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第一話 神器遭遇

『……──異世界転生』


 一様にそうまとめられるライトノベル群、 それら全ての物語はその名の通り、『転生』から始まる。


 ただ転生にもそれぞれの個性があって。


 まず死ぬ前、事故か他殺、はたまた自殺か。


 次に“中間”、例えば神様と対話していたり、なにかの暗示的な夢をみたり、そもそもそんなものなかったり。


 最後に異世界にて。

生まれた場所・身分・時勢、生まれ変わった肉体は赤ん坊か、元の肉体か。

 

記憶を思い出すタイミングはいつだろうか。生まれた直後、物心ついた時、もしくは物語の核となるような決定的なシーンへの遭遇なのかもしれない


数ある選択肢とその組み合わせ、無数に分類される転生の中に“善し悪し”があるのは言うまでもない事だろう。



 しかし……、しかしだ。



「…………これは流石に残酷すぎやしませんかねぇ、神様……?」



 ◇◇◇


血と汗の臭いが混ざり、異様な臭気が立ち込める戦場。その開戦から既に数時間が経っていながら、未だ両軍は激しい衝突を続け、お互いに一歩も譲ることはなかった。


大地は血の海と化し、至る所で昂った戦士の咆哮と、蹂躙された兵士の悲鳴を聞こえてくる。


 そんな中、一人の少年兵が地に伏し、無数の死体に紛れて潜んでいた。


 その少年の名前は《トッド》、今しがた前世の記憶を取り戻したばかりの『流れ人(転生者)』だ。


 (くそぉ……、せっかく記憶を取り戻したってのに、こんなんじゃここから生き残れるかもわかりゃしねぇ……。)


 彼はいわゆる“転生者特典”も“ゲーム知識”と言った類の物ももちあわせていない。ただ骸の下、息を潜めてこの戦役が終着する事を願う事しかできない。


 トッドがこの場にいる理由、それは“くじ引きに負けたから”だ。


 彼は至って平凡な農家の次男坊として生まれた。畑を継げる訳でもないのでどうにか職を得て働こうと考えていたところ、村に届いた徴兵令。


 ……──“一五歳から二五歳の男で十五人”。


 結果、継げる土地も家業もないような情けない男子共を集めてくじ引きをする事になり……。


 その結果は言わずもがなだ。


 トッドに同じく、くじ引きに負けて連れてこられた幼馴染二人は既に、血に狂った戦士達の手によって見るに堪えない姿に変えられていた。


 (バーク……、ドントロっ……!どんだけ無様を晒しても、お前らの分まで生き延びてやるからなッ!!)


 心中でそう呟き、亡き友に誓うトッド。


 ……──そんな折だった。


 大地を伝いトッドの腹を揺らす振動。


 ドシン、ドシンっ、ドシンッ!


 響く度にその強さをましていく大地の唸り、それはまるで今から差し迫る、とてつもない災厄を暗示しているかのようであった


「……──ガッハッハッハッハッ!!!!」


 戦場に似つかわしく無い、豪快な笑い声。無数の悲鳴を伴って戦場に響くその声の方に、トッドは恐る恐る視線を向ける。


 そして、あまりの恐怖に身を竦ませた。


 そこにいたのは『鬼』だった。


 二メートルをもゆうに超える巨躯に、闘牛かの如く纏われた筋肉の鎧。全身を返り血で赤く染め、破顔の笑顔を面相に張り付かせて兵士たちを蹂躙する。


 トッドにはその男に覚えがあった。

 兵士のイロハを教えてくれた若き教官から聞かされていた。


 『人の二倍の背丈の大男』、そんなやつにあったら一目散に逃げろと言う。当たり前だ、そんなやついるとも思えないし、万が一戦うなんて選択肢があるはずがない。


 普段真面目な教官の、精一杯の冗談と思って受け流していたが、その真剣な様子にどこか違和感を抱いていたのを覚えている。


 『……覚えておけ、やつの名前は──、』



「……──“紅き巨人”のヴァンドロスッ……!」


 古き巨人の血を引いた狂戦士、()()の英雄がトッドの方を正眼に構え、一切の怯み無く猛進していた。


 (……──このままだと死ぬッ!?)


 直感的にそう悟ったトッドは、弾けるように屍の下から這い出し、ヴァンドロスの進路の外へと走る。


「!?、おいお前ッ、武器を持たずに何をやっている!!」


 名も知らぬ上官からの怒声、普段ならそれだけでピシリと身を正せるものだが、トッドは半狂乱でそれを無視する。


 (死にたくないっ、死にたくないッ!!)


 (折角、前世の記憶を取り戻したんだ!この異世界でやりたいことがいっぱいあるんだ!……冒険とか、異種族恋愛的なのとか、……まだ僕は、何も叶えられてないんだよッ!!!!)


