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この結婚が終わる時  作者: ねここ
第一章 ジゼル・メルシエ
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令嬢達の悪意

 令嬢たちはベルトランとロランがいなくなったタイミングを見計いシャルロットの周りに集まった。

 ジゼルに好意的だった貴族達も周りにいない今、絶好のタイミングだ。



「ジゼル・メルシエ?聞いた事ない田舎の底辺貴族がジュベール公爵家に足を踏み入れるとは」

 

 シャルロットの右側に立っている赤い髪の令嬢が口火を切った。扇子をジゼルに向け意地悪い笑みを浮かべている。シャルロットは口元をハンカチで覆い、憂いを含んだ美しい瞳は手元を見つめ黙っている。

 

「魔法が使えないって聞きましたわ。神に見放された人間と噂されてますのよ」

 

 シャルロットの左側に立つ黒髪の令嬢がそれに続き、顎を上に傾けバカにしたような目線をジゼルに向ける。この二名はシャルロットの取り巻きの上位に立つ令嬢のようで、その他の令嬢達はその言葉に頷きジゼルを睨みつける。

 

「ロラン様もお辛いでしょうね。シャルロット様、もう少しの辛抱ですわ。」

「あと三ヶ月で捨てられる女ですもの、この先貰い手がないでしょうからお気の毒ねぇ」

「本当にお気の毒だわぁ」

 芝居がかったその言葉に周りの令嬢が笑う。これぞイジメの構図だ。

 

 一部の貴族には好意的に対応してもらえたが、それでも大半の人間にはよく思われていない。令嬢達以外の貴族もその声を聞きクスクスと笑っている。完全なるアウェーだ。

 

 シャルロットは令嬢の言葉に反応することなく黙っている。その斜め後ろには女官がおりシャルロットの耳元で何か話している。シャルロットの口元が動き女官は頷き下がって行った。


「図々しい」「本妻気取り」「あさましい」


 令嬢達が扇子を口に当て陰口を言う。


 聞こえてくるのは結婚が決まった時から言われ続けていた言葉。けれど今日はもっと辛辣だ。


 国を賑わす当事者が三人同じ空間にいる。


 妻が一人で茶会に参加し、夫は愛する女性をエスコートしている。その女性は愛する男性の妻を見て泣く。


 他人にとってこんなに面白おかしいことはない。

 ジゼルは人々の冷たい視線と陰口が聞こえ耳を塞ぎたくなった。


 

 


 目元にハンカチを当て令嬢達に慰められているシャルロットは時折ジゼルを見て涙を流す。そしてその様子を見て少し離れた場所で雑談していた貴族達もジゼルの噂話に花を咲かせ始める。


「ジュベールは彼女を認めておりません」

 ベルトランがいない事をいい事に一族の誰かが言った。

 

「誰にも認められていないジュベール夫人」

「あらぁ、そんなこと言ったら可哀想じゃない?私だったら夫に愛されていない時点で死にたいわぁ」

「クスクス」

 

 ジゼルは向けられる視線と言葉に堪えるよう両目を閉じた。


 

 

「あの……」


 突然声をかけられジゼルは顔を上げた。

 

「……ジゼル様、生けてある花の種類を教えて欲しいとクレール伯爵さまが……、」


 ジゼルは使いの使用人の言葉を聞き我にかえった。あまりにも苦しいこの状況に意識を遮断していた。

 幼い頃継母から折檻を受けた時こうして意識を閉ざし現実から心を守ったことを思い出した。逃げることもできない状況で唯一心を守る方法。


 でも、今は対応しなければ。


「ジゼル様、ベルトラン様も一緒にいらっしゃいますのでご案内します。」

 

「……はい。」

 ジゼルは気持ちを入れ替えるように深呼吸した。息を吐くと心の重みがほんの少し軽くなる。いつまで続くか分からない悪口から逃れる術ができた。すぐに立ち上がり使用人の後をついて歩き出した。

 

 しかし、運の悪いことに案内された方向には陰口を言っている令嬢達がいる。令嬢達の中心にはシャルロットがいる。その前を通るルートだと気がつくと足が鉛のように重くなった。深い沼が足を捉え奈落の底に引きずり込まれるような得体の知れない恐怖が襲う。鼓動が速くなり眩暈がするほどの緊張感に包まれた。

 

 目の前にはシャルロットがいる。ロランはまだ戻って来ていない。

 


 ジゼルは迷った。シャルロットに気が付かぬふりをしてそのまま通り過ぎるか、立ち止まり挨拶をするか。

 ……気づかぬふりをしたい。ジゼルは揃えた指先を折り曲げ力を入れた。このまま素知らぬ顔をして通り過ぎたい。

 だがそんな事をすればより辛辣に責められる。それにシャルロットは王族だ。素通りは許されない。


 前を歩く使用人がシャルロットの前で立ち止まりうやうやしく一礼しを通り過ぎた。シャルロットはハンカチを目に当て見向きもしなかった。

 ジゼルは意を決して令嬢達の刺すような視線の中シャルロットの前に立った。逃げ出したい状況の中、ドレスを持ち上げ王族への敬意を評し一礼した。


「まぁ、嫌味ったらしい」


 赤髪の令嬢が言った。


「誰も認めていないのによくもまぁここに来れるわねぇ」

 黒髪の令嬢が言うと他の令嬢達もジゼルを上から下まで舐めるような視線を送った。その粘り気ある視線はジゼルの首元を絡め圧迫する。


「シャルロット様、ご安心なさって、ロラン様はこんな女よりシャルロット様をエスコートされていますからそれが答えですわ」

「そうですわ!神殿の要請と言えども辞退もせずお二人の中を引き裂いた悪女ですもの」

「ロラン様と全てが不釣り合いなジゼル・ジュベール様。だれも認めていないお可哀想な夫人」

「ロラン様は毎日お辛いでしょうねぇ」


 令嬢達は容赦なく悪意を向ける。


 ジゼルは頭を上げられない。今頭を上げたら涙がこぼれてしまう。

 でもここで泣いてしまったらそれこそ何を言われるかわからない。

 きっと私が何をしても全て批判される。


 我慢するのよ。

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