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第二章:血の市場、舌先の権謀術

第二章:血の市場、舌先の権謀術


アクシオム帝国に戻ったユリアナを待っていたのは、予期せぬ政治的緊張だった。


「ガレウスの裏切りの露呈により、蛇座の貴族たちが動揺しています」ルシエンが彼女に状況を説明する。彼らは「星輪回廊」と呼ばれる、宮殿の空中庭園を歩いていた。足元は透明なガラスのように見え、その下には雲と星々が広がっていた。


「昨日の私の行動が、そんな影響を?」ユリアナは驚いて尋ねる。彼女の最初の試練は、高位貴族ガレウスの忠誠を調べることだった。「瞳の奴隷」の力を使って彼の心を探った結果、彼が皇帝に対して陰謀を抱いていることが発覚。皇帝エリスティアはそれを受けて、ガレウスを即座に処刑したのだという。


「あなたは政治の舞台に足を踏み入れたのです」ルシエンは静かに言う。「アクシオム帝国では、聖娼の一言が貴族の運命を左右します」


その重責に、ユリアナは身の引き締まる思いがする。「でも、私はただ彼の心を見ただけ。裏切りの証拠を見つけたわけじゃない」


ルシエンは立ち止まり、彼女の目を見つめる。「それこそが聖娼の力。『瞳の奴隷』は単なる観察ではなく、魂の真実を引き出す力なのです」


彼らは歩みを進め、「議星院」と呼ばれる円形の大広間に入る。七つの星座を象徴する席が円状に並び、中央には皇帝の星座、「天冠座」の印が輝いていた。


議星院には既に多くの貴族たちが集まっており、彼らの間にはざわめきが広がっていた。ユリアナが入ると、一斉に視線が彼女に注がれる。羨望、恐れ、憎悪、興味—様々な感情が彼らの目に宿っていた。


「あれが新しい聖娼か」「あんな若い娘に、そんな力が?」「ガレウスを破滅させたのは彼女だ」


囁きの波が広がる中、遠くから一人の男性が彼女に向かって歩いてくるのが見えた。「蛇座の当主」と呼ばれるヴィペリウス。ガレウスの親族であり、帝国内で最も影響力のある貴族の一人だ。


彼は中年の男性で、エメラルドのような緑の瞳と、蛇のように冷たい微笑みを持っていた。彼の全身からは、計算された優雅さと危険な気配が漂っていた。


「聖娼ユリアナ」彼の声は驚くほど柔らかかった。「初めまして。蛇座のヴィペリウスだ」


彼が腕を伸ばし、ユリアナの手に軽いキスをする。その接触の瞬間、ユリアナの心に冷たい感覚が走る。彼女は無意識に「瞳の奴隷」を使い、彼の内面を探ろうとするが、驚くべきことに彼の心は厚い壁で守られているように感じられた。


「私の心は簡単には見えませんよ」彼は低く笑う。「私はこの帝国で最も長く生きている貴族の一人。数十人の聖娼を見てきました」


その言葉に、ユリアナは背筋が凍る思いがした。彼はまるで彼女の試みを見透かしているかのようだった。


「今日の議題は、ガレウスの後任だと聞いています」ヴィペリウスは話題を変える。「彼の任務は、帝国と『血の市場』の間の交渉官。重要なポストですよ」


その時、皇帝エリスティアの到着を告げる音楽が鳴り響く。彼は壮麗なローブをまとい、冠を頭に乗せて入場した。皆が膝をつき、ユリアナも従う。


議会が始まり、皇帝は蛇座の次期代表について議論を提起する。ヴィペリウスは自分の甥、オフィディアンを推薦。他の貴族たちもそれぞれの候補を挙げる。議論は白熱し、時に声が荒げられることもあった。


エリスティアはユリアナに視線を向け、小さく頷く。彼女はその合図を理解した。彼女の「瞳の奴隷」が必要とされているのだ。


ユリアナは、それぞれの貴族の心を探っていく。多くは単なる権力欲や野心に動かされていた。しかしオフィディアンの心に触れたとき、彼女は驚くべき闇を感じ取る。彼の心の奥には、皇帝に対する深い恨みと、血の市場を使った帝国の転覆計画が隠されていた。


