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エピローグ:未来への調律

時は流れ、五年後。藤見書房は「星の詩」レーベルの成功で業界の中心となっていた。編集長となった高瀬は、ユリアナの遺志を継ぎ、言葉の力を信じる作家たちを支援していた。


彼のオフィスの壁には、「血の市場の蛇女」の初版本が飾られている。彼だけが知っていた。ユリアナが最後に残したメッセージを。本の最終ページ、印字されたテキストの下に、目に見えない光の言葉で書かれていた真実を。


「私は消えたのではなく、変容した。言葉の海の中で、私は永遠に生き続ける。そして私の言葉を通じて、新たな調律者たちが生まれる」


東京の街。様々な場所で、人々が不思議な経験をする。図書館で「血の市場の蛇女」を読む若い女性の瞳に、一瞬星の光が宿る。詩を書く少年の指先から、微かな銀青色の光が漏れる。彼らは自分でも気づいていない。自分たちが「調律者の子供たち」であることを。


アクシオム帝国では、エリスティアとネクロンの間に緊張を伴った和平が結ばれていた。聖娼の制度は廃止され、代わりに「調律院」が設立される。そこでは、言葉の力を学び、二つの世界の均衡を守る者たちが育成されていた。


ルシエンとアストラルは調律院の指導者となり、ユリアナ=シルヴィアの教えを次世代に伝えていた。彼らは時折、言葉の門の前で彼女の声を聞くことがあった。


現実世界とアクシオム帝国の間には、依然として境界が存在する。しかしそれは絶対的な壁ではなく、透過性のあるベールとなっていた。特に詩人、作家、芸術家たちは、その境界を感じ取り、インスピレーションの源としていた。


そして言葉の門の中心では、ユリアナ=シルヴィアが調律を続けていた。彼女は一つの肉体を失いながらも、言葉となって永遠に存在する。彼女の本質は両世界に浸透し、均衡と調和をもたらす永遠の歌となった。


星の光が地球を照らす夜。どこかの図書館で、一人の若者が「血の市場の蛇女」を手に取る。本を開いた瞬間、彼の心に言葉が響く。


「言葉には力がある。その力をどう使うかは、あなた次第」


新たな物語が、そこから始まる。


ユリアナは消えたのではなく、変容した。その魂は言葉となり、物語となって永遠に生き続ける。そして彼女が残した最も重要な教えは、言葉の持つ二つの力だった。


創造と破壊。拘束と解放。支配と服従。それらは対立するようでいて、実は同じコインの表裏なのだ。


彼女の物語は、聖娼から調律者への旅であり、それは読者一人ひとりの心の中で、今も続いている。


「我々は皆、自らの物語の作者であり、登場人物でもある」


それがユリアナの最後の言葉だった。そして、新しい始まりの言葉でもあった。


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