討伐報酬と今後の予定
火竜討伐の翌日、リオンとシルフィードは報酬を受け取りにギルドに赴いた。
このたびの依頼で二匹の火竜を撃退した人物については、ギルドの綿密な調査をもってしても、わからなかった。
――ということになっていた。
エリオネルは、リオンたちが応接室で話した内容を口外しないという約束を守ってくれたのだ。
火竜討伐の報酬金55000ルクスは、先導者であるエリオネルの意向もあり、レイドバトルに参加した二十五名で平等に分配することになった。
つまり一人当たり2200ルクス(銀貨22枚)が取り分となり、リオンとシルフィードは二人で合計4400ルクス(銀貨44枚)を得ることになった。
当初は二人で銀貨6枚の案件だったことを考えると破格の取り分だ。
「儲けたな!」
ギルドのカウンターでニコニコしながら金を受け取ったリオンの横で、シルフィードは肩をすくめて小声で呟く。
「本来ならば、報酬の大半を受け取る権利があるのはリオン様なのですが……」
「それを言ったらおしまいだろ。まあ、これで当分、金の心配はしなくていいな」
とりあえず、数日分の生活資金は確保できた。
あとは、これからどうするかだ。
リオンとシルフィードは昨夜、宿に戻ったあと、今後の旅の計画について話し合っていた。
目的は、キグナシア帝国の大聖堂にいる聖女ラスティアに会うこと。
そして、彼女の正体が、死んだと思われていたリオンの母ソフィアであるならば、何故そこにいるのかを直接問いたい。
先を急ぐならば、街道を無視して山脈側から国境を越え、一気にキグナシア帝国に入り、大聖堂を目指して強行するという手も考えた。
だが、さすがにたった二人で敵地の真っただ中に飛び込むのは無謀すぎる。
失敗すれば不法侵入の罪で牢に入ることになるだろう。
さらに、自分たちが魔族だということが判明したら、魔族と人間の戦争のさらなる火種となりかねない。
できれば強行突破ではなく、平和的な方法で大聖堂まで辿り着きたい。
それには、人間の旅人のふりをして、エターナ国内の街道を通り、正式ルートでキグナシア帝国に入ることが最善だと思われた。
キグナシア帝国に入るための許可証も必要になってくるが、道中でどうにかして調達する方法を探す。
それに、このルートを選ぶ理由として、リオンの母ソフィアが盗賊に襲われた現場付近での情報を集めるという目的もあった。
ソフィアが襲われたのは、アルセの街とエターナの首都ルノリアを繋ぐ街道だ。
「とりあえず次の目的地はルノリアですね」
シルフィードの言葉にリオンは頷く。
「じゃあとりあえず、旅の支度でもするか。人間の旅人っぽい服でも買おうぜ」
そう言って、ギルドの建物内にある防具屋に向かおうとしたところで、リオンは呼び止められた。
振り返るとそこには、亜麻色の髪の美貌の吟遊詩人エルディが手を振っていた。
「リオン、ギルアド交換しませんか?」
にっこり笑いながらそう言われて、リオンも反射的に笑顔を返す。
「いいけど、エルディってギルドカード持ってたの?」
エルディは火竜討伐で名乗ったときは冒険者ランクは言っていなかったし、何より雰囲気が冒険者っぽくなかったので、リオンはてっきりギルド外の人だと思い込んでいた。
エルディはふふっと笑ってギルドカードを差し出す。
その色は金――つまり冒険者の最高位、Sランクだ。
驚きに目を見開いて口をパクパクさせているリオンの前で、エルディは相変わらず無邪気な笑顔を浮かべていた。
「驚きました?」
その瞬間、シルフィードがリオンとエルディの間に割って入った。
「おまえは何者だ?」
リオンを背後に庇うようにしながら、シルフィードは低い声でエルディに尋ねた。
「ああ、そんなに警戒しないでください。って言っても無理だよね……僕は、吟遊詩人っていうのは副業っていうか、まあ仕事の一部ではあるんですけど……」
エルディは笑顔のまま、言葉を濁した。
シルフィードは険しい表情でエルディを睨んでいる。
「私たちに近づく目的はなんだ?」
「目的はギルアド交換と、できれば仲良くしたいなーなんて……僕、君たちに興味があるんです」
顔を強張らせるリオンとシルフィードの前で、エルディの瞳が妖しくきらめく。
「それに――正体を隠してるのはお互い様ですよね?」
ふいに、空気が変わった。
張りつめた緊張感の中で、シルフィードは、瞬間的にエルディに気絶の魔法をかけようとした。
しかし、エルディは姿勢を低くしてかわし、まるで舞うような動きでシルフィードの背後を取り、リオンの腕を掴んだ。
驚きに身体を強張らせるリオンの横で、シルフィードは悔しげに唇を噛みしめて、エルディを睨む。
「こんなところで争うのはやめて、平和的に話し合いましょう」
エルディはリオンの腕を掴んだまま、柔和な声でそう言って、ギルドの奥の食堂を指差した。
「とりあえず、あちらでお食事でもしながら話しませんか? 奢りますよ?」
二人に向けられたエルディの笑顔には、勇者にも匹敵するSランク冒険者の有無を言わせない迫力があった。