会議の合間に、彼女はエリスティアに近づき、発見を伝える。皇帝は無表情に聞き入り、短く頷くだけだった。


「オフィディアンは血の市場の商人たちと密約を結んでいました」ユリアナは小声で言う。「彼は…帝国を内側から腐らせようとしています」


「そなたの力は確かだ」エリスティアは静かに答える。「しかし、これは単なる問題の表面にすぎない。真の試練はこれからだ」


会議は続き、最終的に皇帝はオフィディアンの任命を一時保留とし、「聖娼が血の市場の実態を調査する」と宣言した。ヴィペリウスの表情が一瞬崩れるのを、ユリアナは見逃さなかった。


会議後、エリスティアはユリアナを私室に呼ぶ。そこには五姉妹とルシエンも控えていた。


「血の市場は帝国の経済の中心だが、同時に最も危険な場所でもある」皇帝は静かに語り始める。「そこには帝国の法が完全には及ばない。商人たちは自らの法を持ち、自らの王を戴く」


「血の市場には『商人議会』という組織があり、七人の大商人がそれを率いている」ルシエンが補足する。「彼らは表向き帝国に忠誠を誓っていますが、実際には自立した権力を持っています」


「そなたの次なる調律は『舌の術』だ」エリスティアは宣言する。「言葉と舌の動きで相手の心を揺さぶり、真実を引き出し、時に欺く技術だ」


五姉妹が前に進み出る。「私が直接指導する。舌の術は瞳の奴隷より難しい。単に心を見るだけでなく、相手の感情や思考を言葉で操作するのだから」


訓練が始まった。五姉妹は驚くほど厳しい師だった。彼女はユリアナに、言葉の抑揚、口の動き、舌の使い方、呼吸の調整、そして最も重要な「意図の投射」を教える。それは単に説得力のある話し方ではなく、言葉に魂の振動を乗せる技術だった。


「言葉は単なる音ではない」五姉妹は説く。「言葉は魂の振動。正しい振動を与えれば、相手の魂も共振し、心が開かれる」


訓練は一週間続いた。ユリアナは昼夜を問わず、「舌の術」を習得するための訓練に励んだ。時に挫折し、時に絶望したが、彼女の中で何かが少しずつ変わっていくのを感じた。


訓練の最終日、五姉妹は彼女に言う。「明日、そなたは血の市場に向かう。商人議会の長、ジャスミン・レッドクラウンに会い、彼女の協力を取り付けなければならない」


「どうすれば…?」


「そなたの力を信じるのだ」五姉妹は静かに答える。「そして覚えておけ。舌の術は、常に一方通行ではない。相手もまたそなたに影響を与える。どちらが心を開かせるかの駆け引きだ」


翌朝、ユリアナは「血の市場」へと旅立つ。ルシエンが彼女に付き添い、彼らは「星の馬車」と呼ばれる、宙に浮かぶ車両に乗り込む。馬車は星の光で推進され、帝国の都から外れた地域へと向かった。


窓から見える景色は、次第に変化していく。整然とした宮殿区域から、より混沌とした街並みへ。そして最終的に、彼らは「血の市場」に到着した。


その名のとおり、全てが赤く染まった市場だった。赤い絹のテントが立ち並び、赤い提灯が揺れ、赤い煙が立ち上る。そこにはアクシオム帝国中から、さらには他の星系からも商人たちが集まり、様々な商品が取引されていた。奇妙な香辛料、禁断の書物、魔法の道具、そして噂によれば魂さえも。


「ここが血の市場」ルシエンが説明する。「名前の由来は、最初の取引が血の契約だったから。今でも重要な取引には、血の誓いが必要とされます」


彼らは市場を歩き、中心部へと向かう。様々な言語が飛び交い、異なる文化の香りや音楽が混ざり合う中、ユリアナは圧倒されそうになる。彼女は「瞳の奴隷」を使い、周囲の商人たちの心を垣間見る。欲望、野心、恐怖、希望—市場は感情の坩堝だった。


