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【書籍化決定】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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感情の名は

 ロランはドミニク国王の決定を不服に思っているシャルロットを慰める為、シャルロットに会いに行った。この不満を抑えておかねばジゼルにその怒りが向けられる。


 案の定シャルロットは不満な表情を浮かべロランを見つめる。ロランはそんなシャルロットを優しく抱きしめ言った。

「国民を思うシャルロットの気持ちはわかる。だが、あなたにはリスクを負ってほしくない。民衆の怒りの恐ろしさはシャルロットだって知っているだろう?」

 ロランはそう言ってシャルロットに微笑んだ。


 心の中では中傷に傷ついたジゼルを思い出す。このままシャルロットの首に手を当て全てを終わらせても良いと、シャルロットを抱きしめる手に力が入った。だが我に返り力を緩める。ロランは自分自身にそんな激情が宿っている事に驚いた。

 ―今はその時ではない。この演技に集中せねばならないと体を離しロランはシャルロットを見つめた。シャルロットは仕方がない、と言うようにため息を吐き、にっこりと笑い言った。


「……ロラン、分かったわ。我慢する。その代わりお願いがあるの。今度開催されるジュベール公爵家のお茶会。連れていってほしいの」


 シャルロットはそう言って上目遣いにロランを見た。


 *** 


 その数日後、ドミニク国王はシャルロットを危険な目に遭わせたリカルドを処罰しようとした。ロランはその処罰に賛成だった。なぜならリカルドとシャルロットはグルだ。今すぐにシャルロットを排除することは困難だがリカルドはロランが直接手を下さなくともこの件で簡単に排除出来る。そうなればこの先ジゼルが理由なく糾弾されることはなくなるだろう。ロランはことの成り行きを見守った。

 だがシャルロットがリカルドを庇った。

 『リカルドはただ純粋な気持ちで行動してくれただけで、リカルドに罪はない』

 なぜシャルロットはリカルドを庇ったのか、単純に考えれば、リカルドはシャルロットにとって使える駒だ。だが真の理由はそれではないだろう。


 作家リカルドは他国の貴族からも支援を受けている。恐らくシャルロットの罪を詳細に記したメモがあるはずだ。自分を守るためそれを誰かに託している可能性もある。だからシャルロットも下手にリカルドに手を出せない。これがシャルロットがリカルドを庇う理由だ。結局リカルドは罪に問われる事はなかった。恐らくシャルロットの思惑どおりの結果だ。


 ロランはこの結果に悔しい気持ちはあったが、心のどこかで自らの手で制裁を加えたいと考えていたこともあり、今回はその時では無かったと気持ちを切り替えた。シャルロットとリカルド。この二人がグルなのはわかっている。その証拠を見つけなくてはならない。その証拠となるメモ、『筋書き』だ。


 そして、恐らくこの服毒騒ぎにも筋書きがある。リカルドがシャルロットに原稿を手渡したという証言もある。その原稿さえあればシャルロットを追い詰めることが出来る。


 ロランは療養しているシャルロットに会うため、頻繁にシャルロットの自室に出入りするようになった。

 本当の目的は原稿を探す事だが、そう簡単に見つかる訳はない。ロランはこの部屋に出入りする侍女を秘密裏に調べ始めた。そのタイミングでシャルロットに仕える侍女やメイドが入れ替わった。シャルロットの安全を守れなかったという理由らしいが、ただ一人残った侍女がいる。侍女の名はマリエット。マリエットは魔力がそれなりに高く普通の人間よりも使える魔法も多い。ロランはランスロットにマリエットを調べるよう伝えた。


 それからもロランは毎日シャルロットを訪ね、手を握り感情が伴わない愛を伝え続けた。シャルロットはジゼルへの警戒を緩めたのか目立つ動きは無い。安心しつつも引き続きシャルロットの身辺を調べ監視した結果、原稿が隠されている場所の特定ができた。シャルロットのベットの下だ。シャルロットがベットを離れるとマリエットがベットから離れない。自然に振る舞っているように見えるが、明らかにベットから離れることに抵抗があるように見えた。



 ……『ジュベール公爵家のお茶会。連れていってほしいの』


 ロランはその原稿を手に入れる方法を考え始めた。


 ***


「ロラン様、使用人達の動向についての報告書でございます」


 ロランはヤニックから使用人の動向を聞いた。信頼している人間を調べることは出来ればしたく無かった。疑えばこの世の全てを疑いたくなる。特にこの因習。この因習がロランとジゼルを苦しめている。だが、これがあったからこそロランはジゼルに出会えた。

 ロランは報告書を机の上に置き、庭園を眺めた。


 ジゼルとの関係は結婚当初に戻り、ロランはジゼルをいないものとして扱い、ジゼルも自らの気配を消していた。

 ロランは空気のように振る舞うジゼルを見ると、全てを捨てジゼルの手を握り二人でどこかに逃げてしまいたいと考えるようになった。だが、行動を起こせば世間はロランを責めずジゼルを本当の悪女だと言うだろう。そんなこと絶対に出来ない。それに、ジゼルの本音もロランにはわからない。


 ロランは窓から庭園を眺めた。


 (ジゼルは知らないだろう。私がいつもここからジゼルを見つめていることを)


 庭園ではジゼルがオーブリーと共に薔薇の手入れをしている。庭師のオーブリーは彼の祖父の頃から代々このマグノリア別邸の庭を管理している。どこか頑固なところがあるオーブリーは一人で作業することが多いのだが、いつの間にかジゼルと共に作業するようになり、それと同時に魔法を使わない方法で庭園を手入れするようになった。オーブリーはジゼルを尊重し、尊敬しているように見える。

 ヤニックはそんなオーブリーの変化をロランに伝えた。


 ロランは二人を見続けた。

 (オーブリー、ジゼルのことを私以上に知っているだろう。ジゼルもオーブリーには心を許しているように見える。羨ましくないといえば嘘だ。けれど、今は、何も出来ない。こうして遠くからジゼルを見つめることしか……私には出来ない)

 ロランは両手を握り、心の中のもやもやした気持ちを吐き出すようにため息を吐いた。

 (この気持ちをなんと言うのかわからない。……どうにかなってしまいそうだ)

 ロランは唇を結んだ。


 ジゼルはスコップを片手に裏庭の方面に移動し始めていた。裏庭にはジゼルのハーブ畑がある。オーブリーがジゼルのために畑を作っていいかとヤニックに相談してきたそうだ。ヤニックが許可をしジゼルは毎日その畑で作業をしている。

 その様子を遠巻きに見ているメイド達。彼女達もジゼルの本当の姿に気がついているが、今更どう接して良いのか分からないでいるようだ。


 この屋敷に買収されたものはいない。だが、どこかに抜け穴がある。

 ロランはヤニックを呼び、オーブリーに接触する外部の人間を調べるように言った。


 

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