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【書籍化決定】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第一章 ジゼル・メルシエ

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中途半端


 ロランがいない邸宅がもの寂しく感じたのは初めてだった。

 

 ロラン様がいないと何を見ても色褪せて見える。今までそんなことなかったのに。ロラン様との距離感が変わったから?この先一人きりになって私は耐えられるかしら……。

 

 ジゼルはがらんとした室内を見つめ、ため息を吐いた。

 

 以前よりロラン様を近くに感じているからそばにいることが当たり前に思い始めてた。

 ダメだわ。これではダメだ。

 

 気を紛らわす為にノートを取り出す。

 一人で生きることは寂しいなどいっていられないほど過酷だと覚悟しなければ。

 

 びっしりと書き込んだ一人で生きるためのノートを見つめ、ジゼルは気を引き締めた。


 手を怪我し何もできない今は学んだことの復習をするしかない。

 ジゼルは一日中ノートに向かい一人で生き抜く覚悟を心に刻み込んだ。



 

「ジゼル様、ロラン様がお戻りです」


 夕方になっても部屋で復習を続けていたジゼルをエミリーが呼びにきた。

 

 ロラン様が帰ってきた!

 

 ノートを閉じすぐに部屋を出てエントランスに向かう。


 嬉しい、帰ってきて下さった!


 寂しかった邸宅に灯りが灯ったように感じ、エントランスへ急ぐジゼルの足取りが軽くなった。

 

 エミリーが呼びに来たと言うことはロラン様は馬車で帰ってきた。……出て行った時は移動魔法だったのにお帰りは馬車なのね。


 ……公的な場所から帰ってきたのかしら?


 あれこれ考えながらも喜びを胸に、ジゼルはロランを出迎えた。

 

 だが、馬車を降りるロランを見てふと気がついた。ロランの洋服が出かけた時と違っている。それも見たことのない新しい洋服だ。


 何があったの?

 

 その姿を見て息が詰まった。嫌な想像が頭の中で膨らむ。それと同時に先ほどまで軽かった足がズンと重くなった。


 ロランは城に行くと言っていた。城にはシャルロットがいる。この洋服はシャルロットにプレゼントされたものではないかと勘繰る。だが、それをロランに聞くことはできない。なぜならロランとシャルロットは誰もが認める恋人同士だからだ。それに馬車で帰ってきた理由、二人で何処かに出掛け帰ってきたんじゃないかと想像してしまう。でも恋人同士の二人に何か言う権利は結婚当初から持っていない。


 ジゼルは久しぶりの衝撃に対応できないでいた。息を吸い込み気持ちを整えようとするが、体が空気を拒絶するように胸が圧迫される。胸を抑え息を止める。「平気よ」「大丈夫よ」心の中で呪文のように繰り返し心を落ち着かせ、ようやく深呼吸ができた。


 ああ、いつも思い知らされる。


 ロラン様が優しいから、手を繋いでくれるから気を緩めていた。

 私に対する優しさは偽りの優しさでロラン様の本当の気持ちじゃない。


 本当に私を大切に思ってくださっているならば私が傷つくようなことはしない。


 でも、それでもいいと騙されたふりをしようと決めたのは私だわ。私が傷つこうが怒ろうがロラン様には関係ないことだわ。


 馬車を降り歩み寄るロランを見つめながらジゼルはもう一度深呼吸した。大丈夫よ、いつも通りできるはず。四ヶ月もこうしてきたのだから。


 ロランは出迎えたジゼルに優しく微笑みかけた。ジゼルはその微笑みを見て一瞬だけ戸惑ったがすぐに笑みを浮かべ頭を下げ、部屋に戻るロランの後を追った。


 薄暗い廊下を歩きながら久しぶりに気分が落ち込んだ。夢のような日々はやはり夢だった。現実はこんなもの。だがそれを承知でここまで来た。


 今更何を落ち込めばいい?


 自分自身に問いかける。

 

 ロランの優しさが偽りであろうがなかろうがそれで良いと、目的の為に努力する気持ちはわかると思ったはず。


 ロラン様の目的はシャルロット様を私から守ること。ロラン様が私に優しくする理由はシャルロット様を守るためだ。悪女だと言われている私がシャルロット様に危害を加えないよう優しく接する。あの記事で語っていたことをロラン様は実行しているだけ。

 

 だけどなぜロラン様はこんなに中途半端な優しさを私に向けるの?優しくするなら徹底的にすれば良いのに。それともこんなことで傷つかないと思われているのだろうか?もしくはそれすら思わず、自分本位に優しさを向けているだけだろうか?


 どちらにしてもそんなロラン様の態度に私は少なからず傷ついている。それでもロラン様がそうすることで安心できればと思い私も時に喜びを演じている。でもいい加減虚しくなる。離婚は目前にもかかわらずいつまでこんなことを続ければいいのだろう?


 でも、あの優しさの数々は本当に、全て偽りなのだろうか?

 そう思えない時もあるけれど、いくら考えてもその答えはロラン様しか持っていない。

 

 私はこの結婚が終わる時まで何一つ自分で行動することも選ぶことができないのだわ。ただ与えられた課題をこなすように、ロラン様の前で満足しているように笑顔を見せ、その日を迎えるしか無い。




 食事を終えたジゼルは窓から庭園を眺めていた。


 もうすぐ四ヶ月が終わり最後のひと月は目の前に迫っている。私がいなくなってもこの庭園はオーブリーが守ってくれる。心配はない。

 


 封筒は変わらず毎週届く。


 毎週届くということは、ロランとシャルロットの関係は変わっていないということ。いや、もしかして進展しているのかもしれない。


 あの記事に書いてあったように離婚後のスケジュールが決まり、その為に今日ロラン様は休暇を返上し出かけたのかもしれない。そこでシャルロット様から洋服を頂き着替えた。


 でもそれを問いただすこともできない。何も言わない、言う必要がないと思われている程度の存在が私なのだから。


 この数日嬉しいことが続き浮かれていた。現実は何一つ変わっていないのだからそれを忘れてはダメだ。


 ジゼルは手の包帯を見つめ、ため息を吐いた。


 この状態でもできる訓練を続けよう。


 もう時間がないのだから。

 

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