「商人議会の本部です」ルシエンが指さす先には、巨大な赤いパゴダのような建物があった。「ジャスミン・レッドクラウンがそこにいます」


彼らが入り口に近づくと、警備の男たちが道を塞ぐ。「用件は?」


ルシエンが説明する。「聖娼ユリアナ様が、商人議会長ジャスミン様に謁見を求めています」


警備員たちは顔を見合わせ、一人が建物の中へ入っていく。しばらくして彼が戻り、「お入りください」と告げる。


内部は豪華だった。赤い絨毯、金の装飾、そして壁には血の市場の歴史を描いた絵画が飾られていた。彼らは螺旋階段を上り、最上階の広間に案内される。


そこに座っていたのは、妖艶な美しさを持つ中年の女性だった。赤髪は炎のように光り、琥珀色の瞳は鋭く知性を宿している。彼女は赤と金の衣装に身を包み、数々の宝石を身につけていた。


「ジャスミン・レッドクラウンだ」ルシエンが小声で言う。「気をつけて。彼女は七代目の商人議会長。誰よりも狡猾で、誰よりも富んでいる」


「聖娼ユリアナか」ジャスミンの声は、蜜のように甘く、刃のように鋭かった。「若いね。私が見てきた中で最も若い聖娼かもしれない」


ユリアナは一礼する。「お会いできて光栄です、レッドクラウン様」


「遠慮はいらない」ジャスミンは手招きする。「座りなさい。お茶を飲みながら話そう」


彼女の側に若い男性が立っていた。澄んだ青い瞳と、整った顔立ちの、知的な雰囲気を持つ青年。


「私の補佐官、ナインだ」ジャスミンが紹介する。ナインはユリアナに冷たい視線を向けるだけだった。


お茶が運ばれ、初めの挨拶が交わされる。そして徐々に、会話は本題へと移る。


「皇帝陛下が血の市場に関心を持たれている理由は何かしら?」ジャスミンの問いは直球だった。


「陛下は市場と帝国の関係を…強化したいと考えています」ユリアナは慎重に言葉を選ぶ。「特に、オフィディアンを通じた蛇座の介入について懸念を抱いています」


ジャスミンの表情が変わる。「なるほど。あの小賢しい蛇が、また動いているのね」


「彼が何を企んでいるのか、陛下は知りたがっています」


ジャスミンは笑い、ワイングラスを傾ける。「それは簡単よ。彼は私たちを使って、帝国の経済を混乱させようとしている。市場の自由と引き換えに、商人議会に特別な利益を約束したの」


彼女の率直さに、ユリアナは少し驚く。「それをそのまま話してくれるんですか?」


「なぜ隠す必要があるかしら?」ジャスミンは肩をすくめる。「私たちは商人。最高の取引相手は誰かを常に計算している。今のところ、皇帝の方がより良い取引を提供してくれそうだわ」


ジャスミンとユリアナの間で、駆け引きが始まる。表面上は穏やかな会話だが、実際には激しい心理戦が繰り広げられていた。ユリアナは「舌の術」を使い、言葉に特別な振動を乗せて、ジャスミンの心の琴線に触れようとする。


「レッドクラウン様、あなたが血の市場を統率することで、市場は安定し、繁栄しています。皇帝陛下はそれを高く評価しておられます」ユリアナは言葉を紡ぐ。「しかし同時に、市場の自治と帝国の安全の間には、繊細なバランスが必要です。オフィディアンはそのバランスを崩そうとしています」