 そのままその側を駆け抜けようとした時、上官のつま先がトッドの脛を撃ち抜いた。


「ふぐっ……?!」 

「敵前逃亡は許されざる叛意であるッ!! 今、この場で斬り捨てられたくなければ……──、」


 その先を言い切るよりも早く、ゴォンっと唸り声をあげながら振り抜かれた紅き英雄の巨大剣。

 地に伏したトッドの頭上を抜けたそれは、その上官を含めた数十の兵士を磨り潰し、鉄屑まみれのひき肉にかえてしまう。


 トッドはガタガタと奥歯を震わし、涙混じりの視界でヴァンドロスを見上げる。


 空を覆う程に大きな赤いシルエット、その獣の如き双眸がふと、トッドの身体を打ち据えた。


「……──ズゥアッハッハッ!! オメェ運が悪いなア!!」

「……へぇ? あぇ……、あはっ、はッ……。」

「安心しろよぉ〜〜。」


 ヴァンドロスが天に、その剣を掲げる。


「ちゃんとお前もオッ、“勇敢なる戦士の冥土(ヴァルハラ)”に送ってやるさアッ!!」


 振り下ろされた巨大剣、トッドは迫り来るソレに自らの死を幻視し……、



『お前、妙な(カタチ)をしておるな?』



 ──人智を超えた何者かに魅入られた。




 ◇◇◇


 時を同じくして、とある丘陵。


 敵本陣から見えにくい、しかし戦場を俯瞰せしめるその場所に立った壮年の若将軍。


 彼は精悍ながらも深い疲れを感じさせる面相を歪ませ、大地を伝う振動に舌打ちをついた。


「……チッ、ヴァンドロスめ。派手にやりおって、再三注意したというのに……。」


 彼のついた悪態に、隣に立っていた若年の女秘書が反応した。


「しかし、仕方ない事では? 地穿ち(ヴァンドロス)様に『大地に剣を撃ち付けるな』なんて。」


 その明らかに礼と遠慮を欠いた返答に、周囲の参謀達は訝しげな表情をするも、肝心の若将軍はこともなさげに会話を続ける。

 

「そのぐらいわかっているさ。ただ、それでも守ってもらわねば困るのだ。」

「確か、【霊墳堂】ですね。それが崩れるのを危惧してらっしゃるのですか?」

「ああ、その通りだ。 わかっているのはこの付近、地中に存在しているという事だけだ。今、ヤツが穿ったその真下に霊墳堂があったかもわからん。」

「この調子なら、霊墳堂を我々が確保するより先に、地穿ち様に埋められてしまう方が早いかもしれんね。連れて来なかった方が良かったのでは?」

「この戦役で最も重要な目的は霊墳堂の確保ではない。ヤツらに『霊墳堂を確保()()()()』事が重要なのだ。埋まるなら埋まるで都合がいい。」

「なるほど、…………そもそも、我々は何故、霊墳堂にここまで固執しているのですか?」


「“霊器”は知っているだろう。」

「ええ、意識を持った小事象、──精霊が宿った物体や生物の事を指す単語ですね。何か特別な霊器が納められているのですか?」

「端的に言えばそうなるな。だが特別なのは器でなく、それに憑いた霊そのものだ。」


 若将軍は瞳を蘭々と輝かせ、英雄伝を語る子供の様に続ける。


「……──“神霊”、意識を持った大事象、もしくは自律する理そのものだ。

そして不変絶対の法則を押し込めた器を神器と呼び、これは今だ片手の指に収まるほどしか見つかってはいない。

 だが、そのどれも普通の霊器とは一線を画す威力を発揮する。」


 まるで神話の語りを務めるかのような将軍の様子を見て、女秘書は口元を緩ませる。

 

 そんな折、一人の参謀が驚愕の声を上げた。


「なっ……?! それは本当か?! まずい、これはまずいぞっ……!!」


 その尋常でない様相に、遠巻きで様子を伺っていた若将軍が声をかける。


「おい、何があった、私にも報告しろ。」


 その言葉に参謀への報告に訪れていた一人の兵士が姿勢を正した。


「はっ! 右翼中央最前線にて大規模な陥没が発生、敵味方合わせて多くの兵士が落下し、歩兵部隊に甚大な被害が出ております。ヴァンドロス様もそれに巻き込まれたようです。」


「ジークフリート閣下、これは……」


 女秘書が眉を潜め、隣の将軍に視線を送る。

 その視線に若将軍改め、ジークフリートは落窪んた眼窩に粒やかな光を浮かべて呟いた。


「……ああ、目覚めしは神か悪魔か。この戦役は間違いなく、歴史の一幕を担うこととなるだろうな。」


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