第3話 【ゲーム理論】
「マス……いえ、元マスター、せめて食べさせるのは美味しい冒険者だけにしてください!」
「お、おう」
アベルは圧倒されてしまい、適当に返事した。ラウラはまさに動物好きの人の定石だ。
場合によっては平気で、動物のために人間の命をないがしろにしたりする。
さて、冒険者に対する試験官ドラゴン様の圧迫面接の模様はそんなに面白いものでもないのでカットする。
初日にドラゴンが食べた冒険者の人数、五十三人。
翌日はさらに増えて八十余人。この島の人口は千人に満たないが、実に十人に一人以上の割合でドラゴンに食べられたのである。
当然、ドラゴン試験官の導入二日目で緊急会議は開かれた。
「さて、アベル。この会議が開かれた理由はもうわかっているね?」
「いいニュースから聞かせてもらおうか」
「そうだね。冒険者が激減した。人件費が浮いた」
「おおっ、そりゃいいニュースだ」
だが、アクセルは続いてアベルに悪いニュースを話した。
「続いて悪いニュースだ。ギルドをやめる冒険者が激増している。
彼らは明日にでも盗賊や密漁者としてこの島に住み着くことになるだろう」
「えっ、もしかして逆効果だった?」
アクセルは素直に首を縦に振った。
「そのようだ。よかったねラウラ。ギルドの仕事が減った」
「よくないですよ。密猟者問題がまだ残ってるのです。
アベル様、もうドラゴンは巣に帰して密漁者狩りをしてください!
そのための武具ならウチが腕によりをかけて鍛えるのです!」
「どうしようアクセル。大変なことをしちゃったみたいだな。
本当にそんなつもりじゃないんだよ。まさかここまでウチのギルドの冒険者が腰抜けとは……!」
「まあ、確かに私もドラゴンごときに怖気づく冒険者など必要ないとは思うよ。
だからこの件でお前の責任を問うつもりで、この会議を開催したのではない」
「本当か!」
「解決すべきは密猟問題。そして、急増した人口を食べさせていくこの島の産業問題なんだ」
「産業……?」
「経理部長、代わりに説明を」
「はい」
経理部長はアクセルからすでに渡されてある台本を読み上げる。
「喫緊の課題は、やはりこの島独自の産業を持つこと。つまり失業者に仕事を与えることであります。
一部関係者の間では、密猟者への寛大な態度を疑問視する声もありますが――」
と、少し言葉を切って、異様なほどの動物好きである職人頭のラウラちゃんのほうをちらっと見てから経理部長は続ける。
「アベル殿のように、この世から排除してしまうというのは論外でしょう」
「論外とはなんだ!」
「それよりはこの島で仕事に従事させ、利益を上げさせたほうがよいと新ギルドマスターのアクセル様は考えられました。
これからはギルドの魔物討伐という仕事とは別に産業の三本柱を定め、人々をこれに従事させていくことに致します」
「そりゃもう完全にギルドの仕事としての範疇を超えてるぜ。
俺がマスターだった時代とはずいぶん変わっていくんだな?」
「時代は常に変わっていくものさアベル。だったら我々も変わっていかないとね」
とアクセルは答えてから、経理部長を座らせて自分で説明を開始した。
「先ほど三本柱といったが、まず一つは製塩業だ。アベル、帝国本土の製塩業に関する規制を知っているかい?」
「塩は帝国政府の専売制だろ。よし、いっちょ密売で儲けるか!」
帝国は広い領土を持っているのだが、当然、内陸部で海から遠い支配地域も多い。
人体に必須である塩を専売にするということは、独裁的な皇帝の権力基盤の重要な一部となっている。
事実、昔の中華帝国などはたいてい塩を政府の専売としていた。
「バカを言え。挑発するような真似をして帝国に睨まれたら戦争だ。
帝国に塩を納めるんだ。幸いこの島は結構大きいし、人手なら沢山あるからね」
「ふむ、で、他の二本柱は?」
「もう一つは……アデライドに一任するということでいいかな諸君?」
「異論はありません」
と一同が言ったところで、相変わらず説明を事前に受けてないアベルは首を傾げた。
「アデライドと言ったら受付嬢だろ。彼女に新しい事業を任せるって、どういうことなんだ?
