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4 アナ 「呪い師」

前回までのお話


村に近い森の中で、子どもたちがグリファナスと遭遇した。子供達はそれを大人たちに知らせた。

少女レルの母親メリッサは、それを受けて、メリッサの母親で村の呪い師のアナのもとへ行った。

4.アナ


 メリッサ(35歳)の母親アナ(65歳)はこの村を巡る石垣の近くに住んでいる。直ぐに森へ行けるからだそうだ。庭は草や木がたくさん生えている。(まじな)いや薬に使うものが多いようだ。初夏の庭は、花が咲いている。ラベンダー、キキョウ、ナデシコ、ナンテン、ホウセンカ、ミント。大きなナナカマドの木も、地味な花をたくさんつけている。アナの家は、古い石造りで、崩れかかっているように見える。それでも雨漏りがしないのは、腕のいいマルーイエボー(城壁(じょうへき))が呪い(まじない)をかけたからだ。アナは部屋で薬を煎じていた。

「かあさん」

 メリッサは呼びかけて、一部始終を話した。が、アナは驚かなかった。

「そろそろ来る頃だと思っていたよ」

 アナはドードー(「土偶」のグリフ)で村の(まじな)い師だ。メリッサはアナのドードーらしい勘の良さをよく知っている。が、それにしても落ち着き払っているように見える。

「ウルがさっき来ていたからね」アナは説明した。

 ウルは父親は分からず、母親は死んでしまったので、母親の叔母のところで育っている。そこはウル・ク(牡牛)ばかりいる家で、衣食住には困らないが、ケムリ(煙)のような不思議なグリフの子をどのように扱っていいか分からなかった。そこでドードー(土偶)のアナに相談したのだ。

 この村では親なしの子は別に珍しくない。男女が好き合えば子供はできるものだし、必ずしも結婚しない。子供は母親かその親戚が育てる。また、若くてまだ子供が育てられない夫婦は、よく子供を親戚や祖父母にあげてしまう。こういうことをプシアキと言い、一般的な風習だった。実際のところ、アナにもかつて七人の夫がいて、十人の子供をもうけていたが、七人の夫と九人の子供を失い、手元に残ったのはメリッサだけだった。

 ウルは賢い子でドードーの仕事や技をよく見て覚えた。もちろんドードーの技がケムリのグリフに使えるわけではないのだが、アナはウルの力に近しい物を感じていた。現在では忘れられていたし、ウル本人もよくわかっていないようだが、ドードー(土偶)、ヨモツ(墓穴)、オー(沈黙)、ケムリ(煙)は太古ではよく呪い師を出すグリフ衆なのだった。そんなわけで、ドードーの技を見ることはケムリの技をなす手助けとなっていたのだ。

 また、アナは他人の行動にいちいち口を挟むこともなかった。それがまた、ウルの性格に合ったようだった。ウルはふらっと現れてはなんとなくアナの家で過ごし、ふらっと出て行ってしまう。また時には勝手に何日もいてアナの仕事を手伝ったりすることもあった。そう言う時は、暖炉の近くのアルコーブ(壁にある窪み)がウルの寝床になっている。

 さて、アナは二つに情報源から同じ事件を聞くことになった。それが本当にケアールかどうかはさておいても、何かモンスターがやってきているには確実だと思った。(まじな)い師タイプのケムリ(煙)と鋭敏で探知タイプのデル(鹿)がフレア(モンスターの出すオーラ、魔法の力)を感じたのだ。アナとしては2人が説明した「ピリピリ」と言う表現に真実味を感じていた。そう、あれはピリピリする。そのまま何処かへ行ってくれればいいが、そうとも限るまい。それで長老会へ話をしにいくことにした。


 長老会と言うと爺さんが集まっているみたいだが、そうではない。グリフ衆と職業同盟から立候補し、選挙で認められた「長老」の集まりだ。毎年立候補者のくじ引きで選ばれる。任期は一年だ。ただみんなやりたがらないので、、何回も長老をする者が多い。ドードーは数が少ないし、その性質から長老になることは稀だが、アナは、少なからず長老会に影響力を持っていた。

 さて、村の中央には集会所がある。「村人舎(むらびとしゃ)」という。昔々のマルーイエボーが建てた堅牢な石の建物だ。役所と図書館も兼ねていて、ここには数が少ないはずのキニ(「(くち)」のグリフ)がたくさんいる。言葉や数字を使う仕事が得意だからだ。細い塔が立っていて、上には呼びかけ係のキニのコーラが居眠りをしていた。コーラはもういい歳の若者だがキニ(口)にしては頭が悪く、怠け者で、まだ結婚もしていなければ子供もいなかった。アナは右眉毛を上げて、ため息をついた。相変わらずのようだ。

「コーラ!長老を呼んでおくれ」アナの声はキニでもないのに、高い塔の上で居眠りをしている若者に届いた。ドードーのまじないの1つだろう。コーラはアナの声にビクッとして飛び起きるとすぐに長老たちに呼びかけた。

『ちょーーーろーーー!!アナがよんでるぞーーー』

 コーラが大声を上げた。1人の人間が大声を上げたところで村全体に声が届くわけはないが、キニのグリフの力で増幅され、村中に響いた。村というが25平方キロメートル程の地域で人口は6000人程。キニの力は多岐に渡るが、莫迦(ばか)のコーラの力は単純に物理的な声を遠くにいる目的の人物に届けることだ。物理的な声なので声の通り道にいる人みんなに聞こえる。たとえば時報を村人全員に知らせる仕事にはぴったりの力だった。

「あいかわらずバカだね!わたしの名前を大声で叫ぶことないよ!」アナは憤慨した。「またぞろ呪い師のババアがでしゃばってると思われるじゃないか!」と今更自分の評判を心配した。 


さて、次回は長老たちが集まります。

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