表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/93

ロランの帰宅

 

 それから一週間経ちロランは別邸に戻った。平静を装っているが、内心は不安で一杯だ。何事も起きていないことはわかっている、が、それでもジゼルの顔を見るまでは心落ち着かない。

 はやる気持ちを堪え馬車から降りると、ジゼルが嬉しそうな笑顔を浮かべ、ロランを出迎える。その姿を見てロランは体の力が全て抜けてしまうほど安心した。その場に座り込みたくなる体に力を込め、ジゼルの元へ歩き出す。一歩近づく毎に心配で硬くなった心がほぐれてゆく。

 ジゼルの様子は影から聞いていたが、それでも正直を言えば、その姿を見るまでは心穏やかではなかった。


 目の前にいるジゼルを見つめるとジゼルはロランに微笑んだ。その初春のような初々しくも儚げな微笑みと伏し目がちのその瞳はロランの心を掴む。目が合うとすぐに頭を下げその背筋はピンと張っており緊張しているように見えた。

(いつも私に会うと緊張している。もっとリラックスしてくれたら)

 そう思いながらつい、そのまま黙って見つめる。本当は冷たくあしらうべき現状だが、ライバルの出現に不安になる気持ちを抑えられない。

(今だけ、自分を許そう)

 ロランはそのままジゼルを見つめた。ジゼルは長いまつ毛をゆっくりと持ち上げ上目遣いにロランを見た。その仕草があまりにも可愛らしく一瞬目を細めた。だがすぐに我に返り無言で歩き出す。ただ、ジゼルがちゃんと後ろをついてこられるようゆっくりとした歩調で歩いた。背後からかすかな足音が耳に届き口角が上がる。ジゼルはこの一週間何事もなく過ごしたのだとわかるような穏やかな歩み。それに背後からちゃんと付いてきている。

(ハァ、安心した)

 ロランは明るい笑顔のジゼルを見て、ジゼルを守ってくれたモーリス達に感謝した。


 食事を摂りながら何気なくジゼルに話しかける。ジゼル自身が何かに気がついていないか探るためだ。

「変わったことは?」

 その短い言葉にはロランの思いが沢山含まれている。

(この言葉をジゼルがどう受け取るのか、今ジゼルが感じていることを知りたい)

 ジゼルはロランの言葉に驚いたのか食事の手を止めた。そして顔をあげ、少しだけ寂しげに微笑み言った。

「ベルトラン様がいらっしゃいました」


 ロランは思いもよらないジゼルの返答にカラトリーを持つ指に力が入ったが、何事もなかったかのように食事を続けた。しかし頭の中は混乱している。

(お祖父様が?あの日あのままここに来たのか?影からは聞いていない。お祖父様が口止めしたのか……)

 ロランは頭の中を整理しながらジゼルに聞いた。

「お祖父様が?なぜ?突然だな」


 ロランはチラッとジゼルを見るとジゼルは嬉しそうな表情を浮かべ小さく頷いた。

「はい、旅の途中近くに来たからと仰って、一週間ほど滞在され、また旅に行かれました」

「一週間?あのお祖父様が?信じられない」


(お祖父様が一週間もここに?あの忙しいお祖父様が?)

 ロランは食事の手を止めジゼルを見た。


(ジゼルに何かあったわけではない。お祖父様の話をした時のジセルは楽しそうに見える。だが、一週間も同じ場所にお祖父様がいるなど信じられない)


 ロランは改めてベルトランのことを考えた。


 ベルトランはこの公爵家始まって以来優れた判断力があり、公爵家を盤石なものにした偉人でもある。王家とは折り合いが悪く特に現王とは犬猿の仲でシャルロットを認めていない。けれど引退してからは一切王家と関わる事がなくなりシャルロットの事も何も言わなくなった。今は旅をして好きに生きている。


 しかしその性格は変わらず、鋭い洞察力を持つベルトランとまともに話せる人間は皆無に等しい。


 今もジュベール公爵家に大きな影響を与え、多くの貴族がベルトランと取引をしたいと訪ねてくる。だがベルトランはそうそう人に心は許さないし、その眼鏡に適う人間などいない。


(あのお祖父様が一週間もここにいたのか?それほどまでに脅威が?いやそれは無い。そうだとすれば間違いなく私を呼び寄せる。ではなぜ?……お祖父様はジゼルを最初から認めていた。だが、一週間もここにいたとは信じられない。常に動いているお祖父様が、それほどまでにジゼルを気に入ったのか?ジゼルとの結婚を誰よりも望んだのはお祖父様だ。ジゼルを大切にしろと言ったのもお祖父様だ……)


 ロランはベルトランの考えがいまいちわからない。何かを知っていそうな言動について聞いてみたいと思う反面、心の奥底で知りたくないと思う気持ちもある。


 ジュベール公爵家のお茶会、シャルロットを招待する件を話さなくてはならない。ベルトランに誤解されたとしても、必ずシャルロットが行った悪事をベルトランに示せばわかってくれるはずだ。一つ一つ問題を解決し、ジゼルと向き合う。今それが、私がジゼルのために出来る唯一のこと。 


(そうだ、私はやらなければならないことがある。今はこのジゼルとの時間を楽しむ権利は私にはない。マチアスのことは気になる。だが、今は目の前の危険に集中しよう。全てが終わり向き合える時まではジゼルに危険が及ばぬよう今まで通りの私でいよう)


 ロランは表情を変え、結婚当初の冷たいオーラを放った。ジゼルはそれを敏感に感じたのか俯き食事を続けた。ロランも黙って食事を続けた。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