初夜1
「魔力ゼロとは魔力が無いだけじゃないのか?魔法使いがお前に対して魔法が使えない?」
ロランは驚いた顔をしジゼルを見た。
「はい。私にどんな強力な魔法を使っても全て無効になるのです。た、例えロラン様の黒魔法であっても」
ジゼルは初めてロランにしっかりと見つめられた。美しい瞳に映し出されたその表情は今にも泣き出しそうに見える。が、悲しいわけじゃない。
ロランに見つめられ感動に近い感情が目の奥を熱くさせる。喜びと緊張で指先が震えた。
「信じられないな。魔法が効かない人間が居るなど聞いたことがない」
「はい。は、初めて話しましたから」
ジゼルは震える両手を握りしめロランに言った。
ロラン様はこんな私をどう思うのだろう?
魔法が使えない上に無効になるなど、「神から見放された人間」だと呆れられてしまうかもしれない。
ジゼルは幼い頃から言われ続けていた言葉が頭をよぎりロランを見つめる事ができなくなった。
……もっと嫌われてしまう。
ジゼルは視線を背け握った両手を力無く見つめた。
「……お前、怪我をした時や病気の時もそうなのか?」
ロランの青い瞳がジゼルを真っ直ぐに見つめる。
「え?」
ジゼルは予想もしなかった問いかけに驚きの声を上げた。
この世界の常識として軽度の病気や怪我は自らの魔法で治療し、深刻な症状は白魔法使を頼る。しかしジゼルは魔法を無効にする。些細な病気や怪我もジゼルにとって深刻な問題になる。
それに、魔法を使わない医術を心得ている人間も多くなく近くに医者がいなければ死んでしまう可能性がある。
魔法を使うことが当たり前のこの世界で誰一人そんなことを気にかけてくれた人間はいなかった。
しかし、大魔法使いと呼ばれるロランがジゼルに聞いたのだ。
まさかロラン様が聞いて下さるとは……。
嬉しくて、
……もう泣きそう……。
ジゼルは唇を軽く噛んだ。
でも、泣いてはダメ。好きでもない女が泣くなど鬱陶しく思われるわ。
ジゼルは涙を押し返すようゆっくりと瞬きをし、感動に震える気持ちを整え言った。
「はい、魔法である限り、私には一切効きません」
ジゼルは精一杯の笑顔を浮かべ、真っ直ぐにロラン見て答えた。
「ダメだ、試してみたい。お前嘘をつくと死ぬぞ?」
ロランは好戦的な笑みを浮かべジゼルに言った。
ああ、ロラン様にどんな形であろうとも初めて興味を持ってもらえた。無視されるよりいい。冷え切った指先が暖かくなった。
「嘘は言いません。試して頂いて結構です」
ジゼルは最強の魔法使いと呼ばれるロランの圧力に身体が硬直するほど緊張したがそれ以上に興味を持ってもらえた喜びで少しだけ微笑む事ができた。
ロランはジゼルの言葉に返事もせず突如最高難度の召喚魔法を使った。
暗黒の龍王・ダークネスドラゴンが現れた。
その圧倒的な破壊力で対象者を跡形なく消し去るとんでもない召喚魔法だ。
この召喚魔法は世界中でロランしか使えない。
ジゼルは生まれて初めて召喚魔法を見た。
目の前に召喚されたダークネスドラゴンを見た時、時が止まったように感じた。
漆黒の闇のような黒い体と、血のように赤い、悲しみをたたえた瞳。
ジゼルはその瞳を見て胸が締め付けられるような苦しさを感じた。
ダークネスドラゴンはジゼルをめがけ襲い掛かろうとした。しかし触れる瞬間、目を細め懐かしむようにジゼルを見つめ言った。
「……やっと会えた」
しかしジゼルにその言葉は聞こえなかった。