初夜2
なぜ攻撃しない?ロランは戸惑った。
しかし次の瞬間、ガラスが割れるようにダークネスドラゴンは粉々に散った。
「……うそだろ?」
ロランは目の前で起こった現実を理解出来なかった。
この世界で自分だけしか使えない最高難度の召喚魔法を使ったのだ。
そもそも召喚魔法が効かない人間は一人もいない。……そんな人間が居るなど考えたこともなかった。
だが今目の前で最強の召喚魔法が無効になったのだ。
世界でただ一人魔法を無効に出来る人間。
それがジゼル。
ロランは言葉を発することなくまじまじとジゼルを見つめた。
その瞳は美しく輝き、あの日見た感情の無い瞳では無かった。そんな眼差しで見つめられたジゼルは少しだけ存在を認められたように感じ強く握りしめていた手を緩めた。
ダークネスドラゴンを召喚した衝撃で部屋の半分が吹っ飛んだ。その時窓ガラスが割れその破片がジゼルの頬を切った。
ジゼルは頬の血を拭い微笑みながら言った。
「物理攻撃は効きます」
「……部屋が壊れてしまった。……だが今宵契りを結ばなければならない、ここでいいか?」
ロランは柔らかい表情でジゼルを見つめ言った。
「はい、構いません」
……ジゼルはロランの優しい愛撫に身を委ね契りを交わすことが出来た。
ジゼルはソファーに座りロランの事を考えていた。先程破壊された部屋はロランの魔法でいつの間にか直っている。
先ほどの情事を思い出すと恥ずかしさと喜びが湧き上がり気が遠くなる。
「ハァ……」
ジゼルは両手で顔を覆い熱を帯びたため息を吐いた。
ロラン様は、本当は優しい人。
幼い頃から見ていたからそれは知っている。ただ、出会いが悪すぎた。
こんな形の出会いじゃなければ……。
ロランと抱き合い乱れたベットを見つめた。
ロラン様は情事が終わるとすぐに私から離れバスローブを羽織り部屋から出て行った。
私に声をかけることも振り返ることもせずに……。
……ああ、私は何を勘違いしているんだろう?
ロラン様は好きで私を抱いたのではない。
義務。
―義務で私と結婚し、義務で私を抱いた。
愛など存在しない。
どんな出会いであってもロラン様は私を選ぶことは無い。
この国のお姫様と対等な立場で愛しあえるロラン様が、何一つ優れたものがない私を相手にする訳がない。
現に、抱かれる前は……殺されそうになった。
ジゼルは現実を思い出した。
ロラン様は本気で黒魔法を使った。しかも召喚魔法。
もし私が嘘を言っていたらあのまま殺されている。
けれどあの召喚獣を見た時に感じた不思議な感情……。
ダークネスドラゴンはなぜすぐに私を攻撃しなかったんだろう?
あの姿を思い出すと心の奥底に喜びと深い悲しみが広がる。
何故だかわからないが、あのドラゴンにまた会いたい。
でも、
……私じゃなかったら、
普通の人間だったら即死している。そんな魔法をロラン様は躊躇なく使った。
きっと心のどこかにこのまま私が死んでも構わないと思っていたはず。
悲しくないといえば嘘だ。
でも無視されるより殺された方が幸せだと感じる。
殺すという事は良くも悪くも存在を認めてくれているから。