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【書籍化決定】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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目覚めたシャルロット

 それから一時間が過ぎた頃、シャルロットは目を覚まし、ベットサイドに腰掛けていたロランを見つめ泣き出した。


「ロラン……、わ、私……ロランの結婚があまりに辛くて……」


 ロランは黙ってシャルロットの涙を指で拭いその額にキスをした。感情はない。こうすればシャルロットが安心すると思い行動しただけだ。シャルロットは侍女達を下がらせロランの胸で泣き出した。


 ロランはシャルロットを抱きしめながら、先ほどシャルロットが言った。

 『ロランの結婚があまりに辛くて』

 という言葉に、強い反発と怒りを感じていた。辛いのはシャルロットだけではない。そもそも、シャルロットは慰めてくれる人が沢山いる。だがジゼルにはそんな人間は一人もいない。

 (唯一の頼りだったであろう私も、ジゼルに……)


 ロランの心は深い後悔の海に堕ちてゆく。

 (糾弾されていたジゼルはどれほど傷ついていたのだろう?それを理解することなく突き放した自分自身が許せない。だが、その前に、シャルロット、彼女をジゼルの前から排除する。)


 ロランはそんな思いを胸に秘め、徹底してシャルロットを愛するロランを演じた。優しく髪を撫で、頬を伝う涙を拭う。愛情など一切ない。ロランの心にあるのは一つだけ。


(シャルロットからジゼルを守る。その為なら私はなんだって出来る)


 ロランはシャルロットの手を握った。

「シャルロット、辛い思いをさせてすまなかった。もうこんなことはしないでほしい。シャルロットを失ったら……」

 ロランはシャルロットの手の甲に優しくキスをした。シャルロットは心が離れかけていたロランが戻ってきてくれたと確信し、安心したような穏やかな笑みを浮かべロランの頬に手を当てた。

 (シャルロットはキスを強請っている)

 ロランはズシンと重くなる心を悟られぬよう奥歯を噛みシャルロットの唇に軽いキスをし言った。

「まだ本調子ではないだろうからもう少し横になるといい」

 シャルロットは優しいロランの言葉に頷き、そのまま瞳を閉じた。ロランは五分ほどそのままシャルロットの手を握っていたが、シャルロットが眠ったのを確認しすぐに手を離し立ち上がった。


 シャルロットはこの結婚を嘆き服毒したと言った。

 これはジゼルを狙ったシャルロットの罠だと確信したロランは、シャルロットの服毒前の動向と、アロマリドの入手ルートを調べるようランスロットに伝えるため、脱いだローブを手に持ち部屋を出ようとした。


 しかし、そのタイミングでシャルロットの両親であるドミニク国王とナタリー王妃がやって来た。シャルロットが毒を飲んでから数時間が過ぎた後、現れた二人にロランは内心驚いていた。自分の娘を心配している様子が無い二人に違和感を抱いたが、シャルロットの命に別条がないと報告を受けていたのかもしれない。

 このカパネル王国のドミニク王はロランの祖父ベルトランが嫌う人間だ。ドミニク王を嫌う貴族は多い。なぜなら強欲で非情なところがある。気に入らない貴族がいるとしつこく絡むその粘着質な性格はシャルロットにも受け継がれているように感じる。ジゼルをしつこく糾弾しようとする事も、その命を狙うこともシャルロットにとってなんでもないことだろう。

 ロランは一歩下がり冷めた視線を三人に向けた。


 二分も経たないうちにドミニク王とナタリー王妃は後ろに控えるロランにシャルロットを託し、部屋を出て行った。

 忙しいのも理解できるが、娘が命を落としかけた割に意外にあっさりしている二人を見てなんとも言えない気持ちになった。心配しているが、生きているからまあ良いだろう。そんな印象を受けた。心が、温かさがない。だが、それぞれの家族の形はある。王家であっても人間同士だからそんなものかもしれない。


 ロランはその後すぐに部屋を出た。城の廊下を歩きながらシャルロットの狙いを考えていた。

 この結婚を嘆いての服毒。これを公表すればシャルロットに対する同情が集まりまたジゼルに対する糾弾が再開する。シャルロットの狙いはジゼルだ。ロランは早速ランスロットに調べさせた。



 数時間後、アロマリドの入手ルートが判明した。その毒は国交を断絶しているブルレック王国から入手した毒だった。それも王族であるシャルロットが作家のリカルドを通し闇ルートから入手したものだったのだ。ロランはその事実をすぐにドミニク国王に報告した。そうしなければこの服毒が美談として世間に公表されてしまう。


 案の定、眠りから覚めたシャルロットは毒を飲んだことを国民に説明したいと涙ながらに訴えた。医師ノエルが最低でも一週間は安静に過ごすようシャルロットに言ったことをあげ、

 『公務を楽しみにしている国民にしばらくは公務が出来ないと説明するため、真実を隠さず伝え、真摯に国民と向き合いたい』

 と、ドミニク国王に訴えたのだ。その言葉は説得力がある。


 しかしロランはシャルロットの狙いを知っている。絶対に思い通りにはさせたくない。

 ロランはシャルロット自身がリカルドに依頼し、敵国から入手した毒だった事実を盾にドミニク国王を説得した。

 これが世間に公表されたら王家の信頼は失墜する。敵国の毒を闇ルートから入手するなど言語道断だと。その非難の矢面に立つのはシャルロットとなり、精神的に参っているシャルロットはその非難に耐えられるとは思えないと、ロランは言った。

 側から見れば愛する人を守る為に公表しないでほしいと懇願している誠実な男に見える。それがシャルロットを守る最善の方法だと熱弁したロランの努力が功を奏し、シャルロットが服毒した事実は伏せられた。


 

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