そもそもこの円卓に座ってる時点で何かあるとは思っていたが」
アデライドは十八歳。大人の魅力があるセクシー系のアニエスとは異なり、弾けるほどに若くてみずみずしい、人気の受付嬢である。
ちなみにこの島の漁師の娘であり、もともと無人島だったこの島の最古参の住民でもある。
そのためか、ど田舎の南の島育ちの健康日焼け系娘という、都会育ちの洗練されたアニエスとはまた違った極めて背徳的なセクシーさを持っており、男性に人気だった。
しかしアクセルは、彼女に受付嬢として以外の使える能力を見出しているようであった。
「アデライド、説明を」
「はい」
受付嬢、いや今は冒険者ギルドの新事業部の事業部長というポストを任されたキャリアウーマンであるアデライドは立ち上がり、何も知らないアベルに説明を行った。
「アベルさん、船籍と呼ばれるものが存在することをご存じでしょうか?」
「いや、まあ、そう言われるとあんまり理解してないかもなぁ。
船の籍のことだろ。どこの国に属しているのか……みたいな」
「平たく言うとそういうことです。ですが船籍というのは単にそれだけのことを指すのではありません。
私はもともと、海の男である父に男で一つで育てられたので……」
「で、その船籍とやらは儲かるのか?」
「はい。今や世界中が貿易船でつながる時代。船籍をどこに置くかは重要な問題です。
西の大陸で、帝国からつい数年前に独立を宣言した合衆国があるでしょう」
「あるな」
「帝国籍の船は合衆国へ行けないんです」
「……で、その反対もまた同じってわけだな」
「はい。そこで、我らがギルドに船籍を置くことで通商を可能にしようというわけです。
もちろんその使用料金もお安くしておきます!
船がたくさん登録されれば……まあ薄利多売というわけなんです!」
「おいおい。そんなことしたら帝国を怒らすことになるんじゃないのか?」
「心配ないよ」
「そうなのかアクセ……いや、マスター?」
アクセルは得意の根回しを、マスター就任前からすでに帝国貴族に対して行っていたがゆえにこれほど余裕であるようだ。
彼は説明を続ける。
「船籍のことは私もお前と同じだアベル。寡聞にして知らなくてね。
半年ほど前にアデライドから聞いたんだが」
「それってうちに彼女が入ったばかりの時じゃないか」
「そうなんだ。彼女は自分を売り込むという力にどうも長けているようだ。
人の懐に入るのがうまい。見習いたいよね」
「全くだな。で、その間にお得意の根回しをやっておいたってことか?」
「ああ。そもそも独立については合衆国側が言い出したことで、帝国も本音としては貿易をしたいところなんだ。
向こうで奴隷を農園で働かせ、安い農産物を得ていたわけだからね。
ここ数年、貿易関係の悪化によって食料など、生活必需品の高騰は帝国中に波及している。
ところが大国のメンツ、特に合衆国に対しては宗主国のメンツというものがある。
緊張状態で、"貿易関係改善の打診"などという、下手に出るような行為を帝国は決して出来ない」
「難儀なものだな、メンツってやつは」
ちなみに、合衆国には塩田もあるので塩の価格も関係断裂にともなって高騰している。
アクセルは話を続ける。
「全く、非合理的なものだが、そこが儲かるチャンスになるのならば文句はないだろう。
さて、合衆国独立に手を貸したのが本土で帝国と争っている共和国だ。
合衆国の独立戦争に事実上敗北した帝国は……共和国にしてやられたというわけだね。
この間、エラン提督が言っていたことを覚えてるかアベル?」
「えっ。なんか言ってたっけ?」
そういうと思った。とでも言いたげに少し笑みを浮かべてからアクセルはこう言った。
「提督は、正直なところ帝国軍をここに駐屯させておく費用を削減できれば嬉しく思う。
そう帝国政府の意見を代弁されていた。帝国は軍事力が足りないのだ。
他の海外領土ならば、支配地域から徴兵できるがこの島は違う。
島民の人口は極めて少なく、むしろ本土から成人男性が続々とやってきているだろう?」
そのような地域に軍艦を常駐させ、兵士も駐屯しているというのが帝国の現状。
合衆国や共和国との戦争を見据えれば、可能な限りこれは削りたいだろう。
「そういわれてみると……待遇さえよければこの島の冒険者たちも兵士になるかもな。
奴らを兵士にすれば人員過剰の問題も解決できて一石二鳥じゃないか」
「そこで出てくるのが海のはるか向こうの共和国だ。彼らは強力な海軍を持っている。
