兄と弟
「父上と兄上はいらっしゃるか?」
アンドリューは自宅に帰るなり執事に聞いた。
「旦那様は昼頃から登城されてまだお戻りになっていません。アルバート様は自室にいらっしゃいます」
「着替えたら話があるから部屋に行きたいと兄上に伝えてくれるか」
「かしこまりました」
執事は頭を下げ、アルバートの部屋へ向かった。
その姿を確認してから、アンドリューも自室へ向かった。
使用人を下がらせて、アンドリューは楽な服装に着替えながら、メアリーの事を考えていた。
メアリーの涙を思い出して、怒りが湧き上がってくる。自分ならあんな顔はさせないのにと。
メアリーが最後に見せてくれた笑顔を守りたいと思う。
アンドリューは段々と、絶対に手に入らないと思っていたものが、手に入るかもしれないという高揚感が湧き上がってきた。
「さて、行くか。兄上に会うのも久しぶりだな」
着替え終わったアンドリューはすぐに兄であるアルバートの部屋に向かった。
「兄上、アンドリューです。入ってもよろしいですか?」
アルバートはノックをしながら問いかけた。
「ああ、入ってくれ」
アルバートが入室すると、侍女がお茶を準備してから退出した。
「久しぶりだなアンドリュー」
「お久しぶりです。兄上」
アルバートは公爵家嫡男であるにも関わらず、異例の騎士団に所属していた。城に泊まることも多く、家ではあまり会えていなかった。
「辺境伯家の事か?」
「はい。辺境伯の甥御が病にかかられ、兄上が後継になるかもしれないと」
「うん。今父上が登城されているが、それは確定事項だ」
「兄上は勿論納得されているのですよね?」
「無論だ。俺は公爵としての教育は受けてきたし、公爵になるつもりもあった。だが、必ずしも私が適任であるとは思っていなかったんだ」
「そつなくこなしているつもりではあるが、正直書類仕事よりも、体を動かしている方が好きなんだよ」
アルバートは笑いながら言った。
「辺境伯家は公爵家にも並ぶほどに重要な家だからな。公爵家から婿に入る事は政治的にも悪い話ではない。まあ、俺はマリアと結婚できるなら、どちらでもいいんだが」
「兄上にはそれが最重要事項ですよね」
アンドリューは少し呆れながら言った。
「お前だって公爵になれば、愛する人を手に入れられるかもしれないだろう」
からかうように言う兄に、アンドリューは嫌そうな顔をした。
「気が早いですよ」
「父上は我が家の後継に関してはお前と話してから決めるとのお考えだ。お前が公爵に相応しいかを話してから決めると仰っていた。まあ縁戚から後継を迎えることもできるが、俺はアンドリューに託せると思っている」
「お前はスペアとして俺と同じ教育を受けていた。公爵になる可能性なんて殆どないに等しかったのに、難しい問題にも真摯に取り組み解決していたし、正直俺よりも向いてるんじゃないかと思っていたんだ」
「買い被りすぎですよ。ただ、公爵教育をしっかりやれば、どんな道に進んでもためになると思ったんです」
「それが偉いって言ってるんだ。決められた将来の上に胡座をかいて、努力することを怠っているやつもいるからな。誰とは言わないが」
「兄上…」
アンドリューは、辛辣なアルバートに少し驚きながらも、自分が認められている事に嬉しさを感じた。
「俺は、いつだって兄上に勝てなかったけど、勝ち続けてくれた兄上だから、尊敬しているし、いつか追い付きたいと思って頑張れたんだ」
珍しく砕けた口調になった弟の言葉に、アルバートは驚いた。
こんな話をしたのはお互い初めてだ。
「この家の後継はお前しかいないよ。父上との話は上手くやれよ」
「うん。絶対に認めてもらうよ」
久しぶりの2人きりの会話は、お互いの思いを知れた有意義な時間だった。
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