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【書籍化作業中】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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ダークネスドラゴン・バジル

 シャルロットは底知れぬ衝撃の沼に引きずり込まれそうになっていた。溺れるような息苦しさから逃れようと深呼吸する。そして、この状況に至った経緯を必死に考え始めた。

 

(なぜロランが変貌してしまった!?)

 理由がわからない。

(いつロランがジゼルを愛し始めた??)

 全く……わからない。


 混乱する頭の中、唇を噛み、瞼を閉じた。


(冷静に、冷静に考えるのよ。誰かの陰謀? ベルトラン? それとも……まさか、マチアス? )

 

  シャルロットはハッとしたように顔をあげる。が、ため息を吐き小さく首を振った。

 

(……違う、陰謀ではない。でも、陰謀でないのなら、これは一体……)


 目の前に突きつけられている絶望に近い現実に奥歯を噛む。

 これほどまでの屈辱は初めての経験だ。王国の薔薇、それに相応しい相手ロラン・ジュベール。大魔法使いであり公爵家の次期当主。誰もが羨むこの関係が今、目の前から崩れてゆく。

 

 ロランの心変わり。

 心変わりをされた可哀想なお姫様。

 令嬢達の憐れむような視線。

 

(……ここは悲劇の姫を演出したほうが良いのだろうか? 男に捨てられた女を)

 

 だがそれはプライドに反する。王室の薔薇と呼ばれ、それに見合う品格を保ち生きてきた。


(けれど、あの見窄らしい女、ジゼル・メルシエの出現で全てが崩れてしまった!!)

 

 混乱する頭の中、シャルロットを襲う屈辱と羞恥心。人々の哀れみの眼差しに怒りが湧く。

 

 しかし、問題はそれだけではない。


 ロランから愛していないと言われた上に、リカルドの登場によりジゼルを罠に嵌めたと露見する恐れがある。これこそ絶体絶命のピンチ。最悪の事態だ。

 これを暴かれてしまったら、シャルロットは王族であっても社交界にいられなくなる。人々の憧れの眼差しは軽蔑に変わり、誰からも相手にされなくなるだろう。

 

 息の詰まるような展開。そんな中でも活路を見出せないかと辺りを見回した時、取り囲む貴族の中にリカルドの姿が見えた。

 

(リカルド!! )


 ロランと共に現れたリカルドはいつものリカルドと違う。目を合わさないよう俯き怯えるあの姿はなく、堂々と真っ直ぐにシャルロットを見つめている。

 

 リカルドは追い詰められ動揺するシャルロットと目が合うと頭を下げ、爽やかな笑顔を見せた。

 

(リカルド!! なぜ笑う!?)

 

 その笑いに背筋が凍る。首筋にナイフを当てられたようなゾッとする感覚がシャルロットを襲った。

 ロランの心変わりとリカルドの出現。嫌な予感が胸をよぎる。


 全てを失う予感。


(掴んでいるものを離したくない!!)

 

 震える指先を強く握る。何一つ奪われたくない! そんな気持ちを込めリカルドを見る。

 

(なぜここに現れたの!? いますぐ出ていって!!)

 

 言葉にできない気持ちを眼差しに込める。

 

 一方、リカルドはそんなシャルロットを見て微笑み返す。優しそうに見えるその微笑み。だが、瞳は笑っていない。瞳の奥に強烈な憎しみの光が見えた。

 

 シャルロットは握りしめた両手をさらに握る。爪が手のひらに食い込むが痛みは感じない。痛みより憎しみに顔を歪めた。

 

(リカルド!! お前は絶対に許さない!)

 

 その様子を見ていた貴族たちは、普段のシャルロットからは想像もできない鬼のような形相に唖然とし、目を見開く。

 

 だがこれもロランの罠だ。

 

 顔を歪めるシャルロットを見たロランは即座に話しかける。

 

「シャルロット、なぜそんな形相でリカルドを睨んでいる? 何かあったのか? いや……リカルドを知っているのか? まさか……リカルドが言った依頼主とは……」

 

 ロランの言葉にリカルドはすかさず何かを言おうとした。

 

「シャルロット様に……ウ、グゥ……」

「ほほぅ、誓約魔法か」

 ベルトランが言う。

 

「ち、違います! わたくしでは……わたくしそ、そんな、し、証拠もないことをおっしゃらないで!」

 

 シャルロットは顔を真っ赤にし、そのまま床に崩れ、侍女のマリエットがシャルロットを支える。


 そのやり取りを聞いた貴族達は信じられないというような表情を浮かべ、ヒソヒソと話し出す。

 

「シャルロット様が……黒幕? 」


 ロランは顔を覆うシャルロットを見て笑みを浮かべ、またアルマンを見る。


「……ところでアルマン。このダークネスドラゴンを知っているか? ジゼルの魂を心から愛するドラゴン。彼の名前はバジル。フフ、名前があるなど面白いだろ? バジルは五百年前ドラゴン王になるはずだったんだ……」

 

 アルマンは訳がわからない。

 

「だが、お前のような卑怯な輩に……」

 

 ロランは言葉を噤む、が、また話しだす。

 

「……さあ、バジルよ、()()お前はどうしたい?」

 

 ロランはダークネスドラゴンに話しかける。


『懐かしい質問だなロラン……答えは一緒だと言いたいが、違う。まだ愛する人は生きているから。そうだな、この男を私の闇の世界に連れて行こうか。退屈な毎日が華やぎそうだ』

 

 ダークネスドラゴンはそう言いながらアルマンを見る。アルマンはあまりの恐怖に失神をする。

 

「興醒めだな」

 

 失神したアルマンを見てロランは指を鳴らし叩き起こす。ダークネスドラゴンは恐怖に顔を歪めるアルマンを見つめ言った。

 

『今度こそ我々の愛する人を守るために……』

 

 ロランが魔法陣を浮かび上がらせるとダークネスドラゴンはそれに息を吹きかけ魔力を注ぐ。その魔法陣から赤くドロドロとした液体が流れ始めアルマンを捕らえる。

 

 アルマンはゆっくりと沈むように液体に囚われてゆく、手をバタバタと動かし助けを求めようと叫ぶ。だがその声は聞こえない。蟻地獄のような深い闇に沈んでゆくアルマン。


 その姿がゆっくりと消えた。

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