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【書籍化決定】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第一章 ジゼル・メルシエ

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ジュベール公爵家


 ジュベール公爵家に到着した。


 馬車は大きな門をくぐり公爵家の広大な敷地に入った。

 門から屋敷まではおおよそ数百メートルほどの距離がある。敷地内には大きな馬車道が造られており、エントランスまで馬車で乗り付ける。


 今日は多くの招待客がいる為馬車道は渋滞しており、ジゼルの乗っている馬車もゆっくりとエントランスに向かって進んでいる。歩いた方が早いと思うが、そんなことをしたら笑いものになる。

 ジゼルは馬車のカーテンを少し開け、その隙間からジュベール公爵家の本邸を見た。


 本邸は想像以上に大きく、その圧倒的な佇まいを目の当たりにし息を呑んだ。三階建ての重厚な石造り。長い歴史の中で苔や蔦が一階部分を覆っているが薄暗い印象はなく太陽を背にそびえ立つ姿は威厳すら感じる。魔法に特化した超一流の家系が住んできた屋敷はその名声に相応しい輝かしいオーラを放っていた。


 

 その由緒正しい公爵家の()()()()嫁として足を踏み入れることにジゼルはためらいを感じた。


 招かれざる客。私のような人間が来て良い場所じゃない。

 

 ジゼルは思い煩いながら広々とした庭園に視線を移した。

 

 庭園は一分の隙もないほどきっちりと整備されており雑草など皆無だ。


 整然とした庭園と威厳溢れる屋敷。


 この組み合わせだけで相当な圧を感じ逃げ出したくなる。

 

 庭園にはつげの木のような緑葉樹が長方形にカットされており迷路のように植えられていた。その高さは大人の腰ほどで高くもなく低くもない。

 馬車の中から見ると幾何学的な模様に見える。おそらく屋敷の二階や三階から眺めると全体像が見え素晴らしい景観だろう。


 ただ、魔法で管理されているせいかジゼルには無機質に感じた。


 ジゼルはオーブリーが持たせてくれた花束を見た。

 どの花も瑞々しく生命力が溢れている。自由に伸び伸びと、それでいて凛とした強さと美しさがある。濃厚な香りは官能的で命の輝きを放っているようだ。

 この庭園を見ているとベルトランがこの花を持ってきて欲しいと言う理由が少しわかるような気がした。

 この花が無機質に感じるこの雰囲気を変えてくれる。それは心地よく誰もが肩の力を抜いて笑えるような有機的な温かい空間。


 オーブリーありがとう。

 ジゼルは花束を見てオーブリーやメイド達を思い出し自然と笑顔が浮かんだ。


 馬車がエントランスに近づいた。


 エントランスの正面、一番目立つ場所に葉も花もない大きな古木がぽつんと佇んでいた。 

 幹も枝も黒に近い焦茶色で枯れているように見える。


 その古木は庭園の一番目立つ場所にあり、整然とした庭園と古木の対比は見る者を惹きつける。古木の周りには有機的な暖かいオーラがありジゼルはその古木に魅入った。


 その古木の前では威厳溢れる本邸も、一分の隙もない庭園も無力化して見えた。この古木の存在を浮かび上がらせるための背景にしか見えない。


 圧倒的な存在感。


 この古木に宿っているものこそジュベール公爵家の揺るがない魂に思えた。

 

 不思議な空間。


 この古木を見ていると何か語りかけてくれるような、どこか懐かしいような不思議な気持ちになる。「あなたは何の木?葉や花は?……眠っているのかしら?」ジゼルは馬車の窓から古木に話しかけた。その問いに応えるように枝が揺れる。


 不思議な木。

 

 ジゼルは目を細め古木を見つめた。



  

 ……「ジゼル様、もうすぐ到着いたします」

 

 御者が声をかけてきた。 


 お茶会の招待客でエントランスはごった返している。馬車の窓からその様子を見て少し安堵した。多くの人が集まるお茶会、きっと誰も私の存在など気にしない、気がつかないだろう。それにまさか悪女と呼ばれジュベール一族から嫌われているジゼル()が現れるなど誰も想像していないだろう。

 そう考えると少しだけ緊張が和らいだ。


 馬車がエントランス前に到着し、花を抱え馬車を降りると信じられないことが起きた。


 正装姿のベルトランがジゼルをエスコートするために待っていたのだ。

 招待客はベルトランとジゼルを囲むように見ている。

 

 ジゼルは驚き立ち止まった。まさかこんな状況になるとは思いもよらなかった。

 

「ジゼル、待っておったぞ」


 驚き立ち止まっているジゼルにベルトランは話しかける。その表情は優しくその声は温かい。ジゼルは我に返りベルトランに挨拶をした。


「ベルトラン様、この度はご招待頂きありがとうございます。このドレスも……。ま、まさかベルトラン様が出迎えて下さるとは思わずご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません」


 ベルトランは戸惑うジゼルに近づき「気にするな」と言うように満遍の笑顔を浮かべその手を取った。


 ベルトランは片手で花束を抱えているジゼルを見て使用人を呼ぼうとしたが、花を抱えるジゼルの美しさと、目立たぬように花で顔を隠そうとする可愛らしい姿を見てそのままジゼルをエスコートすることにした。

 

 ジゼルはベルトランの笑顔を見て緊張がほぐれた。が、大注目を浴びていることに気が付き一瞬で身体に力が入った。だが花束で顔を隠すと少し緊張が和らぐ。花の隙間からベルトランを見るとベルトランはジゼルの気持ちを理解したように微笑む。


 ジゼルも微笑みを浮かべ、ベルトランと共に歩き出した。


 

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