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この結婚が終わる時  作者: ねここ
第一章 ジゼル・メルシエ
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愛してほしい


 「う……ん」

 いつのまにか眠っていた。目が覚め隣を見てもロランは居ない。がらんとしたベッドを見つめていると寂しさが込み上げる。またロランが眠っていた場所に手を伸ばす。


 ロラン様の温かさが恋しい。諦めようと思っても心はいつもロラン様を探してしまう意志の弱い私。

 情けないわ。

 

「ハァ……」

 

 ジゼルはため息を吐いた。時計を見ると真夜中の二時。虫の音さえ聞こえない。虫も眠ったのだろうか?帰る家があるのだろうか?バカみたいなことを考えてしまう。……ダメだ、寝よう。

 

 ジゼルはもう一度目を閉じた。シーンとした暗闇の中、この世界に自分だけしかいないような感覚に陥る。幼い頃に感じた得体の知れない恐怖が心の中で広がってゆく。誰でも良いから大丈夫だと、言って欲しい。


 ジゼルは自分を抱きしめるように両手を交差し「大丈夫」と呟いた。


 けれど、大丈夫と言うほどに漠然とした不安が増す。以前は大丈夫といえば大丈夫だったはずなのに。やはりいつも呟いていた大丈夫は大丈夫ではなかった。気持ちを誤魔化すことに慣れすぎ本当の気持ちを見ないよう生きてきた自分が、少しだけ可哀想に思えた。


 

……眠れない。

 

 心の中の重苦しい気持ちが呼吸と共に漏れ出しこの部屋を覆う。それを又吸い込み不安が増してくる。怖い、ここは本当にジュベール公爵家の別邸なのだろうか?一人だけどこかに取り残されてしまったのではないか?不安になりシーツを掴む。さらっとした質感がジゼルの心の不安をかき消した。メイドの皆が毎日取り替えてくれるシーツは清潔で肌触りが良くお日様の香りがする。ぽっと心に温かい火が灯る。強張った体から力が抜けた。


 いつもありがとう。


 ジゼルは仰向けになり暗闇の中天井を仰いだ。どうせ眠れないならば違うことを考えよう。

 ジゼルはロランの事を思った。


 ロラン様、今どちらにいらっしゃるの?

 真夜中だから眠っていらっしゃるだろうか?ゆっくりと眠れていますか?

 ジゼルはふと国境で勃発した戦闘を思い出した。

 国の守り神と言われるジュベール公爵家。頼りになるジュベール公爵家。だけどジュベール公爵家は誰が守ってくれるのだろう?大魔法使いと呼ばれるロラン様はいくら強くても無敵ではない。誰がロラン様を守ってくれるの?


 不安に心が押しつぶされそうになる。

 

 ああ、どうか今はシャルロット様と一緒にいて欲しい。シャルロット様と共に眠っているロラン様を想像するだけで涙が滲み出てくるが戦争が始まった今、その方がどれだけ良いか。


 どうか、どうか、戦場ではありませんように。


 戦場、、


 そんなことを考えたら余計に眠れなくなった。


 眠れない時に眠ろうと努力する事は見当違いなのかもしれない。無理なものは無理だと心と体が教えてくれる。それに、眠れない時は眠れない自分ととことん付き合うことも眠るための大切な作業かもしれない。

「ふぅ……」

 ジゼルはベッドから起き上がった。

 

 気分転換に真夜中の庭園を眺めようと窓辺に移動した。カーテンの向こうが明るい。月が出ているようだ。窓を覆っている大きなカーテンに手をかけてゆっくりと引いた。

 スゥーと月明かりが室内に差し込む。神様が降臨するような光の筋がテーブルの花を照らす。青白く輝く花を見ていると目の前の空間が歪みロランが現れた。

 


「ロ、ロラン様?!」


 ジゼルは目の前に突如現れたロランに驚いた。

 ロランは無言でジゼルを見つめている。長い髪は結われておりローブを羽織っている。そのローブは防御魔法が施されているものだ。だが、所々焼けた跡があった。ボロボロのローブにホコリだらけのブーツ。結われた髪はいつものような輝きはない。

  

「ま、まさか?!」

 

 ロランの姿を見たジゼルは青ざめた。心臓が冷えてゆくのがわかるほどの衝撃。


戦いに参加していたの?お怪我は?!どうしよう!!不安が的中してしまった。戦闘に参加されていたんだわ!!

 

ジゼルは震えた。こんな姿のロランを見た事がなかった。


 どれほどの時間戦っていたの?どうしよう、ロラン様に私ができることは?


 ジゼルは血相を変えロランに歩み寄り声をかけた。

 

「ロラン様!戦争に?お、お怪我はございませんか?!私にできる事があれば……」


ジゼルがロランに声をかけた次の瞬間、ロランはジゼルを押し倒した。

「?!ロ、ロラン様?」

 ジゼルはベッドに仰向けに押し倒されロランはジゼルの両肩上に手をつくような形で覆い被さり至近距離でジゼルを見つめている。その瞳は燃えるような輝きがあり、ジゼルはロランの瞳に囚われた。

 

 私が最も愛するロラン様の燃えるような瞳。

 

見つめてもらえることに眩暈がするほどの喜びを感じた。

「ロラン……様」

 ジゼルは戸惑いながらももう一度ロランに声をかける。だがロランは変わらず無言でジゼルを見つめている。だがその瞳は情熱的な、強く激しい()()()()の感情を含んでいる様に見えた。

 

 そんな瞳で見つめられると、頭では諦めようとしていても心がロラン様を求めてしまう。


 私を見てほしい、愛してほしい!


 ジゼルも想いを込めた眼差しをロランに向ける。言葉はなくともこの想いが伝わって欲しい。一方通行であってもどうか受け取って欲しい。


ロランは目を細め、ジゼルの頬に優しく触れた。

 

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― 新着の感想 ―
ロランがロランが遂に心変わりしたのでしょうか??? いや、してなくても良いからジゼルを大切にして欲しい! ジゼルは自分の気持ちを正直にぶつけて欲しい 玉砕されても
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