一緒に依頼を受けてみないか? ちょうど人数が欲しかったところだ」


 男は気障な仕草で豪奢な金髪をかき上げる。青い目がキラリと挑戦的な輝きを放った。


「僕の名はエリオネル・ライトスター。キグナシア帝国に任命された勇者だ」 

「勇者……」


 リオンが呆然と呟く。

 勇者、ということは、魔王の仇敵。

 フレスイードを滅ぼそうとしている魔族の敵だ。

 ざわり、と反射的に魔力が高揚した。

 リオンの中に流れる魔族の血が、目の前の男を排除しようとする。

 フードの下で緋色の角が伸びてきて、リオンの目の色が緑色から血のような赤に変わる。


「リオン様!」


 シルフィードに腕を強くつかまれて、リオンはハッと我に返った。

 リオンの横でシルフィードは、エリオネルに向かって穏やかに言う。

 

「我々は冒険者ではなく、未熟な旅商人です。勇者様のお役に立てるとは思えません」


 冷静にそう返したシルフィードに、エリオネルは優しげに笑いかける。


「冒険者登録は誰でもすぐにできるよ。それに、欲しいのは戦闘員じゃなくてギャラリーだ。君たちの他にも二十名ほど冒険者が来る。君たちは、ただついてきて、見てるだけでいい。そして戦闘が終わった後に、僕の輝かしい功績を多くの人に語り継いでくれたらいいんだよ。どうだい? 悪い話じゃないだろう?」


「……依頼の内容は?」


 シルフィードの問いに、エリオネルは依頼書を見せた。


「火竜一頭の討伐、もしくは撃退」


 依頼書の内容は、討伐で三万ルクス (金貨三枚)。撃退で二万ルクス (金貨二枚)。

 素材は別途査定の上買取り。出発は明朝。

 

「報酬の分担は?」

「貢献度に応じて分担するが、ギャラリーは一人あたり銀貨三枚程度かな? なんなら前金で二人分、銀貨二枚払おう。悪い話じゃないだろ?」


 エリオネルの言葉に、シルフィードが頷く。


「わかりました。その話、受けましょう」

「シルフィード!? それは……」

「大丈夫ですリオン様」


 小声で囁いたシルフィードに、リオンは渋々言葉を飲み込んだ。

 リオンは無言でエリオネルを見る。

 勇者に相応しい堂々たる体格に、金髪碧眼の甘いマスク。

 全身から自信に満ちたオーラが滲みでている。

 彼の後ろで、白い僧侶服を着た青い髪の女が、小声で囁くのが聞こえた。


「ちょっとエリオネル、勝手に人数増やしていいの?」

「二人ぐらいなら問題ないよ。金に困った旅人に手を差し伸べる勇者……美談だろ?」


 エリオネルの言葉に、女は呆れたように肩をすくめた。


 勇者から前金で銀貨二枚を受け取ったシルフィードは、リオンを連れて冒険者の登録をするためにカウンターに向かった。


 こうして、リオンは設定上、旅の商人から冒険者にジョブチェンジしたのだった。

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