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2  ウル 「ケムリの少年」

さて、レルとフラーがグラファナスと遭遇している時、どうやってウルは彼女たちを見つけて、助けたのでしょう。

ケムリの煙を操る力はどのようなものでしょうか

2.ウル


 ウルはそろそろ自分の職業を決めないといけなかった。同年代の奴らはもうとっくに決めていて、まだなにも決まっていないのはウルだけだ。というのも、職業を決めるにはグリフの種類が大きく影響するからだ。

 ウル・ク(牡牛)なら、体が丈夫で力も強いから、畑仕事など力仕事にむいている。その性格も沈毅で、地味で根気のいる仕事にむいていると言われる。デル(鹿)なら狩人がいいだろう。俊敏で敏感。デルは弓がうまい。同様にフルルー(鷲の目)もその目の良さから狩人に向いている。セッコ(石と骨)なら、職人だ。手先が器用で工夫がうまい。フルニ(かまど)なら鍛冶屋だ。火を生み出し自在に調整することができる。マルーイエボー(城壁)は兵士か大工だ。物を守る力を授けるからだ。ギミラ(薬の手)なら薬師か癒し手。もう少し変わったグリフでも職業は大体決まっている。ドードー(土偶)は産婆か呪術師。ヨモツ(墓穴)でさえ、葬儀屋という定職がある。ケムリ(煙)のウルは何をすればいいのだろうか。

 もちろん職業選択は本人の自由である。グリフに関わらず好きな職業につくことができる。でもウルに得意なことって何だろう。

 ウルの心は堂々巡りを続けた。ウルにだって良いところはある。セッコ(石と骨)でもないのに手先は器用だし、キニ(口)でもないのに読み書き計算もできた。でも、セッコの中では器用とは言えないし、キニの中では頭がいいとは言えない。ましてや、ウル・ク(牡牛)やソーン(巨人)のような丈夫さや力強さは持ち合わせていなかったし、ソー(針と糸)やギミラ(薬の手)のように傷を治したりするような力はなかった。あとはドードー(土人形)みたいな呪い師というのもあるが、あまり自分に向いているようには思えなかった。それに、なんとなく気味が悪いし。

 そんなわけで、ウルは森を1人で歩いていたのだ。森を歩くのは好きだった。煩わしさから解放してくれたし、キノコや木の実を拾って帰れば食卓が豊かになった。そうすればあるていど仕事をしている感じもしたし……。とはいえ、森も奥に行けば危険だ。人があまり入らないところでは、鹿や猪や熊だって出る。マンディコラやドラゴンといったモンスターはまあ、あまりこの辺りには出ないけど。

 なんの攻撃力もないウルが1人でこんなところを平気で歩いていられるのは、ケムリのグリフのおかげだった。ウルが今のところできるのは、煙をあるていど操作することだ。たとえば焚き火の煙の流れていく方向を変えたり、煙の量を増やしたり減らしたり。それと、これが理由なのだが、煙の流れに敏感だ。ちょっとした障害物や空気の流れが煙の動きを通して感じられた。腰に付けている虫除けの香の煙は、薄く広がり、ウルの周りを取り巻いている。それから、目に見えないいく筋もの煙がそれよりもっと遠くまで届いている。これで、急激な空気の動き、つまりは動物の気配や、大きな障害物を感知できる。時としてすごく遠くの声や匂いを拾ってくることもあった。まあ、小さくて動かないキノコを探すには全く役に立たなかった。でもグリフに関係なく、ウルはキノコ探しがうまかった。

 そうやってキノコを探しながら歩いているとき、煙の手が何か大きな動物に触った。興味を持ったウルはもっと煙を送ってみた。ぼんやりとその輪郭がわかる。ヒョウ?ライオン?本やお話でしか見たことがないような形。ヒョウならこの森にも出ることも実はあるのだが、ウルは知らなかった。それと、もう一つ変な感覚。なんだかピリピリするのだ。

 ウルはすぐに思い至った。あれはグラファナスだ。強力な魔法の力を持ったモンスターで、ピリピリするフレアと呼ばれる魔法のバリヤーがその体を取り巻いている。まるで怪獣の強い悪臭のように。

 ウルは、自分はいつの間にグラファナスが出るような森の深いところに来てしまっているのかと思ってあたりを見回したが、見覚えのある景色だった。この辺りは何度も来ているし、モンスターが出るような深部じゃないことを確認した。

 広げた煙の腕が別の景色を送ってきた。女の子2人?この輪郭、この組み合わせ、ウルには見覚えがあった。同い年の少女たち、レルとフラーだ。

 レルは優秀なデル(鹿)だから心配ないはずだが、フラーはそうも行かない。彼女はアンフォラ(器)だし、運動などしたことがないはずだ。レルの婆ちゃんがそう言ってた。料理や裁縫が得意だそうだ。ウルは煙を通してレルたちを見ていたが、いっこうに逃げていかない。それどころかモンスターが2人に気付いて近づき出した。ウルはイチイの木の枝を拾い、2人とモンスターの方へ駆け出した。走りながらウルは指を鳴らして火花を飛ばし、持っていた綿に火をつけた。ケムリ(煙)のウルが指を鳴らすと火花が飛ぶのだ。

 少女とモンスターから程よい距離をとって、ウルは焚き火を始めた。生のイチイの葉をくべるともうもうと煙が出てきた。それをモンスターに送っていく。運のいいことに風はなく、ウルにも煙を十分に操れた。

 ウルは、集中して煙を操り、上手いことモンスターを煙で囲ってしまった。モンスターの方は煙をうるさく感じているようだったので、モンスターの背後の煙を薄くした。すると、モンスターはそこから後ろの方へ退いて行った。うまくいった。あとはウルが逃げ出すだけだ。ウルは火を消して、それからまだ空中に残っている煙を身にまとい、その場を後にした。

 ウル本人も知らないのだが、ウルの煙には物理的な目隠し効果だけでなく、魔法的な目隠し効果もあった。頭から生えているアンテナ触手で純粋に魔法だけでものを見るケアールは、その煙に囲まれて全く辺りが見えなくなったのだ。だから煙の薄くなっている後ろの方へ移動してしまったと言うわけだった。

 ウルは自分が思っているよりずっとドードー(土偶)やヨモツ(墓穴)に近かったが、まだ知らなかった。


どうやら、村人は普段から不思議な魔法の力を使っているようです。

他のグリフはどんなことができるのでしょうか

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