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【書籍化決定】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第一章 ジゼル・メルシエ

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正直な気持ち

 ロラン様がお戻りに?!まさかこんな日に!!

 


 ジゼルは慌てて木から降り、急ぎ部屋に戻った。

 まとめていた髪が木の枝に引っかかりクシャクシャに乱れたが整える時間も無い。ひどい格好に酷い姿だがロランが部屋で待っている。ジゼルはそのままの姿で急ぎ部屋に飛び込み開口一番謝った。


「ハァハァ、ロラン様、も、申し訳、ございません!」


 ジゼルは肩で息をしながらロランに向かって頭を下げた。

 

 ロランはソファーに腰をかけ勢いよく部屋に飛び込んで来たジゼルを見て絶句している。


 ジゼルは顔を上げ、久しぶりに戻ってきたロランを見て喜びが湧き上がったが、驚いた表情を浮かべるロランを見て自らの姿を思い出した。


 折角お久しぶりにお会いできたのになんたる失態、恥ずかしいわ!


 ジゼルは両手で髪を撫で付け慌てて外套を脱ぎ頭を下げた。その時一枚の葉がひらひらと目の前に落ちた。恥ずかしさに顔が赤くなる。ジゼルは素早くその葉を拾いあげ何事もなかったようにロランに話しかけた。


「あ、改めまして、おかえりなさいませ……。お出迎えできず申し訳ありません」


 ロランは恥ずかしさを堪え平静を装うジゼルを見つめ口を開いた。


「どこかに行っていたのか?」


「いえ……庭園におりました」


「何をしていたんだ?」


 久しぶりに会うからか、ロランは会話をしてくれる。ソファーに腰をかけ足を組みジゼルを見つめるロランの視線に少し緊張しながら答えた。


「木登り、を、その木の上で眠っておりました」


「……木登り?私がいない間に何か大変なことでもあったのか?」


「いえ……」


 ジゼルは俯いた。本当のことを話した方がいいのだろうか?約束通りロラン様と別れて一人で生きてゆくと今言った方が良いのだろうか?


 ロラン様もシャルロット様との結婚を見据え行動しているから、私もちゃんと前に進んでいると言えば別れる気があるんだとわかって下さるかもしれない。そうすればロラン様だって無駄な優しさを私に向ける必要もなくなるし、何より安心していただける。この勢いに任せて私の気持ちを話してみよう。


 怖いけどロラン様に……話そう。


「あの、ロラン様……」

 ジゼルは顔を上げ、緊張に声を詰まらせながらロランに話し始めた。手の中には先ほどの葉がある。一人で生きようと木登りした時に髪に絡まった一枚の葉、その葉を握りしめると少し緊張が和らぐような気がした。

 

「あと一月半でここを出てゆきますから……その為の練習をしています。ちゃんと約束守りますから……」


 心臓が口から飛び出そうなほど緊張している。ちゃんと伝えられている?

 頭の中が真っ白になったが手の中の葉がかろうじてジゼルを支えてくれる。


 きちんと向き合って話すのよ。目を逸らしたら嘘だと思われるわ。


 ジゼルは唇を結びロランを見た。


「出て、どこにいく?」


 ロランは語気を強めジゼルを見た。

 今までのジゼルならばそんなロランの言葉にショックを受け俯き話せなくなっていた。もちろん今も緊張していないと言えば嘘になる。だが、以前より冷静にロランの言葉の意味を考えられるような図太さをジゼルは持ち始めた。

  

 なぜロラン様は責めるような言い方をされるのかしら?私がいなくなる事を喜ぶかと思ったのに。

 私のことは興味がないはずなのにどこに行くのか気になるのだろうか?それとも少し寂しいと思ってくれたのかしら?……いいえ、寂しいと思ってくれている表情でも無い。そう考えると胸の奥が苦しくなる。わかっていることなのになぜ心はこんなに複雑なのだろう。ジゼルは奥歯を噛み感情を抑えた。

 

 ……あ。


 近くにいて欲しくないからだわ。私が近くにいたら思い出したくも無い五ヶ月を思い出しロラン様は落ち着けない、だからそんな気持ちを察しろと言うことだわ。


 ジゼルは手の中の葉を強く握りしめた。悲しく無いと言えば嘘だ。それほどまでに嫌われていると思うと涙が滲む。だけど、それもわかった上で生きて行くと決めた。


 だから、ロラン様に言わなきゃ、遠くに行くと伝えなきゃ。


 ジゼルは結んだ口を開き言った。

 

「どこか……遠くに行きます。ロラン様のお邪魔にならないように……遠くへ」


「私の邪魔?」


 ロランはその言葉を聞き眉間に皺を寄せジゼルを睨むように言った。先ほどよりも鮮明に不満を表している。

 

 ああ、失敗したのかしら?ちゃんと伝わっていない。

 もう二度と関わらないと言わなきゃダメだったんだ。ロラン様とシャルロット様の幸せの邪魔にならないように遠くで生きて行くとちゃんと伝えなきゃ伝わらないのだわ。本当はまだ迷いがないわけではない。もっと、その時が近づいたら言えば良いと思っていたのも事実だ。だけどここまで話し、これ以上は聞かないでなど言えない。自分の気持ちを口にした以上は最後まで言わなければ前に進めない。


 ジゼルは固唾を呑みロランに話し始めた。


「はい、あの……ロラン様はシャルロット様と一緒になられるから、形だけだったとしても元妻が王国にいるのは、きっとあ、そんな気になさらないほど私はなんでもない人間ですが、そんな存在居ないほうが良いと思いますから……遠くに……」


 ジゼルは話しながらも泣きそうになった。言葉を詰まらせながらも必死に伝えようとした。

「……ハァ」

 

 ロランはため息を吐きながら首を左右に振り、黙ってジゼルを見た。 

 

 ……どうしよう、私何を間違えたのかしら?ロラン様は不服そうだわ。お二人に今後二度と会いませんとはっきりした言い方をした方が良いのかしら?でも、そんな言い方は上から目線のようでよく無い気がする。どうしよう…どう言えば伝わるのかしら?


 手の中の葉が汗で湿ってきた。


 どうしよう……。


 ジゼルはロランの不穏な態度に不安を感じた。

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