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【書籍化作業中】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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ある夜のこと

 全てが終わり、ロランは別邸に戻った。深夜に近い時間。

 

(疲れ果てたジゼルは眠っているかもしれない)

 

 ロランは音を立てないよう部屋に入ると、疲れた心を癒すようなオーラがロランを包み込んだ。

 この部屋の優しい穏やかなオーラはジゼルがいるからだ。ジゼルはソファーにいた。

 

(寝ているのか?……抱き抱えベッドに移そう)

 

 ロランがソファーに歩み寄った時、

 

「お帰りなさいませ。あの、今日は……」


 ソファーで眠っているように見えたジゼルが突然起き上がり、話しかけてきた。


 目の縁がうっすらと赤い。そして額のガーゼの白さが痛々しく見えロランの心がズキンと痛む。

 目の前のジゼルは言葉に詰まったように黙り、眼差しが悲しげに揺れる。


 ジゼルはそのまま唇を結び、言葉途中で俯いてしまった。

 

(何か言いたいことがあるのかもしれない。ジゼルの言葉を聞きたい)

 

 ロランは戦闘用のローブの圧がジゼルの緊張を生んでいるような気がし、脱いだ。そしてそのまま黙ってジゼルの言葉を待つ。


 目の前のジゼルは両手を強く握りしめ、微動だにしない。


(ジゼルの言葉を何時間でも待とう)

 

 ロランは俯くジゼルを優しく見つめた。目の前のジゼルは緊張しているように見える。生唾を飲み込み、必死に何かを考えている。

 

(それほどまでして伝えたい言葉はなんだろう?)

 

 ロランがジゼルを覗き込むように首を傾けた時、俯いていたジゼルが顔を上げロランを見つめた。

 

 顔を上げたジゼルは口篭っている。

 何を考え、何を伝えたいのかロランにはわからない。けれど、ジゼルの口から出る言葉を聞きたい。ジゼルが今思っていることを知りたい。


 ジゼルは一旦口を開いたが、また閉じ唇を結んだ。

 何か迷っているようなジゼルの素振りにロランの心が次第に曇る。

 

(言いづらいこと? こんな思いをするのならここを出ていきたいと、もし、ジゼルが言ったら?)

 

 ロランは奥歯を噛んだ。


(それだけは言ってほしくない、考えてほしくない)


 だから今日起きたこと、これから起きるであろうことは一切ジゼルの耳に入れないよう別邸の使用人達に命令した。

 

(ジゼルの負担になるようなことは、負担に感じるようなことは耳に入れたくない。ジゼルがただ心穏やかに生活してくれたら、それだけで私は幸せを感じられる)

 

 ロランはジゼルを見つめ続ける。

 ジゼルは覚悟を決めたように小さく息を吐き口を開いた。

 

「ロラン様、本日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。シャルロット様に悲しい想いをさせ、これ以上ロラン様にご迷惑をかけることはできません」


「!?」

 

 ロランはその言葉を聞き一気に体の熱が冷めた。

 ジゼルがそんなことを考えていた現実にショックを受ける。

 

 迷惑など何一つない。だが、先程の復讐劇は言えないし、ジゼルを認めさせ、迎え入れる準備は出来ていない。

 ジゼルが安心し自由に暮らせる地盤がない中で安心させてあげられる言葉を口にすることができない。

 けれどジゼルの考えていることを否定したい、出てゆく必要など何一つなく、シャルロットのことなど気にする理由などない。今は、そんなことを考えず、ゆっくりと傷ついた心と体を労ってほしい。


(ジゼル、何も考えず休め)

 

 ロランはジゼルの言葉を遮り、そう言おうと口を開いた。だがジゼルという言葉が出ない。

 

(!! 愛の誓約? ジゼルという名前を本人に使うことができない? なぜ? 愛が、愛があるから?)

 

 ロランは喉を締め付ける自らかけた誓約魔法を振り払うよう全身に力を入れ、話し続けるジゼルを見た。

 

「……だから神殿に……」

「……休め」

 

 ようやく出た言葉。

 たったこれだけしか言えない。


 ロランのその言葉にジゼルは驚いたようにロラン見たが、また話し出す。

 

「あ、あの、ここを出て神殿に……」

 

(そんなこと、させるわけがないだろ!)

 

 ロランは即座に言葉を出す。

 

「聞こえなかったのか? 休めと言った」

 

 ロランは思わず語気を強めた。ハッと我に返り口に手を当てる。

 ジゼルが怖がってしまうかもしれないと後悔した時、ジゼルが返事をした。

 

「……はい……あの、お、お心遣い感謝いたします」

 

 ジゼルの声色が変わった。ロランの言葉に恐怖を感じた声色ではなく、戸惑いとほんの少し喜びに近い明るい声色。その声にロランは口角を上げた。


 ロランの言葉に戸惑うジゼルの顔がみるみるうちに赤くなっている。そんなジゼルを見つめていると、嫌われていないと確信できる。その様子に体から力が抜けそうになる。

 

 恥ずかしそうに両手を顔に当てソファーに腰掛け、クッションを抱きしめるジゼルを見て、ロランの心に幸せが広がる。

 

(ジゼル、君は知らないだろ? 私は五百年前も、こうして君を見つめていたことを)


 ロランはクッションを抱きしめるジゼルの姿にかつて愛したカミーユを見た。


(あの頃と変わらない君。不器用で自分の気持ちを隠す君は常に私の視線の先にいる。君が俯いている時、私はあなたを見つめていたんだ。今のように)


 不意にジゼルが顔を上げ目が合った。ジゼルの瞳は輝き、ピンクに染まる頬はジゼルの黒い髪をより引き立てる。美しい人。愛しい人。もう、我慢したくない。

 

 ロランは再びジゼルの名を呼ぼうとする。

 だが、声が出ない。けれど諦めない。名前が呼べなくても行動で気持ちを示す。

 

「……お前、ベッドで寝ろ」

 

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