第六章『死の真相、王子はフォークで死んでいなかった?』
フォークを突き立てられたとき、王子殿下は――「うぐっ」と声を上げた。
つまり、即死ではなかった。
では、どうして、彼はあの場で亡くなったのか。
――わたくしが刺したのは、致命傷ではなかった?
「……検察側、先ほどの証言に基づいて、医学的見解を確認したいのですが」
セオドア検事が書類をめくり、急いで後方の医師を呼び出す。
「……ええと。王子の死因は、“心臓への刺突による即死”とされていましたが、目撃者の証言により、死の直前に発声があった可能性が出ています」
「つまり?」
裁判長が身を乗り出した。
「つまり……再検査の必要性が――」
「いいえ、わたくしが言いましょう」
わたくし、クラリス・エヴァンス。
自らフォークを握って王子を刺した、このわたくしが――この謎に答えてさしあげます。
「確かに、あの一撃で即死はしていなかったはずですわ。殿下の顔には驚きの表情が残っていましたし――なにより、“手が動いた”のを覚えていますもの」
「そ、それはつまり……!」
「王子殿下は、刺されたあとも生きていた。数秒か、十数秒ほど。でなければ、あんなふうにわたくしの腕を掴むことなどできませんわ」
傍聴席が、騒然となる。
セオドア検事は、震える声で問いかけた。
「では、王子の死因は……?」
「おそらく――窒息ですわ」
「――ッ!!」
わたくしは静かに、凶器の“ただのフォーク”を見つめながら語り出した。
「殿下の口元に、泡のような血が溜まっておりました。肺か喉か、どこかに傷が入ったのかもしれません。でも、刺された時点では生きていた。それなのに数秒後には死んだ……おかしいと思いません?」
そう、決定的におかしい。
「では、なにかとどめを刺す要因が――」
「ありましたわ。魚です」
「は?」
「わたくしがその夜お出しした、白身魚のグリル。骨が多くて有名な、“ヴァルトサーモン”」
「魚の骨で――?」
「ええ。刺されたショックで殿下が口にしていた魚の骨が、気道に入り――窒息した可能性がございます!」
ああ、なんということ。
フォークでは死なず、魚で死んだ王子殿下――
これを、悲劇と言わずして何と言いましょう。
「クラリス様……それを今言うのは……」
「今だからこそ、言うのですわリサ。これは、“ただ刺しただけの令嬢”にしては重すぎる罪ですわよ?」
「……意味がわかりません!!」
でも、これでいいんです。
わたくしは、刺した。
けれど死なせたのは――魚。
フォークは演出、刺突は助演、死因は魚。
「では、被告クラリスは……?」
「刺したことは認めます。ですが、死因を作ったのはわたくしではありません。殿下の口の中に潜んでいたサーモンですわ」
「被告、それは言い訳としてあまりにも――」
「いいえ。サーモンの骨をそのままに出した料理人こそが、真の元凶です!」
「責任転嫁がとどまるところを知らない!!!」
でも――
法廷は、もはや動かざるを得ませんわ。
わたくしは、フォークを掲げて言いました。
「証拠保管室にあるもう一本のフォークも! 死因となった魚料理の残りも! すべてを調べるのですわ!」
――この瞬間。
犯人であるわたくしが、自らの無罪を証明するために動き出したのです!