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【書籍化決定】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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ブルレックの新王マチアス

 ロランは別邸を出てその足で公爵家に戻った。公爵家のエントランスでロランを出迎えたのはベルトランだった。


「お祖父様?いつお戻りに?」

 ロランは尊敬するベルトランに出迎えてもらえた事に喜びを感じつつも、同時に緊張感も持つ。なぜなら伝えねばならないことがあるからだ。

 『シャルロットをジュベール公爵家のお茶会に呼びたい』

 だが、このお茶会の主催者はベルトランで、ベルトランは王家が嫌いだ。言いづらい。タイミングを見計らい言わねばならない。ロランは唇を結んだ。


 シャルロットがジゼルを追い詰めるために起こした騒動や、掴んでいる情報の全てを話す事ができれば、問題なく許可するだろう。だが、まだ何一つ明確な証拠がない今、中途半端な状態でベルトランを巻き込みたくない、そんな気持ちがロランの中にある。例え誤解されたとしても、全てが明らかになるまではベルトランにも言わないとロランは決めた。


「お祖父様、出迎え感謝いたします。父上と母上にも挨拶して参ります」

 優しい眼差しでロランを見つめるベルトランに言った。

「うむ。わしは今ここに戻ったところお前が来るのが見えたから待っておった。それにちょうどロランと話がしたいと思っておってのう。後ほど会おう」

 ベルトランはそう言って邸宅に入って行った。ロランは両親に挨拶するため、両親がいるサンルームに向かった。


 ロランの父親リオネルはロランにそっくりな外見をしているが至って平凡な人間だ。いくら魔法に特化したジュベール公爵家でも生まれる人間全てが優れているとは限らない。リオネルの魔力は平均より少し上、白魔法も黒魔法も使えない。その為リオネルは前に出ることはなく、ベルトランの陰に隠れる穏やかな当主と言われている。立場も中立を守りその為ドミニク国王はリオネルを引き込もうとしている。ロランの母ルィーゼは穏やかなリオネルを引っ張るしっかり者で公爵家を切り盛りする頼もしい妻だ。

 ロランの結婚には反対の立場を取り、シャルロットとの交際を喜びロランの知らない間にシャルロットとの交流を深めていた。シャルロットはルィーゼと交流を深めるため時々この公爵家に遊びに来ている。


 ロランはそんな両親と一線を引いている。幼い頃、父親のリオネルがロランに言った『お父様とロランに魔力を取られた』その言葉にロランは傷ついた。ロランは自分が立派な魔法使いになれば、父親が自慢できる息子になればと、信じ懸命に努力している最中の言葉だったため、それ以来ロランは自分の思いを口にすることは無くなった。父親の気持ちもわからなくはない。だが変えることのできない持って生まれた性質を、『誰かのせいにしたい』という人としての弱さを、人の上に立つその立場も忘れ口にする父親がロランには受け入れられなかった。

 ロランだって高い魔力を望んで産まれた訳ではない。魔力が高い者にも低い者にも悩みはある。苦しみもある。形は違えども受ける苦しみの深さは変わらない。だが、それを言ったところで本人が気が付かない限り解決はしない。

 自分にできることは早く両親から自立することだと考え、ロランは淡々と生きるようになった。そして背負う公爵家の次期当主としての責任、大魔法使いとしての責任、その両肩に逃げることのできない重石を乗せロランは生きている。


「ロラン、ジゼル・メルシエはどんな方?あなたに辛い思いをさせるなど、胸が痛むわ。早く離婚ができると良いわね」ルィーゼは悪気なく言い、久しぶりにあう息子を抱きしめた。ロランは黙って母親を抱きしめ言った。

「私のことは構わないで下さい。それよりも母上、私の知らぬ間に、ここにシャルロットを連れてくるのはやめていただきたい」

 ルィーゼはロランの言葉に驚いた。

「なぜ?この結婚が終わったらシャルロット様と結婚するのでしょ?何も問題はないわ」

 ルィーゼの言葉に父親のリオネルも頷く。ロランは両親のそんな発言を聞き眩暈がした。このまま床に座り込んでしまいそうになる程衝撃的な言葉だ。今のロランはそのシャルロットを追い詰めようと必死になっている。両親が嫌うジゼル・メルシエを全ての悪意から守りたいと。

 (ここまでシャルロットに毒されているとは驚きだな)

 ロランは唇を結んだ。だが今はそんなことを口論するつもりはない。いつか必ずわかることだ。

 何か言いたげな両親を横目に、ロランは黙って頭を下げ部屋を出ていった。


 部屋を出るとベルトランがロランを待っていた。ロランは両親との会話を聞かれたかも知れないと気まずくなり、苛つきを堪えた表情を隠すためベルトランに頭を下げ、ベルトランは黙って歩き始めた。何も聞かないベルトランにロランは安堵した。

 二人は庭園を見渡すテラスへと向かった。


 ジュベール公爵家のエントランスに葉の無い古木が凛とした佇まいで立っている。幼い頃からその古木を見ると気持ちが和らいだ。もちろん今も。先ほどの尖った気持ちもその先が丸く削られ心が整う。そんなロランの様子を見つめながらベルトランは、ロランの視線の先にある古木を見つめた。


「ロラン、重要な話がある」

 ベルトランは古木から視線を離し、ロランに話しかけた。その表情は真剣そのもの、瞳は厳しく警戒の光が見える。ロランは何かが起きたと察し固唾を呑んだ。

「お祖父様、なんでしょうか?」

 焦るような、不安定な気持ちを押し殺しロランは言った。ベルトランは少し間を開け何も言わずロランを見た。ロランもベルトランから目を逸らさない。まるでジゼルとの仲を探っているようなベルトランの瞳に、ロランは目を背ける理由はないとベルトランを見続けた。

「ふむ。ロラン、少し変わったな。早速本題じゃ。我カパネル王国と敵対するブルレック、その王が息子によって殺された。それは知っているだろう?」

 ベルトランの問いにロランは頷いた。その情報は知っている。十一人いる後継者を惨殺し王となった男はロランと同い年。名前はマチアスだ。マチアスはその甘いマスクからは想像もできないほどの野心家で、攻撃的な性格を持つ。剣の腕はマスタークラス。マチアスはクーデターを起こし一夜にしてブルレックの王になった男だ。その残虐性よりも行動力を褒め称えるのは意外にも女性達だった。マチアスは甘いマスクとその強引なほどの行動力と決断力で女性達の心を掴んでいる。マチアスは即位した後、王妃となる女性を探していてその候補が殺到していると、今一番の話題を集めている敵国の国王だ。


「マチアスがどうかしましたか?」

 ロランは不意にアロマリドを思い出した。最近耳にする敵国ブルレック、その国の王マチアス。

 (嫌な予感がする)


 表情を変えたロランを見て、ベルトランは唇を一旦結び、フーッ、と息を吐き言った。


「そのマチアスがジゼルを狙っていると知っておるか?」


 !!

 

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