彼女の言葉に合わせ、わずかに舌を動かし、声の調子を変える。五姉妹に教わった通りに、言葉に「意図」を乗せる。


ジャスミンの瞳に、一瞬の動揺が見える。彼女も同様の技術を知っているようだった。「そして皇帝は、私たちに何を提供するというの?」


「市場への帝国の介入を最小限に抑え、商人議会の権限を尊重します」ユリアナは続ける。「さらに、次期蛇座代表を選ぶにあたり、商人議会の意見を考慮いたします」


この駆け引きの間、ナインは静かに観察を続けていた。彼は時折、ジャスミンに何かをささやく。彼の視線には敵意と好奇心が入り混じっていた。


「興味深い提案だわ」ジャスミンは考え込む。「しかし、具体的な証拠がなければ、オフィディアンを非難することはできないでしょう」


ユリアナは「瞳の奴隷」と「舌の術」を組み合わせ、ジャスミンの心の奥深くを探る。そこで彼女は意外な事実を発見する。ジャスミンとナインの間には、単なる上司と部下以上の複雑な絆があった。ナインはジャスミンの実の息子だったのだ。しかし、ナイン自身はそれを知らなかった。


この発見を利用すべきか、ユリアナは一瞬迷う。しかし、これは帝国の安全に関わる問題。彼女は決断を下す。


「ジャスミン様」ユリアナは静かに、しかし力強く言葉を紡ぐ。「あなたがナインを大切に思うのは当然です。息子ですものね」


部屋が凍りついたように静まりかえる。ジャスミンの顔から血の気が引き、ナインは困惑した表情でユリアナを見つめる。


「あなた…どうやって…」ジャスミンの声が震える。


「私は瞳を通して心を見ます」ユリアナは続ける。「そして、オフィディアンもこの事実を知っています。彼はこれを使ってナインを操り、あなたを脅そうとしていました」


ナインがジャスミンに向き直る。「母…なのか?」


ジャスミンは長い沈黙の後、ため息をつく。「……そうよ」


二人の間に複雑な感情が流れる。長年隠されてきた真実が、突然露わになったのだ。


「なぜ…教えてくれなかったんだ?」ナインの声は混乱に満ちていた。


「私は商人議会の長。多くの敵がいる」ジャスミンは静かに答える。「あなたを守るためだった」


ユリアナは二人の対話を見守りながら、「舌の術」を使って場の空気を和らげていく。「レッドクラウン様、ナイン様、この真実は二人を引き裂くためではなく、結びつけるためのものです。そして同時に、オフィディアンの脅しからも解放されるでしょう」


彼女の言葉が、二人の間に架け橋を作っていく。


最終的に、ジャスミンはユリアナに協力することを約束する。「オフィディアンの計画についての証拠を提供しましょう。そして商人議会も、皇帝陛下を支持します」


会談が終わり、ユリアナとルシエンが血の市場を後にしようとしたとき、予期せぬ事態が起きた。市場の路地で、黒いマントを着た刺客たちに襲われたのだ。


「聖娼を殺せ!」一人が叫ぶ。彼らの武器には、蛇座の紋章が刻まれていた。


ルシエンはユリアナを守るように立ちはだかる。「逃げてください!」


しかしユリアナは逃げなかった。彼女は刺客たちの目を真っ直ぐに見つめ、「瞳の奴隷」と「舌の術」を最大限に使う。


「止まりなさい」彼女の声には、これまでにない力が宿っていた。「あなたたちは自分が何をしようとしているのか、本当にわかっていますか?」


彼女の言葉が刺客たちの心に浸透する。彼らの動きが鈍くなり、混乱した表情が浮かぶ。ユリアナはさらに言葉を重ねる。


「蛇座の紋章を持つあなたたちは、実は騙されています。オフィディアンはあなたたちを単なる駒として使っているだけです。彼の計画が成功しても、あなたたちには何の利益もありません」


