66 森の管理を押し付けよう!
不幸にも『幻影の手』の手からエルフ族を救ってしまった翌日。
俺は自室で頭を抱えていた。
「なぜだ、なぜこうも全てが裏目に出る……!」
俺はただ、人々を傷付ける悪のカリスマとして君臨したいだけなのに……
こんな酷い目に遭うなんてあんまりにも程がある。
そんな風に落ち込んでいると、
「ご主人様、そろそろお時間です」
「マリー。そうか、もうそんな時間か……」
いつの間にか俺の背後に控えていたマリー(もう慣れた)の言葉に頷く。
俺が救ってしまったエルフ族の処遇について、本日改めて話し合うことになっていたのだ。
気は乗らないが、仕方ない。
俺のことを救世主だとか、よく分からない存在と勘違いしている奴らに現実を教えてやるとしよう。
「では、行くとするか」
◇◆◇
「「「お待ちしておりました、救世主様!」」」
くぅっ!!!
マリーと二人でエルフ族の里にやって来た途端、かけられた称賛の言葉にダメージを受けてしまうが、ここは気丈に振舞う。
そしてそのまま、俺は族長のセディーアに話しかけることにした。
「確か、貴様が族長のセディーアだったな」
「そうだ。覚えていただき感謝する、クラウス殿」
「悪いが、感謝される謂れはない」
「っ! クラウス殿……!」
いや、本当に。
感謝されたくないどころか、むしろ全力で嫌ってほしいくらいだし。
そんな俺の意図が伝わったのか、セディーアは衝撃を受けたような表情を浮かべていた。
とはいえ、この程度で済ませるつもりはない。
俺は彼女たちの好感度を下げるため、一晩かけて考えてきた作戦を実行することにした。
「今日は貴様たちに重要なことを伝えにきた」
「重要なこと?」
「そうだ。貴様たちが無許可で暮らしている【冥府の大樹林】が、ソルスティア王国の領地であることは理解しているな? そして今、その管轄権は俺が握っている」
「……!」
驚きと苦痛が入り混じった表情を浮かべるセディーア。
後ろに控えるエルフたちもまた、痛いところを突かれたという反応をしていた。
俺の口から一言、ここから離れろと言われればそうせざるを得ないからだろう。
昨日は勝手に配下になると宣言してきたとはいえ、俺がそれを否定すれば済む話だしな。
しかし、俺はそうするつもりはなかった。
(【冥府の大樹林】から追放する? いや、それでは甘すぎる)
不幸にも今、エルフ族から俺に向けられている好感度は非常に高い。
この状況で、常識のもと彼女たちを追放したところで、好感度が下がりこそ恨まれる領域に到達するかは怪しい。
では、どうするか?
単純な話だ――追放以上の苦痛を、継続的に彼女たちに与えてやればいい。
「ここから先の話は、この場ではなく向こうで行う。ついてこい」
「……承知した。クラウス殿にも立場があるのは把握している。どんな沙汰でも甘んじて受け入れるとしよう」
よし、言質も取れた。
俺は笑みを浮かべながら、セディーアたち一行をあの場所に案内するのだった。
◇◆◇
「【連結――過剰連撃・炸裂する爆炎】!」
騎士たちとソフィアから放たれた火炎が、いつものように森を焼き尽くす。
それを見たセディーアたちは驚きに目を見開いた。
「これは……森を燃やしているのか? なぜだ? 『幻影の手』はもう壊滅したはずでは……」
その呟きを聞き、俺は内心で笑う。
(やはり、俺が森を燃やしていたのは『幻影の手』を滅ぼすためのものだったと思っているようだな……)
エルフ族といえば、どんな創作物であれ自然を愛していると相場が決まっている。
敵対する存在を倒すために仕方なく自然を破壊するだけならともかく、普段から大きな意味もなく――否、国への嫌がらせ目的で行っていると知れば好感度が下がることだろう。
さらに、だ。
俺はセディーアを見つめ、まっすぐに告げる。
「今日から貴様たちには、俺たちが生み出した荒地全ての管理者となり、彼女たちとともに引き続き森の破壊――こほん、開拓を行ってもらう」
騎士たちを巻き込んだ時と同様、彼女たちも共犯者にしてしまうのだ。
そうすることで俺への憎悪は増すだろうし、俺としてもちょっと面倒になり始めていた大樹林の管理から解放される!
これぞまさにパーフェクトなアイディアである!
「「「………………(ぽかーん)」」」
あまりにも納得できない提案だったからだろうか。
セディーアたちは驚愕を飛び越え、呆然とした表情を浮かべているのだった。
(くはは……完璧だ!)
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