6 パントー 「追跡」
これまでのお話
怪獣グラファナスの出現を確認するために、長老会議は、腕利の狩人パントーを招集することにした。しかし、パントーは狩で森の奥にいいる。
6.パントーを探す
さて、石垣の修理については村の予算の問題でマルーンが顔を赤くして怒ったことを除いては順調に進んだ。職人組合は職人を手配したし、積み上げる石の用意を始めた。
次にケアール捜索隊であるが、これは狩猟漁労組合が組織する。しかし取りまとめ役のパントーがいない。時に数日間も狩で留守にすることも珍しくない彼を、キニ(口)のコーラに呼びかけさせてもいいが、森は広いので声が流石にバカのコーラの声でも届くとは限らなかった。
そこで、パントーを追跡することになった。狩猟漁労組合と小グリフ連合から腕利きのパス(足跡)を選出した。パス(足跡)の力は足跡を見つけて辿ることだからだ。しかし、パスには攻撃力が全くないし、気配察知力もない。そこで、ユエル(狼)が一緒に行くことになった。隊と言っても二人である。
そのころ当のパントーは森を歩いていた。ケアールが出た森とは村を挟んでちょうど反対側だ。パントーはこのところ、ある若い牡鹿を狙って森に入っている。何度かチャンスはあったのだが、仕留めることができないでいた。本格的に暑くなる前に、仕留めたいと思っていた。
パントーはフンを見つけた。量が多いし粒がでかいからきっとやつのだ。もう乾燥していて冷たい。ユエル(狼)だったら、この匂いを嗅ぎ分けられるのだろうか。パス(足跡)ならもう件の牡鹿がどこは向かったか、どこにいるのかわかってしまっているかもしれない。しかし、デル(鹿)のパントーにはそんなことはできなかった。
そのかわり、パントーには豊富な経験と知識があった。かがみ込んで潅木の下からあたりを見渡すと、木の葉が茂っている下には広い空間があった。パントーにはいくつもの動物の足跡を判別できた。ウサギやネズミが通った通り道がある。じっと地面を見て足跡を読み取ると、すぐに鹿の足跡(track)を見つけた。
鹿は急な方向転換や茂みを飛び越えたりして追跡者を躱そうとする。これは若い猟師はすぐに引っかかったしまう鹿のトリックだ。しかし、パントーは熟練の猟師であり、鹿の裏をかくことに慣れている。鹿というのはどんなに頭が良くても、自分の視座しか持っていないものだが、熟練の猟師は違う。人の高い視線から降りて、ウサギや穴熊の視線で見ることもできる。そうやって、隠された鹿の足跡を追うのだ、たとえパスのグリフの力がなくとも。
さて、追跡者パントーの追跡者たちはどうなっただろう。
パス(足跡)は数が少ない。コルネはレルと同い年の少年だ。あの年はたくさんの子供が生まれたからパスも生まれた。とはいえ、ケムリと違い一定数いるグリフである。パスは猟師のほかキニ(口のグリフ)のようなデスクワーカーにもなる者がいる。パスが辿るのはなにも動物の足跡だけではないのだ。
コルネが選ばれたのは、現在のパスが年配な者ばかりなことと、コルネが優秀だからだ。久しぶりの若いパスを年配のパスたちがかわいがった結果、みんなの熟練の技がコルネに集約されたのだ。またコルネはそれを難なくこなして自分のものにしていた。
さて、そんなに大事にされている若パスを猛獣やグリファナスの餌にするわけにはいかない。パス衆は強い護衛を望んだ。
ユエル(狼)のウォーフはハゲかけたハンサムな中年だった。もう少し若い頃は、その顔とユエルの野性的な魅力で村の女の子たちを次から次へとものにしていたものだった。今も本人は色男のつもりでいるが、たまに太った中年女から甘い声をかけられるくらいに落ち着いていた。結婚はしておらず子供もいなかった。
頭は悪いが性格は良い方で、狩の腕は真ん中よりちょっと落ちるものの、愛想も良いので、多少の商売もしていたから、金回りも悪くなかった。今回見込まれたのはそのよくきく鼻のためだ。耳と目も鋭い。中年とはいえまだまだ精力旺盛で、剣の使い方も知っている。小柄ですばしっこいパスの少年の護衛にはちょうど良かった。
コルネはパントーの家に行った。台所から奥さんのベーがやってきて、コルネに挨拶した。「あの人は今年は若い牡鹿に夢中なのよ」とにこやかに言った。その周りにまだ小さい子供たちがいて、おやつをねだっている。
コルネはパスのグリフの力で見ていた。灰色の足跡が家の中に見える。ピンクっぽい足跡、茶色っぽい足跡。それは床の上に何重にも重なってあった。灰色の足跡は母親の足跡だ。ピンクは子供たち。それぞれ少しづつ色が違う。灰色の足跡とピンクっぽい足跡は絡み合いながら家の中をグルグル巡っている。母親と小さい子供の足跡は大抵そんなものだ。茶色はパントーだろう。ほとんどない。家を離れて一日かそこら経つからだ。少し頑張ってもう少し目を凝らすともう少し見えてきた。パントーの茶色い足跡は台所と玄関と庭にある狩猟用の道具が置いてある小屋に集中していた。いかにもパントーらしいとコルネは思った。
狩猟小屋からパントーの足跡が一本の線のようにが真っ直ぐ石垣の方へ向かっていた。コルネは奥さんに挨拶をすると歩き出した。ウォーフも魅力的な笑みを浮かべて奥さんに挨拶した。ベーは少し顔を赤らめた。
次回、コルネたちはパントーを追いかけます