10 長老会議再び
10.長老会再び 夕方
さて、そうこうしているうちに、アンスールが長老たちを連れてきた。まさかその日のうちにグラファナスの行方がわかるとは思っていなかったので、大慌てだ。今度は中年女のロシールもやってきた。しかしマルーンは来なかった。大事な商談があるそうだ。ロシールはそれを鼻で笑った。マルーンに商才など皆無だからだ。そしてメジルはまた来ない。患者が多いらしい。
今回はドードー(土偶)のアナが、デル(鹿)のレルとアンフォラ(器)のフラーとケムリ(煙)のウルを連れてきている。これで、件のグラファナスを見た人間が揃ったわけだ。
バレリアは孫のポーンに手伝わせて、焼き菓子とお茶を用意した。もう日の落ちかけたアンスール邸の前庭は暗くなった。ランプを四つ、庭の小枝にかけた。夏の夕の蒸し暑さがもうやってきていた。
話は深刻だった。強力な魔法獣グラファナスが村の周りに来ているのだ。このまま何処かへ行ってくれれば良いが、既に二回、村人と遭遇し、しかも一回は戦闘になっている。手負いのグラファナスがどんな行動に出るかわからない。そもそもあれらは、人間を食べ物としか認識していないのだ。
わかっていることは、まずそのグラファナスはケアールという種類だということ。これは目も耳もない怪物で、かわりに触手がたくさん生えていて、これで魔法的に周りを察知するということ。するどい爪と牙と強力な筋力があるということ。魔法的バリヤーであるフレアが強く、生半可な攻撃は通らないこと。ユエル(狼)の攻撃は効いたこと。ウォーフは何太刀かケアールを斬りつけることができた。しかしもうその剣はボロボロだ。ウルの煙がケアールを目隠ししたこと。もっともこれについてはよくわからない。単に煙を不快に思って引き下がっただけのようにも思えた。そして、もう一つ、デマル特製の矢尻が今もそのグリファナスの頭部に刺さっていること。
「あの矢が役に立ったか……」フルニ(かまど)デマルは言った。半ば形式的に狩猟組合の正組合員の為に毎回デマルがその手で鍛造した矢尻だ。フルニの火を封じこめてある。普通は単に「魔除」とか「アミュレット(お守り)」のように思われているのだが、フルニ(かまど)は実用的なものしか作らない。
「ではデマルが槌を振るった武器ならば、グラファナスに対抗できるということか」ウル・ク(牡牛)のブ・タンクは言った。
さて、それからが大変だった。ケアール狩りの始まりである。まずは、キニ(口のグリフ)が村の内外にグリフィナスの脅威を伝える。荷馬車やアンフォラ(器のグリフ)の行き来は禁止。畑に出るのにも護衛をつける。とくに子供たちは石垣から出ないこと。
デマルは長老会の要請を受けて、とにかく武器を製造する。手持ちの鉄鉱石だけでなく、古い鋤や鍬などを溶かして武器とすることになった。
ウル・ク衆(牡牛衆)は兵隊を準備。ウル・クは狩りにはあまりむかないものの集団で戦闘することには向く。石垣の警備と守りを固めるのだ。狩猟組合はパントーの指揮の下、グループを作って、村の周りを探索し、ケアールを見つけ次第狩を始める。この狩猟グループにはキニ(口)が同行し、すぐに長老会に情報が伝わるようにする。
本当はパス(足跡)が同行するのが一番良い。すぐにケアールの後を追えるからだ。しかしパスは年寄りばかり5人しかいない。もちろんコルネはいるが、子供だ。同行させるには危険すぎる。今回だって危ないところだった。あのパス衆秘蔵の魔法道具がなかったらどうなっていたことか!アンスールをはじめ、パス衆はコルネを死守した。
もっとも、ほかのグリフ衆も同じだ。子供たちをそんな危険に晒すわけにはいかない。




