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【書籍化作業中】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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奪われた命と奪った命


 ロランは唇を結び瞼を閉じる。

 今日までのことを思い返すが、選んでもらえる可能性はないに等しい。


(この状況だったらジゼルは去ってしまう!)


 ロランの心は沈む。

 五百年前、最後の契りを結べず、ドラゴン王も誕生させられず、取り残された日々を思い出す。

 おそらく気が狂っていたのだろう。その後の記憶がほとんどない。

 

 だが、ドラゴン王がいない状態で現在に至り、そのお陰で再びジゼルに巡り会えた可能性もある。

 だが……不安と焦りがロランを襲う。

 

 ロランは意を決したように瞼を開け、ベルトランに話し出す。

  

「……お祖父様、薄々感じていらっしゃるかと思いますが、五百年前、私とジゼルは出会っていました。しかし、ドラゴン王が誕生する寸前のところで……」

 

「ジゼルが殺された、だろ?」

 

 ベルトランが言う。

 

 その言葉に息が止まる。


 後悔してもし尽くせないあの瞬間、一人で逝かせてしまった深い後悔と罪悪感と自身への怒り。

 思い出すだけで目頭が熱くなり体が震え出す。


 ロランは深呼吸し、気持ちを整えベルトランに答える。

 

「……はい。私は、今回のことで怒りに心を奪われそうになった時に、その記憶を、断片的にですが、思い出しました。だから今回は絶対にジゼルを守ると」

 

「ロラン、その状態で、か?」

 

 ベルトランは言った。ベルトランは真実を見抜く目を持っている。

 ロランとシャルロットの誓約が見えているのだ。ロランは悔しそうな表情を浮かべ話し出す。 

 

「……これも私の未熟さ、ですが、精一杯ジゼルに接しようと思っております」


 痛いところをつかれ、言い訳のような言葉しか出ない。

 だが、ロランはそれをカバーする努力を惜しまないと決意している。

 

 しかし、それが原因で運命を揺るがす大きな罠に嵌るとは、この時のロランにはわからなかった。


 

「……ふむ。……ジゼルのことはわかった。不安はあるがそれはロランの問題。ロランに任せよう。だが、そのほかの問題、王家とお前の父リオネルそしてジュベール一族。お前が考えるよりも厄介だ。それに、ニコラ伯爵を消したことを王家は責めるだろう。ワシは歓迎するがな」

 

 ベルトランは笑いながら言った。

 

「はい。ある程度は予測しております。ジゼルにはこの状況は伏せ、全てを整え、話したいと思っています」

 

 ロランはこの先に起こるであろう事態を予測し準備している。

 

「ふむ、ジゼルは優しい娘じゃから、自分を守るためにロランが窮地に陥ることを知ったら苦しむだろう。それにシャルロット、蛇のような女。ロラン、あの女は……怖い。相当な執着がある。気を抜くな」

 

 ベルトランは険しい顔をロランに向ける。ロランもその表情を見て気を引き締める。


 ベルトランの危惧していることは間違いなく問題が起きる。

 一筋縄に行かないシャルロットの怖さ、最後に言った『マチアス』の言葉の真意も探らねばならないだろう。



「ところでロラン、ジュベールはどうする? おそらくリオネル達は相当動揺しておる。王家に対する忠誠心のような感情もある。ワシは正直言えば、ジュベールが分裂するかもしれないと思っているんじゃ。まあ、それも構わんがな」

 

 ベルトランが言う通り、ジュベール一族は、現ジュベール公爵であるロランの父と母は王家との距離が近い。

 ロランとシャルロットの恋愛を歓迎していた。


 だがロランの心情を知った今日、ベルトラン以外のジュベール一族は動揺し、ロランの両親はロランと口を利かず部屋に籠ってしまった。


 確かに、ニコラを消滅させたロランのやり方は度を越していた。

 だが、圧倒的な力を見せつけなければジゼルを守れないのも事実。

 ロランも覚悟を持ってやったことだ。


 それに、ベルトラン同様にロランは公爵家などどうでもいいと思っている。

  

 神殿との約束の五ヶ月までに全てを収め改めてジゼルを迎え入れる。

 ジゼルがジゼルらしく生きられるような環境に整える。

 それがジュベールじゃなくとも良いと思っている。



「ただ、ロラン一つ気になっていることがある。ドラゴンの卵だ。普通の状態ではないと思わないか?」

 

 ベルトランは首を傾げロランにいう。ロランも同じことを思っていた。

 

 ロランとジゼルが結婚し契りを終えその魔力をジゼルを通しドラゴンに渡す。

 ロランは過去の記憶を取り戻しドラゴン王を誕生させる過程も思い出した。


 だが今、ドラゴン王を誕生させる儀式が出来ていない。

それ以前に、孵化していいはずのドラゴンの卵が孵化しないのだ。

 

