大丈夫の魔法
シーンとした部屋に残されたジゼルは両手で顔を覆った。
先ほどの張り詰めた空気が静寂にかわり物音ひとつしないこの部屋にいると押し潰されそうなほどの孤独を感じる。世界に一人だけ取り残されたような錯覚に陥り顔をあげ窓の外を見た。
庭園は花が咲き乱れ暖かい日差しが降り注いでいる。
ジゼルはその様子を眺め「大丈夫」と呟いた。
孤独。
幼い頃から常に隣り合わせだった感情。大丈夫と呟けば大丈夫だと思える。
その繰り返しでここまできた。
この先も孤独と大丈夫を繰り返し生きてゆくことになるだろう。
ジゼルは自分を抱きしめるように両手を交差させそのままうずくまった。
ロラン様とシャルロット様が出席するお茶会。私と結婚していても変わらぬ愛ある関係。
おそらく二人揃ってパーティに参加するのは今回が初めてではないはず。誰もが認める二人はどこに行っても暖かく迎え入れられるだろう。世間にとって夫婦揃って参加する事の方が事件になるからだ。
そんな場所に私が行けば……。
申し訳なさと言いようのない不安が胸に広がる。震えるほど怖い。
「愛する二人を引き裂く悪女!」
頭の中で聞こえないはずの声が聞こえる。繰り返し言われているこの言葉。
この状況に陥った今、そう言われても仕方がないと心の片隅で思い始めた。
愛し合う二人を引き裂くつもりは毛頭無かった。だが、現実はロランに迷惑をかけている。
心と現実は真逆に動く。
空気のように生きるはずだったのに。
でもなぜベルトラン様はそんな大切なお茶会に私を招待したのだろう……。
ジゼルは立ちあがった。
何がどうであってもロランを困らせている現実は変わらない。
居ても立っても居られない気持ちを落ち着かせようと部屋の中を歩き回る。
落ち着かない。
今すぐにでもベルトラン様の元に向かいたい。だが、何もするなと言われた手前、行動することができない。
ジゼルは時計を見つめ時間の経過の遅さにため息をはいた。気持ちを落ち着かせようとソファーに座り、気づかぬうちに握りしめていた両手を開いた。手のひらには爪のあとがついている。
そんなに握りしめなくても……
自分の事なのに可笑しくなった。どれだけ強く握っても、握らなくても状況は変わらない。だったら何もしない方が痛くないのに。
私……バカみたい。
こんな私と結婚させられたロラン様は本当に……お辛いでしょうね。
……ベルトラン様はロラン様の頼みなら聞いてくださると思う。ベルトラン様もロラン様が困るような事を強制しないでしょうしそれに、私を招待なさった事も手違いなはず。
きっと大丈夫。大丈夫よ。
ジゼルは立ち上がり窓辺から庭園を見つめた。
ロランが出て行って一時間が過ぎた頃、室内の空間が歪みロランが目の前に現れた。