だがこの島を攻めることは遠すぎて現実的ではない。帝国が軍をここに置いている主な理由は海賊対策だし。
だから、すでに彼らには根回しをしておいたんだ」
「根回しってどんなだ。そろそろ今回のことに関係のあることを話してくれるんだろうな?」
「せっかちな奴だな。まあ待ってくれ。いいか、共和国にはこう根回しをしておいた。
我々が独立すれば帝国を介した中継貿易をおこなうことが出来る。
また、島が独立したとしても艦隊が共和国に派遣されることはない、とね」
「エラン提督の言っていたことと逆じゃないか?」
「そうでもない。艦隊はどのみち独立した我々が本土を攻撃しないために、これに備えて駐留する必要があるからだ。
島から軍艦を撤退させたら防衛費は削減出来ているようで、実は何も変わらないということだ。
提督の言っていたことは建前に過ぎない」
「そうか……で、根回しをしたってことは資金提供でも取り付けてるのか?」
「いや、現物提供だ。共和国は同じ手を合衆国にも行っているんだ。
"小さいとはいえ帝国領土であるこの島が、合衆国に続いて独立すれば本土でも反乱が起きかねない。"
共和国は私の話をほとんど信じてはいないだろうが、そのように考えて協力してくれているはずだ。
数日後には共和国からの貿易船が港に到着する予定だ。
もっとも、貿易船に偽造した軍艦なんだけどね。大砲なんかも艤装してある」
この時代、大砲というのはまだ使われ始めて間もない頃だった。
攻城戦や野戦で使われる例はあったが、大砲を取り付けた船は最新鋭のものである。
「えっ。アクセル様、ウチらの作る武器は……?」
と、鍛冶屋代表としてラウラが聞くとアクセルは短く答えた。
「今からでも大砲を作れるようになっておくべきだよ」
「そんな。ウチら自慢の鋭い刀剣は!?」
「安心しろ。船に乗り込んで白兵戦をする際には剣が必要だ。
むしろ、共和国は島の防具や武具を買いたいと言ってくれているんだ」
「本当に!」
「特に槍と防具はね。島の基幹産業、最後のひとつは主に戦争需要の貿易だ」
「共和国もラウラの腕に目をつけるとはお目が高いね。
だが、職人は両手で数えられるくらいしかこの島にいないぞ?
今からでも職人を増やすってことか? でもそれじゃ素材が足りないような」
「誰も武器を作って売るだけとは言っていないだろう。せっかちな奴め」
「悪かったな」
「この島は火山島だ。山で採れる硫黄が共和国に高く売れるらしい。
火薬の原料になるのだとか。化学的なことは私も知らないが、要らないものを買ってくれると言うならそうしよう」
「ほかには?」
「これで全部だ。島の木材も実は高値がついていてね。違法な伐採業者などの検挙も行われている。
だがこれは切ればしばらく元通りにはならないものだろう。
島の森林は非常用の貯金箱、とでも考えておいたほうがいいはずだ」
木材は四季がはっきりした地域より、この島のように年中同じような気温の場所の木のほうが素材として優秀である場合が多い。
この島のものも例に漏れないが、アクセルはこれを売る気はないようなので、会議に出席した面々も何も言わなかった。
アクセルは話を続ける。
「さて、話が長くなってしまって済まない。軽くまとめをしよう。
まず、各国と船の船籍に関する取引をして儲ける事業の事業部長はこの件に関して一日の長がある、アデライド君に任せる」
「よろしくお願いしまーす!」
元気ハツラツ。かわいい笑顔を振りまきながら人気者のアデライドが手を振れば円卓の者たちはみな拍手喝采である。
彼女が座るのを確認してからアクセルは続ける。
「次に塩田だ。この管理はアベル、お前がやるんだ」
「えっ。別にいいが俺、あんまり実務は……」
「経理部長のクロエが実質的な事業部長だから心配する必要はない。
お前の仕事は沿岸部の警戒だ。この島で行われるあらゆる活動は、沿岸部が基本となる。
ギルドで最強のお前がパトロールしていれば敵も大人しくなるだろう。まあ私を除いてだが」
「最後聞き捨てならんことを言った気がするが、まあいいだろ。
塩田のある沿岸部をパトロールすればいいんだな?」
「お前は事業部長兼、ギルド内の治安維持部隊……つまりは憲兵隊長だ」
「憲兵隊長……!」
憲兵、という言葉について説明を入れねばなるまい。
軍隊というのは、それ単体で国として活動できるほどの厳格な規律と高度な分業制を持った組織でなければならない。
