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この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール
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必ず愛する

 マグノリアの丘。


 ここは幼い頃マグノリアの別邸で遊んでいた時に偶然見つけた場所だ。マグノリアの別邸はベルトランお祖父様のお気に入りの別邸で、マグノリアの木は植っていないのにお祖父様はなぜかマグノリアの別邸と呼んでいる。


 ここはその別邸から歩いて十分ほどの場所だ。


 小高い丘の頂上に一本のマグノリアがある。とても古い木で、公爵家の正面に植えられているマグノリアの木とこの木は同じくらい古く見える。

 

ただ、公爵家のマグノリアは花が咲かない。だがこの木は季節関係なく時々白い花を咲かせる。全く咲かない時もあれば、突然思い出したように咲くこの木に魅せられて、ロランは何かある度にここに来るようになった。



 ロランはマグノリアの木の下に座り目の前に広がる景色を眺めた。


 この場所から見える城や城下町はいつ見ても美しい。


 ふっと肩の力が抜け気持ちが楽になる。


 この特別な場所にシャルロットを連れてきた事はない。シャルロットはこんな場所に興味を持つ人間ではない。美しい調度品に囲まれ優雅に微笑む、そんなシャルロットが目に浮かんだ。だが、もし彼女がここに来たいと言ったら連れてくるだろうか?


ロランは遠くに見える城を見つめた。


……連れてくる事はない。


ロランは顔にかかる長い髪を結びマグノリアの枝を見た。


たとえ恋人であっても私だけの領域に踏み込んでほしくない。


シャルロットを愛していない訳ではない。ただここだけは私だけの特別な場所でありたい。


 ロランは木の幹にもたれ掛かり目を閉じた。


ここに座っているだけで不思議と気持ちが落ち着き、抱えている苦しみや悲しみが和らぐ。

ただ、時々訳もなく涙が溢れそうになり生きていることが嫌になる。


それが何なのかわからない。


 ロランは目を開けてゆっくりと沈む夕日を見つめた。


魔力の無い娘との結婚。


その娘は今、何を思っているのだろう?


 ロランは立ち上がり夕焼けに染まるカパネル王国を見つめた。オレンジ紺、鮮やかなピンク、美しくもどこか現実的に見えない夕焼けを見つめながら歴代の大魔法使いに思いを馳せる。


歴代の大魔法使いはこの結婚をどう受け止め何を思ったのだろうか?


古からの因習、大魔法使い、魔力の無い娘、ドラゴン王の卵。


そして創造の女神メシエの意思。


地平線の彼方、大きな太陽はその力を失ったように大地に吸収され、その後を追うように青白い月が昇り始めた。


この繰り返しを何度見れば大きな重圧から解放されるのだろう?


ロランは青い月を見つめ苦しさに揺れる心を奮い立たせた。


 動き始めた運命に抗うことはできない。この大自然が生命の営みを繰り返すように、歴代の大魔法使いが受け入れてきたこの因習を私の使命と捉え受け入れるしか無いのだろう。

 

 この結婚から逃げることはできない。


 ロランは覚悟を決めた。



 ロランは次期公爵の立場上、本来なら妻と共に公爵家に住むべきだが、得体の知れない女を本宅に連れて来るなど考えられないと、別邸の一つに五ヶ月だけ住むと両親に伝えた。両親は一族と話し合い、誰一人その提案を反対しなかった。


「ロランにはシャルロット様がいる」


「得体の知れない底辺貴族の女など歴史ある我が家門にふさわしくない」


一族は口を揃え言った。だが、ベルトランは違った。


 あの日、ロランの結婚を神官と共に勧めてきたのはベルトランだった。なぜベルトランがこの結婚を勧めるのかロランには全くわからない。ただ、勝手に人生を決められる事への拒否感と反発心が沸々と湧き上がった。しかし、明確な嫌悪感を示すロランに向かってベルトランは言った。


「ロラン、この結婚は必ずしなければならぬ。しかしな、五ヶ月後はお前の自由にするが良い。お前が離婚しあの姫と一緒になったとしても私は否定しない」


ベルトランは徐に椅子から立ち上がりソファーに座るロランに歩み寄った。


ロランも立ち上がりベルトランを見ると、ベルトランはロランの正面に移動し向き合う形で立ち止まった。


一体なんだ?


ロランは怪訝な表情を浮かべベルトランを見た。

ベルトランはロランの瞳を見つめその両肩に手を置いた。


ベルトランの考えていることが分からないロランは目の前のベルトランから一旦目を逸らした。


何を言われるのだろう?


言いようのない不安が心をよぎる。だが逃げる訳にいかない。いや、尊敬するお祖父様の瞳から逃げたくない。


覚悟を決めたロランは小さくため息を吐き真っ直ぐにベルトランを見た。


「だがな、断言しよう。お前は必ず魔力の無いその娘を愛する。今はわからなくても必ずその日が来る。最初は反発もあるだろう、それも理解する。なぜならその娘はこの世界で異物のような存在。ただ、これだけは言っておく。その娘を大切にしなければお前は永遠に後悔することとなる。良いか、これだけは必ず心に留めておくんだ」


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