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【書籍化作業中】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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シャルロットの衝撃

 !!

  

 その声に、ロランは我に返った。

 

 五百年前の出会いと別れ。リシャールと呼ばれていた遠い過去、婚約者がいたにもかかわらず、大魔法使いとなったが為、魔力の無い娘と結婚した。だが、それは形だけの関係、婚約者との関係は続いていた。愛されることはないと知っていた娘は五ヶ月後に離婚しようと言い、マグノリアの別邸に一人住んでいた。だが、次第にその娘を愛し始め……そして……。


 ロランは裂かれるような痛みに胸元を押さえた。そしてゆっくりと息を吐き再び眉間に触れる。黄金に輝く光が指先を輝かせた。

 

 (……彼女が与えてくれた祝福の力、その力が再び流れ込んできた。ああ、ジゼル、君は私が愛したカミーユだ!! )

 

 覚醒したような感覚に戸惑いながらゆっくりと周りを見回す。周りの人間はロランの変化に気がついていない。まるで止まっていた時が動き始めたような感覚にロランは唇を結ぶ。

 

(私には……なさねばならぬ使命がある!)

 

 ロランは壁に繋がれたアルマンにゆっくりと近づいた。目の前にいる男を許すことはできない。許せば悪意ある人間に再び利用されジゼルの命を狙うようになるだろう。それほどまでにジゼルは特別な存在だ。そして、自分を持たず意思もなくただ流れに沿って生きているだけの人間こそ、一番警戒するべき人種だ。

 

 アルマンなど魔法を使わなくてもその命を奪うことは容易い。だが、ロランはダークネスドラゴンを召喚すると決めている。このお茶会での復讐劇はジゼルに手を出せば絶対に許さないという姿勢を見せるにもってこいの場所。そしてそれはロランとダークネスドラゴンの意思なのだ。

 

「お待ちください!!」

 アルマンに近づくロランの足元に、妹のローズが縋り付いた。

「……何か?」

 ロランは不快なローズの温もりに顔を歪ませる。

 

「ロ、ロラン様、いくらロラン様でも伯爵家の後継者となる兄にこんな扱いをするなど許されません!!」

 

「……ふむ。面白いことを言う。許されない? それは誰が決めるのだ? 私の妻にしたことも同じように許されないだろ? それに、先ほども言ったが、ニコラ伯爵家? もうこの世に存在しない。ダークネスドラゴンがその魂までも消滅させたのだから」

 

 ロランは髪をかき上げながら足元に縋り付くローズに言った。その言葉に貴族達は息を呑む。まさか王国の守護神であるロランがそんな無慈悲なことをするなど誰一人想像していなかった。

 ロランの言葉にローズは放心し掴んでいた手を離す。ロランは足元にいるローズから離れ、魔法陣を描き、ダークネスドラゴンを呼び出した。


(さあ、ダークネスドラゴン、バジルよ! あの日の惨劇を繰り返さないために、圧倒的な力を見せつけよう!)

 

 ゴゴゴッ!!

 

 地響きと共に奈落からダークネスドラゴンが召喚されその姿を現した。

 

 これが噂のダークネスドラゴン!!


 貴族達は初めて見るその姿に息を呑む。

 ダークネスドラゴンが空中に浮かび上がり大きな羽を広げると、公爵家の屋根が破壊され崩れ始める。だがすぐにベルトランが保護魔法を唱え貴族達を守る。

 闇の支配者ダークネスドラゴンの圧倒的存在感。崩れた屋根の隙間から月が見える。貴族達は時間の感覚がなくなっていることに気がつく。そして異次元に迷い込んだようなこの情景。

 

 大きな満月を背に真っ黒なダークネスドラゴンのシルエット。やましい心を抱く者には全てを飲み込む恐怖の象徴に見え、ジゼルに好意的だった貴族達には気高く美しい姿に見える。

 ジゼルに好意的なクレール伯爵はその光景に驚きと高揚感を抱いた。

 

 シャルロットはロランの頭上に浮かぶダークネスドラゴンを見て鳥肌が立った。これほどの力を持つロラン・ジュベールを手放したくない。そんな邪な思いが胸に宿る。

 ロランはその思いを悟ったようにシャルロットを見て顎を上げ、またアルマンに話しかける。

 

「……アルマン、それで、素直な気持ちが聞きたいんだ。ジゼルを蹴った時の気分を教えてくれないだろうか? 我妻が受けた屈辱を私にも教えて欲しいんだ。夫としてその痛みを感じたいと思うこの心情を理解してくれるだろ?」

 

 その言葉を聞いたシャルロットは強い衝撃を受け瞳孔が開く。会場のざわめきが遠退き、シャルロット派と言われる周りにいる貴族達の声も耳に入ってこない。

 

(なぜなの? どうしてロラン!)

 

 込み上げる感情が喉を圧迫し、声も出せない。手放したくないと思った矢先のその発言はシャルロットに強い衝撃と深い失望を与える。

 

 自分のためにあると思っていたこの世界が最も簡単に崩れてゆく。

 目の前の景色はぼやけ、ロランの言葉が頭に響く。

「夫としてその痛みを感じたい」

 これは紛れもない、ジゼル()に対する愛の言葉。

 いつも冷静なロラン・ジュベールの言葉とは到底思えない。

 お茶会に来たジゼルに愛し合う姿を見せつけたはずが、今は見せつけられているのだ。

 ダークネスドラゴンの召喚。それはジゼルへの深い愛を、揺るがぬ思いを象徴している。

 

 死にたくなるほどの屈辱と羞恥心がシャルロットを襲い、貴族達の憐れむような視線が心に突き刺さる。


 ロランが愛しているのはジゼル。手放したくないと思った人は既にこの手の中にいないのだ。

 

 しかも、愛の誓約が反応しないよう言い方を変え、何度もジゼルへの愛情を口にする。

 その、情熱ある口調、激しく燃える青い瞳はシャルロットが見たことのないロランの姿だった。

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