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勇者への道

 食事を終えると、リオン、シルフィード、エルディの三人は食堂からギルドの受付カウンターに移動した。

 受付嬢が三人に向かってにこやかに用件を尋ねる。

 エルディは金のギルドカードを片手ににっこり微笑みながら、隣に立つリオンの肩に手を置いた。


「ここにいるFランク冒険者・リオンとシルフィードをAランクに推薦します。ランクアップの飛び級(スキップ)を認めてください」


 突然のことに、受付嬢の笑顔がフリーズする。

 周囲にいた冒険者たちもざわめいた。

 FランクからいきなりAランクに推薦というのは前代未聞だ。

 受付嬢は落ち着きを取り戻すために深呼吸すると、とりあえずマニュアル通りリオンとシルフィードにギルドカードの提示を求めた。

 カードには二人が達成した依頼や報酬獲得額が記録されている。

 それを見た受付嬢は、またもや凍り付いた。

 リオンとシルフィードが受けた依頼は、火竜討伐のレイドバトルのたった一件だけ、しかもギルドの記録上は何の功績も立てていない。

 こんな状況でAランクに推薦とは、受付嬢が戸惑うのも当たり前だった。


「し、少々お待ちください」


 そう言い置いて、受付嬢は一旦奥に引っ込んだ。

 状況を聞きつけた冒険者たちが周囲に集まってくる。

 好奇に満ちた視線が遠慮なく浴びせられ、ヒソヒソと陰口をたたく気配がする。

 リオンは居心地の悪さに、もう帰りたいと思った。


 しばらくして現れたのは、ギルドの紋章入りの紺色のマントに身を包んだ壮年の男――アルセのギルドマスター、ルイタスだった。

 受付嬢から事情を聞いた彼も非常に困惑している様子だった。

 リオンたちの顔と依頼達成記録を交互に見ながら、ルイタスはうーんと唸る。

 そんなルイタスに向かって、エルディはニコニコと笑顔を向けた。


「ルイタス、僕が推薦します。この二人はAランク相当で間違いないですよ」

「ええと……いくらエルディの推薦でも達成依頼が一件でAランクというのは、前代未聞でな……」

「僕が信用できないとでも?」 


 エルディの顔は笑っているが、笑顔の影に底知れぬ威圧感が漂っているようにリオンには思えた。

 ベテラン冒険者の風格を持つルイタスでも、エルディの前で動揺を隠せない様子だ。

 こいつはエルディに弱みでも握られているのだろうか?

 エルディの笑顔の圧に、ルイタスはあっさり負けた。

 こうして、リオンとシルフィードのAランクまでの推薦はあっさり受理された。 

 しかし、ギルドのルールとして、推薦で免除されるランクアップ条件は、報酬獲得額か依頼達成数のどちらか一つだ。

 とりあえずリオンとシルフィードは2200ルクスの獲得額により、Dランクに上がることになった。

 その後、Aランクに上がるまで、エルディの推薦の効力は続くことになる。




 リオンとシルフィードの昇格を見届けると、エルディはキグナシア帝国へ旅立った。

 エルディによると勇者エリオネルの一行も今朝早くキグナシアに向かったらしい。

 彼らがキグナシアに報告するフレスイード情報はどんなものか気になったが、そのあたりは守秘義務があるらしく、エルディに聞いても教えてくれなかった。


 エルディは旅立つ前、リオンたちに百枚ほどの紙の束とインクをくれた。

 転送紙と呼ばれるツルツルした手触りの薄緑の紙と、緑色のインクだ。

 特殊な素材でできていて、ギルドアドレスを通して手紙をやりとりする場合はこの紙とインクしか使えない。

 ギルド内のアイテム屋で販売しているが、そこそこ値が張るのでタダでもらえるのは嬉しい。

 紙とインクを渡すかわりに、エルディは二つのことを要求してきた。

 一つ目、別の街に移動したら手紙で報告すること。

 二つ目、その他にも、何か面白いことがあったら報告すること。

 一つ目はのちに合流するためだが、二つ目は完全にエルディの趣味だろう。



   

「まだDランクかー、先は長いな」


 ギルドの待合所の椅子に座り、リオンはDランクの黄色いギルドカードを眺めながらため息をついた。

 隣でシルフィードが笑う。


「そうでもありませんよ。Dランクで受けられる依頼はそこそこ稼げそうです。推薦のおかげで獲得金額さえクリアすればCランクまでは昇格できます」

「Bランクは?」

「そこからは一筋縄ではいきません。Bランク以上の飛び級(スキップ)条件は、二人以上からの推薦を受けた上で、昇格試験に合格する必要があります」

「うえっ、試験があるのかー」

 

 リオンが顔を顰める。

 そういえば勇者も選抜試験があるんだった。

 試験なんかで人の価値を決められてたまるか、とは思うものの、それがルールなら仕方がない。

 リオンは世の中の世知辛さを噛みしめた。

 

「しかも、エルディの他にもう一人推薦人が要るとか……やっぱりギルドマスターを操る作戦しかないんだろうか……」


 暗い顔で言ったリオンの前で、シルフィードが苦笑する。


「そんなことしなくても、リオン様には旅の間に培った人脈があるじゃないですか」

 

 そう言って差し出されたシルフィードの手の上には、エルディにもらった転送紙に書かれた手紙があった。

  

「勇者エリオネルに、この手紙を出してください」


 リオンは手紙を受けとる。

 シルフィードはいつの間にこんなものを書いたのだろう。

 リオンは一応、手紙を開いて内容を確認した。

 そこには見たことのある筆跡で文章が書かれていた。


 (……って、これ、オレの字だよね……)


 シルフィードがリオンの筆跡を真似て書いた手紙は、リオンにとっては非常に不本意な内容だった。


 親愛なるエリオネル様。

 私はあなたに憧れるあまり、勇者を目指すことを決意しました。

 勇者試験を受けたいので、Aランクになれるように推薦してくれませんか?

 どうぞよろしくお願いします。

                       リオン

 P.S. ついでにシルフィードも推薦お願いします。


(……だから、なにがP.S.だよ……ついでにってなんだよ……)


 リオンは手紙を開いたまま、がっくりと脱力する。

 確かに、エリオネルに勇者パーティに勧誘されたときに「推薦状を出してやろう」みたいなことを言ってた気がするけどさ……


「エリオネル、こんなので推薦してくれるかな……」

「絶対に大丈夫です」


 げんなりした様子のリオンとは対照的に、シルフィードは自信満々だった。

 本人の希望はさておき、目的の達成のために、リオンは最速で勇者への道を歩きだしていた。


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