 ドラゴンが孵化した時、ジゼルは創造の神メシエに選ばれた人間として覚醒する。

 覚醒した時、魔力の無い娘はメシエから授かった唯一無二の力、祝福が使える。


 その祝福をドラゴンに魔力と共に授ける。

 大魔法使いの魔力、祝福の力、ドラゴン王は大魔法使いのためにダークネスドラゴンになり、魔力のない娘のためにドラゴン王になる


「はい、お祖父様、通常であれば孵化したドラゴンにジゼルが、私から移転した魔力を渡す……ですがそれができていないどころか、ドラゴンの卵が孵化していないのです」

 

 ロランは不安になる。

 ドラゴンの卵が傷つけられたり、割られたりしてしまったらジゼルはこの世界の異物と見なされ強制的に排除されてしまうのだ。


 それに命の保証もない。

 ドラゴンの卵は何よりも慎重に扱わなければならないジゼルの命のような存在。


「……五百年前の事件が関係あるかもしれない。ロラン、お前はやるべきことが多い。ジゼルを守り、ドラゴン王、王家との対立。良いか、気を引き締め一つ一つ収めていくんだ。いつでも手を貸すからな」

 

 ベルトランは言った。

 

 その力強い言葉にロランは感謝の笑顔を浮かべ頷く。

 それと同時に、同じ経験をしたベルトランの心情を聞きたい。

 生まれ変わった大魔法使いが再び聖女に会えるのか、ロランは聞かずにいられなかった。


(愛する人をどのような理由があったかわからないが、その手で殺めた初代ジョルジュ・ジュベール公爵……確か、公爵夫人は、ミコト・ヒイラギ・ジュベール。異世界の娘だったとは……)

 

「お祖父様。お祖父様は、あの、ジョルジュ様だった頃、異世界の娘を愛し、その後、生まれ変わりその娘に……いえ、初代公爵夫人に再会できたのでしょうか?」

 

 ロランは祖母サラの事を思い出した。

 ベルトランはサラを大切にしていた。

 だが、大切にしていたが、愛があったのかと聞かれたら違うような気がした。

 


「……ずっと待っている、ずっと探している。私の心を唯一捧げた相手。サラは私の心がここに無いと知りながらもそれでも良いと言ってくれた。だから私は彼女を大切にした。……すまんなロランこんな話」



 過去を語るベルトランの姿が、肖像画で見たジョルジュと重なる。言葉もいつもと違う。ロランはベルトランの痛みの深さを知り、言葉に詰まった。


「い、いえ……。私はこうしてまたジゼルに会えましたが、でも、今回もどうなるのかまだわかりません。ですが命をかけて守ろうと決めています。……あと、モーリスですが、彼は神に近い存在でしょうか?魔力の質が違うように思えます」


「ああ、モーリスはこの世の人間ではない。だが、常に私と共にあり、共に彼女を待っている」



 ベルトランは深いため息を吐き言った。



  

「……ロラン、大魔法使いは孤独、だがな、異世界の娘はもっと孤独なんじゃ。なぜならこの世界でたった一人の人間だからな。ワシは……ジゼルに会うまでそれに気がつけなかった。聖女が抱える本当の孤独に。そしてその孤独を埋めるのは大魔法使いだけ。良いか、何かあったときはすぐに相談するようにな」


 ロランはその言葉に頭を下げた。



 

 ベルトランは思い出を慈しむような表情を浮かべ立ち上がり、目の前の古木に触れる。

 愛しい人に触れるようなその仕草になぜだかロランの胸が痛んだ。


「……お祖父様、この古木は不思議なオーラを纏っています……枯れているようで生きている、ジュベールの守り神のような存在……」


 ロランは以前から聞いて見たかったこの古木について尋ねた。

 ベルトランにとって特別な何かを感じていたからだ。

 

「……この木はな、たった一人の主をずっと待っているんじゃ。その主人がこの世界に再び現れた時、この木蓮は花を咲かせる。ワシは何度でも生まれ変わりその時をモーリスと共に待っているんだ。木蓮の花が咲く頃に会えると信じて……」



 

 ベルトランは寂しげな眼差しをマグノリアに向けた。

 



【この結婚が終わる時】を読んでくださる読者様。


いつもありがとうございます。

103話、104話に登場するジョルジュ・ジュベール、そしてこの世界の成り立ちの詳しい説明は

外伝に書いてありますので、本編は簡単に書かせていただきました。

https://ncode.syosetu.com/n4650lo



次話からロランの努力編と言っても良いような話の展開になって行きます。

ロランの愛を少しでも感じていただけるよう書いてゆきますので

よかったら読んでくださいね。


いつもありがとうございます。


お正月疲れが出る頃ですが、どうぞ無理などなさらず、ゆったりとお過ごしくださいませ。


沢山の感謝を込めて


ねここ









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