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【書籍化決定】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第一章 ジゼル・メルシエ

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広いベッド


「今晩契りを結ぶ」


 朝食が終わった後、部屋で出掛ける準備をしていたロランが突如言った。

 

 今宵?!


 ジゼルはロランの言葉を聞き動きを止めた。最初の契りも二回目の契りも月末の最終日だった。したくないことを先延ばしにし仕方なく行っていると感じていたジゼルは今月も同じ月末だと思っていた。

 だが月末までまだ十日もある。なぜ急に?ジゼルは支度をするロランを見た。ロランは上着を羽織りジゼルを見る。ロランは返事を待っている。ジゼルは混乱しながらも納得できる答えを導き出した。


 きっとロラン様は月末に用事があるからかもしれない。


「わかりました」


 ジゼルは返事をし、外套を羽織ったロランに頭を下げた。そして顔を上げエミリーからハンカチを受け取りロランに渡す。ロランはハンカチを手に握り何か言いたげな表情を浮かべたが「なんでもない」というように首を横に振り部屋を出た。


 エントランスでロランを見送った後部屋に戻ったジゼルにエミリーは嬉しそうな表情を浮かべ言った。

「今晩は気合を入れます」

 屈託のない笑顔を向けるエミリーを見てジゼルは穏やかな口調で言った。

「エミリー、いつも通りでいいのよ。これは義務だから」

 ジゼルは瞳を伏せながら微笑んだ。

 どこかもの悲しそうに微笑むジゼルを見てエミリーは真面目な顔をし言った。

 

「私はそう思いません。ロラン様は今ジゼル様を大切にされていると思います。でも……ジゼル様にも色々事情がおありでしょうから……あ、差し出がましいことを、すみません、失礼します」

 ジゼルは黙って頷き、エミリーは申し訳なさそうな表情を浮かべ部屋を出ていった。

 

 ……エミリーはロラン様の真意を知らないから。

 

 ジゼルは部屋でソファーに腰掛け今宵のことを考えた。

 

 ロラン様は何を考えているんだろう?必要以上のことは一切話をされないけれど、今日契りを交わす理由は何か考えがあってのこと。けれど私にはさっぱりとわからない。


 契り、か。

 

 ジゼルは天井を見上げた。

 

 ……二回目の契りはとても悲しかった。今晩はどんな気持ちになるのだろう?考えると怖い。どうしよう、ロラン様が優しくても冷たくても、私にとってどちらも辛い。

 

 両手を握りしめ大きく息を吐く。

 三回目の契り。

 様々なことがあった後のこの契りは不安の方が大きい。

 

 ジゼルは立ち上がり窓辺に移動した。

 一人テーブルに向かって考えていると息が詰まる。だからこの窓から見える景色は気分転換になる。いつ見ても花が咲き乱れ美しい庭園。鳥やリスが時々姿を見せジゼルの心を和ます。

 


 結婚して三ヶ月、もうすぐ四ヶ月を迎えるが、毎日ロランが何をしているのかさえジゼルは知らない。

 城へ仕事に行っているとエミリーは言っていた。


 城にはシャルロットがいる。二人の姿を想像するだけで息が詰まる。

 以前、ロランからシャルロットの残り香が漂うことがあった。城で逢瀬を楽しんでいたのだろう。その残り香を思い出すだけで全身の血の気が引く。生々しい痕跡に深く傷ついた。


 けれど……今はほとんど無い。その理由もわからない。


 単純にシャルロットが香水を使わなくなっただけかもしれないが、その香りで傷つくことが無くなったのはジゼルの中で大きなこと。見えないところで二人が愛を語り合っても知らなければ傷つかない。知らないことは時として心を安定させるのだ。


 だが、二人は恋人同士でジゼルがロランに片想いしている関係だ。二人が何をしようとジゼルにはそれについて何か言う権利は最初から無い。ジゼルが二人の関係に傷つこうがロランには全く関係のない話なのだ。

 


 夕食が終わり支度をし部屋で待っているとロランが現れた。ドアの開く音に緊張が走る。鼓動が早くなったのがわかった。立ち上がりロランを見るとロランはなぜか外套を羽織っている。


「今から出かける、今宵は無しだ」


 言い終わるか終わらないかのうちにロランは移動魔法で出て行った。

 ジゼルは唖然としロランの消えた場所を見つめていたが、内心ホッとした。緊張で体に力が入っていたのか、指先が冷えている。ジゼルは手を擦り合わせながら突然出ていったロランが気になった。

 

 何かあったのだろうか?それとも同様に、前回の契りを思い出し辛くなったのだろうか?


 ジゼルは肩にかけていたストールをソファの上にかけベッドに移動した。マットに腰をかけ靴を脱ぐ。

 先ほどまで緊張していたせいか少し肌寒く感じジゼルは一人広いベッドに横になった。


 いつも隣にいるロランがいない。そっと手を伸ばしロランが寝ている場所を触る。ロランがいる時には絶対にできないこと。でも時々、ジゼルはロランが寝たのを確認しベットの上で乱れ広がっているロランの長い髪に触れる。ジゼルが触れるのは毛先だがそれだけで心拍数が上がり幸せな気持ちになれる。気づかれないように指先で触れるだけだがジゼルにとって勇気を振り絞った積極的な行動だ。

 きっと側から見たら鼻で笑われそうなバカみたいなことだが、ジゼルにとって唯一、自分の欲に忠実な行動。

 

 ……だが、指先の向こうにロランは居ない。ジゼルは指先を握り目を瞑った。

 


 ロランはそのまま二日間帰ってこなかった。

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