何故かというと、国境地帯などといった、"国"がない場所でも活動するためには自らが"国"になるしかないのだ。
そのため、医療を司る衛生兵、土木工事などを行う工兵、絶対的トップである司令官に、それを補佐するスタッフである幕僚。
それらが活動するための物資を補給する輜重兵などが存在する。
中でも、軍隊内の規律を正し、軍法会議と言って軍隊内の裁判も司る兵士もいる。
これが、憲兵である。軍隊内の警察だ。そして、アベルはこの島の憲兵隊長となった。
これはすなわち、実質的にこの島の警察組織のトップになったということであった。
「憲兵隊だからね。強い者はいくらでも引き抜いて構わないよ。
さっきも言ったが、無職にしておくぐらいなら治安維持組織に引き抜いたほうがいいこともある」
「よし。それじゃ入隊試験にドラゴンを」
「それはやめろ」
「……はい」
と頭を下げたアベルだったが、その際に一瞬反抗的な眼を双子の兄に向けたことをアクセルは見逃さなかった。
「なんだその目は。身内に甘いと言われても仕方ないくらいの人事だと思うけどね」
「いーえ、ありがとうございますアクセル様」
「フン、まあいいだろう」
「で、ギルドマスターはどうするんだ?」
「私はやることがある。それと、ドラゴンは早く処分しておけよ」
「それは反対です!」
と動物好きのラウラが意見した。アクセルはこれにまともに付き合わなかったのだった。
「文句ならアベルに行ってくれ。それでは諸君、今日もほどほどに働こうか」
それだけ言って会議室を出て行ってしまった。それから数日が過ぎ、徐々にギルドマスターへの島民、およびギルド内部での評価も定まってきた。
新マスターへの評価は驚くほど好意的なものが多く、アベルも島をパトロールをしていて何故かやりどころのない怒りを覚えたほどである。
やはり、前マスターが良くも悪くもいい加減だったのに対し新マスターの時代には規律によって一本筋を通しているからであろう。
それでいて新マスターは本人も盛んに口にするように、他人に対して、ほどほどに働くことしか求めていないのだ。
逆に百人以上の冒険者を葬ったドラゴンを未だに飼っており、処分もしていないアベルの評判は決して良いものではなかった、と言わざるを得ない。
それに、仮に元は評判が良くても人を取り締まる側になってしまうと、熱心に仕事をすればするほど嫌われるものである。
ところが、彼は重ね重ね言うようにいい加減なところがあり、またこの島のトップであるアクセルも割と寛容なので、アベルの悪評はドラゴンの件の一点のみだった。
そんな彼がいつものように部下を各所に配置し、沿岸部をパトロールしている時であった。
アベルは長官である自分自身を特に治安が悪くなりやすい港付近に、管轄地域を割り当てていたのだが、ここへ丁度お昼時、数隻の貿易船が入ってきたのを確認した。
「おおっ、あれがアクセルの言っていた船だな」
港に船を停泊させ、船を降りて上陸してくる乗組員たちはみな、屈強な男ばかりである。
よくいる水夫風の格好をしているものの、隠しきれない殺気を漂わせている。
職業軍人たちだ。厳しい訓練をされ過ぎているため、どうしても秩序だった行動をしてしまうようだ。
普通の海の男がようやく陸に到着出来たら、とにかく女を抱きに行きたいだとか、旨い飯を食いたいだとか、てんでバラバラの欲求に従って離散していくはずである。
彼らにそれはなかった。また、船をよく見てみれば大砲がどこに設置してあるかもおおよそ見当がついた。
よく見てみないと気が付かないがシャッター式になっているのだろう。
船体の板材にわずかな隙間が見える。共和国からの船に間違いはなかった。
「エラン提督め。知らないふりをしているのか」
アベルはこっそりと毒づいた。自分の管轄する海域に敵国の軍艦がやってきたのだ。
提督のすべきことは一つしかあるまい。まさか、このことを知らないわけがないだろう。
彼らをすべて味方にしているアクセルの政治力は悔しいながら認めるしかあるまい、と思いながらアベルは船から降りてきた水夫に声をかけた。
「どうも、治安維持部隊の部隊長アベルだ。乗ってきた船の船籍は?」
「見ての通り、マデイラ・ギルド印ですよ!」
水夫は自分がさっき降りてきた船を指でさした。
高々と掲げられた帆はもうすでに何十人もの水夫の手でたたまれ始めているが、船首の方にもギルドのシンボルマークが掲げられている。
「ふむ。しかしこの船は……その、聞きにくい話だが、どうすんだ?
