第二章 見知らぬ女
「この結婚が終わる時」を読んでくださる皆様へ。
第二章 ロラン・ジュベールが始まります。
皆様が思い描く第二章ではないかもしれませんが、
どうぞよろしくお願いいたします。
「何故見知らぬ女と結婚をしなければならないんだ!」
ロラン・ジュベールは怒りを抑えられず神官の胸ぐらを掴んだ。
金色の長い髪をふり乱し、透き通るような青い瞳は怒りの炎に揺れている。
普段物静かなロランがここまで感情を露わにし神殿に乗り込んで来るとは誰一人として想像していなかった。
だが、ロランの気持ちもわからなくは無い。突然見ず知らずの娘と結婚しろと言われ納得する人間などいない。
だがこの結婚は創造の女神メシエの意思。
メシエの計らいの通り因習を執り行うことが神殿の務めだ。
「ロラン様、一昨日お話しした通り、ロラン様が大魔法使いとなられた今、数百年から数千年に一度に出現する魔力の無い娘と結婚することは古からの決まりでございます」
神官は激怒するロランの迫力に震えながらもはっきりと神殿の意向を伝えた。
「私は私の人生を選ぶ権利がある。シャルロットがいるんだ、他の誰かを愛することは出来ない!」
ロランはこの王国のシャルロット姫と交際している。到底この結婚は納得できないというロランの気持ちも理解出来る。だからこそ神殿は王家と公爵家が混乱を起こさないようにと全土に発表する前に、その相手となるジゼル・メルシエ本人さえ知らない段階でこの結婚を両家に極秘通達したのだ。
ロランは胸ぐらを掴む両手にさらに力を入れた。それと同時に神官の顔が赤くなる。
「ロ、ロラン様!全て決まりでございます!大魔法使い、魔力の無い娘、さらにドラゴン王の卵までが神殿にございます。全ての条件が整った今神殿の意向は強制となります。お、お気持ちはわかりますが、ど、どうか落ち着いて、」
神官はロランの手を外そうと抵抗しながらも懇願するような口調で言った。
「そんな条件は古の言い伝えで証拠がないではないか!ハッ、強制?落ち着いていられるか?好きでもない人を妻にしろと言われ落ち着ける人間がいるのか?!」
胸ぐらを掴んでいるロランの両手が震えている。ロランの怒りが頂点に達したのだ。
「ご、五ヶ月、五ヶ月だけ我慢くだされば離婚できます。ただし月に一度の契りは結んで頂かなくては……」
「愛していない人間を抱けというのか?」
ロランは目を見開いた。私を感情のない人間だと思っているのか?!
その迫力に神官は殺されると身を固くした。余計なひと言を言ってしまったと後悔したが今更どうすることも出来ない。だが、胸ぐらを掴むロランの力がふっと抜けた。
助かった!
神官はすかさずロランの気持ちを慰めるような言葉をかけた。
「五ヶ月、五ヶ月の我慢でございます。どうか」
その言葉を聞いたロランは突然魂が抜けたかのように力なく両手を離し、解放された神官はほっとした表情を浮かべ、額にかいた汗を拭った。
……神官に怒りを向けても仕方がない。そんなことはわかっているが、何かを言えば因習だと言われ、この怒りを吐き出す場所さえない。
「ハァ……」
ロランは大きなため息を吐いた。
緊張し小刻みに震えている神官を見て「すまなかった」と言葉をかけ、ロランは神殿を出ていった。
……何故見知らぬ女と結婚しなければならないんだ?
ロランは青く澄み切った大空を仰ぎ見た。
二年前、シャルロットと交際を始めたばかりの私は大魔法使いになる為、魔法に特化した学校で学ぶ為に国を出た。期間は四年。シャルロットは寂しがったが、彼女も王族や上位貴族が行く国外にある特別な学校に行くことが決まっており私たちは遠距離恋愛をすることとなった。
その間は一度も会うこともなく、簡単な手紙のやり取りだけだった。だが、私が予定より早く大魔法使いとなり二年で卒業でき、シャルロットも時を同じくアカデミーを卒業し、二ヶ月前に再会を果たした。だが、離れていたこともあり、そこまでシャルロットを思う気持ちは持っていなかったが、シャルロットの情熱に絆され、私たちは改めて本格的な交際をスタートさせた。
ただ、この因習を知らなかった訳ではない。だが、この関係が公になるにつれ四十年前の事変以来不安定になったこの国を安定させるため、神殿がこの忌まわしい因習を強要しないと安易に考えていた。それに、それとは別に私は私が選んだ人生を歩きたいと思っていた。
しかし予想は外れ神殿は結婚を強要して来た。
通達があった翌日から世間では二人の恋がこんな形になったのは相手の女のせいだと言われ糾弾されていた。この結婚はまだ世間に公表されていない話の筈、けれど世間に漏れたということは関係者の誰かが漏らしたのだ。
その女は名前と顔を晒され悪女だと言われ迫害に近い扱いを受けている。
人々の悪意が強くなればなるほどシャルロットに対する同情が集まりその結果、その女はさらに強い悪意に晒され家から一歩も出られなくなったと聞いた。
けれど見知らぬ女に同情できるほどの大きな気持ちは持てなかった。シャルロットが悲しみのあまり伏せってしまったことの方が心が痛むからだ。何も食べられず、何かを口にしても吐いてしまうと聞いた。ここ数日は会いに行っても部屋から出ることができないと言われることも多く、心配が増す。
相手の女に対する嫉妬心なのか、何度も愛の言葉を欲しがるシャルロット。五ヶ月経てば自由になれると伝えているが、その五ヶ月が待てないと言って泣く。私自身どうすることもできない大きな力に押しつぶされそうになるが、そんな弱音を吐ける相手は居ない。
大魔法使い、公爵家次期当主、シャルロットの恋人。
けれど本当の私はなんでもない一人の人間だ。迷うこともあれば諦めることもある。だが誰一人として私をそんな風に見る人はいない。
不安定な心を隠し、平静を装うことが普通となった今、本当の私を理解する人間は一人もいない。
ロランは移動魔法を使いマグノリアの丘に移動した。
「この結婚がおわる時」を読んでくださった読者様
ありがとうございます。第二章が始まりました。
ロラン編となる第二章、皆様はこの結末をご存知の状況でスタートいたしますが、
ロラン視点の物語はまたジゼルとは違う印象があるかもしれません。
どこまで丁寧に書けるか不安もありますが、どうぞよろしくお願いいたします。
こんな私の作品を読んでくださる読者様には心よりお礼を申し上げます。
そして、おそらく(絶対)また私の先生方に助けていただく事も多いかと思いますが、
誤字脱字衍字、変な文章?など、色々お世話をおかけいたしますが、
どうぞ、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
また、前書き、後書きのポカもあった時はまた教えてください。すみません。
そして感想をくださる方々、本当にありがとうございます。
力になりますし、とても勉強になります。
心より感謝申し上げます。
ありがとうございました!
ねここ