ユリアナの言葉は、刺客たちの心に深く入り込む。彼女の声には通常の抑揚を超えた振動があり、それは相手の心を揺さぶる波のようだった。刺客たちの目が徐々に曇っていく。


「我々は…何のために…」一人がつぶやき、武器を下ろす。


その時、路地の奥から新たな姿が現れる。ジャスミンとナイン、そして商人議会の護衛たちだった。


「これは商人議会の領域での暴力行為」ジャスミンの声が鋭く響く。「蛇座の者たちよ、直ちに立ち去りなさい」


刺客たちは互いに顔を見合わせ、混乱の中、退散していく。


「素晴らしい舌の術だった」ジャスミンがユリアナに近づき、称賛の目を向ける。「私でさえ、あれほど短時間で彼らを混乱させることはできない」


ナインも感心した様子で頷く。母親との真実を知った今、彼の目には新たな光が宿っていた。「聖娼としての力を、直接見ることができて光栄です」


彼らは護衛を付けてユリアナとルシエンを宮殿まで送り届けることを申し出る。


「最後に一つだけ」ジャスミンはユリアナの耳元でささやく。「皇帝を盲目的に信じないことです。彼にも秘密がある。すべての権力者と同じように」


その警告を胸に、ユリアナは宮殿へと戻った。彼女の報告を聞いたエリスティアは満足げに頷く。彼女がオフィディアンの計画を暴き、商人議会の協力を得たことで、政治的な危機は回避された。


「見事だ、ユリアナ」皇帝は笑顔で言う。「『舌の術』を短期間でここまで極めるとは。お前は真に特別な聖娼だ」


しかし皇帝の褒め言葉を聞きながら、ユリアナの心にはジャスミンの警告が響いていた。彼女は「瞳の奴隷」を使って皇帝の心を探ろうとするが、エリスティアの心は深い霧に包まれているように感じられた。


その夜、ユリアナは宮殿の図書館で過去の記録を調べていた。彼女は241代目の聖娼、シルヴィアについて知りたかった。なぜ彼女は突然失踪したのか。そして、自分がなぜ次の聖娼として選ばれたのか。


「何を探しているの?」


振り返ると、ルシエンが立っていた。彼の紫色の瞳は、月光を受けて輝いている。


「シルヴィアについて」ユリアナは正直に答える。「彼女はどんな聖娼だったの?なぜ突然いなくなったの?」


ルシエンの表情が暗くなる。「彼女は…特別でした。非常に強い力を持っていました。特に『言葉の力』において」


「言葉の力?」


「言葉で現実を変える力です」ルシエンは慎重に言葉を選ぶ。「聖娼は皆、言葉の力を持ちますが、シルヴィア様のそれは桁違いでした。彼女の書く詩は、読む者の魂を変え、時には物理的な世界にさえ影響を与えました」


彼は一瞬躊躇し、続ける。「そして…彼女はある日、『言葉の門』を開いたと言われています。そしてその門を通って、どこかへ消えました」


「言葉の門?」


「二つの世界を繋ぐ通路です」ルシエンの声が小さくなる。「詳細は私にもわかりません。それは禁じられた知識だからです」


ユリアナの心に疑問が膨らむ。シルヴィアの失踪、言葉の門、そして彼女自身の選出。これらは偶然ではないはずだ。彼女は現実世界とアクシオム帝国を行き来できる特別な存在だった。それはシルヴィアと何か関係があるのだろうか?


「ルシエン、もっと教えて」彼女は懇願する。「私がなぜ選ばれたのか、知りたいの」


彼は苦しそうな表情で、さらに小さな声で言う。「伝説によれば…聖娼は前世の記憶を持つと言われています。そしてあなたは…」


彼の言葉は、図書館に入ってきた五姉妹によって遮られる。


「夜更けまで起きているのは体に良くありません、ユリアナ様」五姉妹の声は冷たかった。「明日は重要な任務がありますから、休息を取るべきです」


彼女の目は、ユリアナとルシエンの間を鋭く行き来した。何かを疑っているようだった。


ユリアナは従うふりをして自室に戻るが、心はますます疑問で満ちていた。アクシオム帝国には隠された真実がある。そして彼女は、それを明らかにする鍵を握っているのかもしれない。


彼女は窓から七つの月を見上げ、深く考え込む。やがて、彼女の意識は現実世界へと引き戻されていった。

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