あんた達はこの船に乗ってきたわけだろう。いいのか?」
水夫はアベルがギルドマスター・アクセルとどういう関係かも知らされているため、躊躇なくこう答えた。
「我々は命令によってここへ駐屯するようにと仰せつかってます。期限は特にありません。
まあ早い話、ここには命令があるまでお邪魔させていただきます。
だって、ここにはほかに最新鋭の船を操ることのできる人間がいないでしょう」
「そりゃあそうだな。ああ、なるほどね。そういうことか」
アクセルの深謀遠慮なのか、それとも偶然なのか。とにかくアベルは今この状況がかなり複雑であるということは理解した。
エラン提督の帝国艦隊がこの島に常駐しており、同時に共和国の軍艦が三隻入港しているのがこの島の現状だ。
数の上では一見帝国側が不利である。
だが共和国側は本国とは連絡など一切取れないため、孤立状態であるという点で大きな弱点をもっているので条件はどちらが有利か一概に言えるものではない。
両者の軍を島に入れることにより、島の主であるギルドは、どちらの勢力ともそれなりに対等な立場で話ができるのだ。
ギルドがここで敵に回れば両国の軍艦は即刻戦争に発展しかねず、そうなった場合、最悪全滅だ。
しかもアクセルはどうやら事前に、共和国から派遣されてきた船員たちの食料、これは一切をギルドが責任もって食わせていくと確約しているに違いない。
でなければ船員たちも、こんなに落ち着き払って船を降りてきて笑顔で談笑できるわけもない。
逆に言えばギルドがその気になれば食料を断ち、エラン提督をけしかけて共和国の兵士に大打撃を与えることも可能だ。
反対に提督のほうも、数でも兵装でも向こうが勝っている共和国軍が相手であるから、アクセルを敵に回すと命はないと思ったほうがよい。
さて、こうなると、両軍ともにちょっと手が出せないが、一つだけ解決方法があることを賢明な読者ならわかっていることと思う。
そう、アクセルを両者が結託して排除すればいいのだ。だがこれにも大きな問題がある。
アクセルを仮に亡き者にしたら共和国軍はもうなりふり構わず島を略奪することになる。
共和国の船はどこかほかの陸地を目指すにしてもかなりの食料や水を備蓄せねば出港できないので、この島から根こそぎ奪っていかねばならないのだ。
強硬手段しかとれないのは、あくまで彼らへの島での生活の保障はアクセルとの密約だからだ。
さて、このように公然と略奪が発生すればエラン提督も本来の仕事をせねばならず、無視すれば更迭、左遷、最悪の場合は処刑だろう。
だから結局共和国軍と勝てるかどうかもわからない戦いをしなければならないのだ。
当然、提督も、また共和国軍の提督もそれがわからないバカではないだろう。
つまり、両陣営ともに八方ふさがり。彼らにとれる最もリスクの少ない手はアクセルの言うことに従うことである。
と、いうことを説明するのにきわめて長大な文章を書くことになってしまったので軽くまとめる。
要するにアクセルはゲーム理論もない時代に、三人のゲームプレイヤーのパワーバランスを戦略的に操作し、軍事力が一番弱いはずの自陣を立場的に一番強くすることに成功したのだ。
1年半ぶりくらいに更新。
PCから発掘したデータにもここから先は書き溜められておらず、作者本人でさえ設定とかプロットとか完全に忘れてしまってる。
いや、でも書いてる時はメチャクチャ面白い大長編になる予定だったんですが。
今後の更新は全く未定。