最終章『審院決戦! 王国vsクラリス、最終弁論の行方』
場所は王都の中枢――王国大審院。
高い天井、荘厳なステンドグラス、そして何より空気が重い。
陪審員評決の分裂を受け、王国は「これは前代未聞の事件である」として、異例の直審判決へと踏み切った。
すなわち、王国三大法官による即時判決。
そして被告席には――
「どうも。わたくしですわ」
クラリス・エヴァンス(フォーク携帯)。
いまだに右手に“凶器かもしれないが違うかもしれない銀製フォーク”を握って立つ、公爵令嬢。
「クラリス殿。最後に弁明を」
三大法官のうち、中央の厳つい男が口を開いた。
クラリスは静かに立ち、深々と礼をした。
「……王子殿下を刺したのは、わたくしです」
場内がざわつく。
けれど彼女は、続けた。
「ですが――殿下はその後も生きていた。命を奪ったのは、処理の不十分な密漁魚。毒素か、あるいは鋭い骨か。真相は藪の中ですが、いずれにせよ、わたくしのフォークではなかったのですわ!」
「だが、あなたは刺した」
「はい。でもそれは、愛情表現の一環ですの。愛とは、甘美なる狂気。ときに刃物より鋭く、フォークより突き刺さるもの――」
「詩的表現でごまかすな」
「……詩的表現を禁じられたら、公爵令嬢に生きる道はありませんわ」
クラリスは微笑み、静かにフォークを置いた。
それは、まるで戦場の剣を捧げるように。
「これが、“わたくしなりの誠意”ですの」
「……よし、では判決に入る」
中央の法官が、厳かに口を開いた。
⸻
【判決】
「クラリス・エヴァンスは、確かに王子を刺した。だが死因が彼女の行為によるものかは疑わしく、密漁魚に起因する重大な管理責任が別に存在する。ゆえに本審院は――殺人罪については無罪とし、フォークによる暴行罪および公務妨害にて有罪とする」
⸻
――静寂。
クラリスは、ゆっくりと口角を上げた。
「ふふっ……つまり、“刺したけど、殺してはない”ということで勝利ですわね?」
「勝利ではない。罰金五千ゴールドだ」
「ええ……!? それ、フォーク三万本買える額ですわよ!?」
「あと、凶器と認定された“サーモン”は、王国により即日焼却処分された」
「供養もされずに……!?」
⸻
こうして、クラリスは“刺したのに殺していない女”として、王国史に名を刻んだ。
王子は死んだ。魚も死んだ。
でも、クラリスは、生き残った。
⸻
【エピローグ】
罰金の支払いを終えたクラリスは、叔母と共にお茶会を開いていた。
「まぁ、よくぞ刺して返ってきたものねぇ、クラリス」
「ええ。わたくし、これからは人を刺さずに生きると決めましたの」
「本当に?」
「……フォーク以外で」
「変わってないわね!!」
――そう、彼女は変わらない。
だってそれが、クラリス・エヴァンス公爵令嬢。
優雅にして傍若無人。
常識を突き刺し、理屈を叩き斬る。
刺して、笑って、生き延びる。
これが、彼女の生き方なのだからーー
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