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この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール
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ジゼルが来ない!


  ロランとシャルロットの悲恋を慰める王妃主催の食事会は和やかな雰囲気で始まった。


 秘密裏にシャルロットを調べているロランはそのそぶりを見せること無くシャルロットに接していた。


 まるでシャルロットを大切にしているかのように、愛しているかのように。


 ジゼルを前にしたときのように心が震える事はない。私にとってジゼルが目の前にいなければこんな事はなんでもない事なのだ。

 

 シャルロットの尻尾を捕まえるまでは微塵にも疑いを持たせない。ロランは徹底してその役割を演じた。

 

それがジゼルを守ることにつながるのだから。


 王妃の食事会は遅くまで続き、途中で帰るわけにも行かず、深夜にようやく解放された。こんな夜中に戻ったらジゼルを起こしてしまうかもしれない。そう考えたロランは別邸に戻らず本宅(公爵家)に帰った。


 今宵ジゼルには何も言わず出かけた。何かを言ってジゼルの心を乱したくないと考えたからだ。


 ただ、帰って来なかったことをジゼルはどう思うだろうか。何かを聞いてきたらなんと答えれば良いのだろうか。

 ロランはベッドに寝転びながらそんな事を考え眠れなくなっていたが、世間に疎いジゼルがこの事実を知る事はないと気が付き目を閉じた。

 

翌朝も別邸に戻らずそのまま城にゆき、夕方にようやく帰った。

 

 

別邸に戻るといつものようにジゼルがロランを出迎えた。ジゼルは変わらず柔らかい微笑みを浮かべている。


だが、その微笑みを見て言いようのないモヤモヤした気持ちが胸に広がった。


 ジゼルは私が無視をしても、外泊してもいつもと同じ微笑みを浮かべている。

私が何も言わず邸宅を出ていって、その夜帰ってこなかったのにジゼルは気にならないのか?

 

ジゼルにそれを求めることなどおかしいと、十分に承知している。だが、まるで意志を持たない空気のような、全てを諦めたようなその瞳を見ると私こそが空気のように感じ底知れぬ虚しさに打ちひしがれるのだ。


 あの夜ジゼルが私に興味を持っていると確信した気持ちが夢だったような気がし、気持ちはますます下がっていった。



 自分勝手な言いようのないモヤモヤした気持ちが胸に広がり強烈な圧迫感を感じている。こんな不安定な気持ちは今まで持った事がない。一体どうすれば良いのだろう?


 ロランは苛立ちを堪えるように奥歯を噛みしめた。


 『あなたを愛する事はない』とジゼルに言った事を棚に上げ空気のように接するその態度にイライラするとはあまりに自分勝手だ。


 バカみたいな自分に嫌気がさす。


 けれど、何をしても何一つ変わらず空気のように接するジゼルを見て、それを見ないようにする私がどれほどの虚しさを感じるのかジゼルは知らないだろう。


 『そんな態度はやめてくれ!』ロランは叫びたくなった。

 

ジゼルにそれを求めることも間違っている。

道理に合わないこともわかっている。

全て私が悪いとわかっている。


だが体が震えるほどに心が乱されるのだ!

 

 ロランは自分の感情を抑えられず眉間に皺を寄せ『そんな目で見ないでくれ』というようにジゼルを一瞥し、声もかけずその場を去った。


 ロランは振り向きもせず部屋へと歩いてゆく。こんな態度をとる自分に嫌気がさしながらも、虚ろな瞳をしロランを見つめるジゼルに対し強烈な心の渇きを抑えることができない。


 この満たされない気持ちをどうすればいいのだ?自問自答しても答えは見つからない。


 ロランはふと、自分が早足で歩いていることに気がついた。いつもなら相手の歩調を考えるのに。だが、きっとジゼルはついて来ているだろう。虚ろな瞳をしたまま、口元に微笑みを浮かべ……


 ロランは苛立ちを抑えるように息を吐いた。


 いつも通り静かに後ろをついてくるジゼルの姿が目に浮かぶ。それをまた腹立たしく思う自分がいる。


 ジゼルは私に興味など無かったのだ。


 ハァ。

 

 なぜジゼルは私の心をこんなに揺さぶるのだろう?どうでもいい存在ならいつも通り感情を表さず接することができるのに、なぜジゼルはこんなに、私自身が嫌になる程の感情を抱かせる?


 魔法が効かない唯一の相手だから?

 私を初めて負かした相手だから?

 私をただの平凡な男だと自覚させたから?

 

 それとも、ジゼルを、


 愛し始めているから?


そんな事を思う自分にうんざりする。


 

ロランは廊下を歩きながらふと違和感を感じ後ろを振り向いた。


ジゼルがいない。


いつもならジゼルは私の後をついてくる。


だが来ない。ジゼルがいない。


 なぜだ?!


「ハァ」


 部屋に入りロランは深いため息を吐いた。洋服を脱ぎソファーに体を投げ出すように腰掛けた。

 

 なぜ来ない。ジセル……、何をしているんだ?


 ロランは顔にかかる髪をかき上げドアの方を見た。ジゼルが入ってこない。

 なぜなのだ?どうして入ってこない?


 ロランは落ち着いていられなくなった。体を起こし両手を膝の上で組む。その手を見つめながら唇を噛む。


 私は一体何をしているんだ?


 自問自答するが答えはすでに出ている。


 ジゼルが気になるなら探せばいい。



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