64 幻影の手、壊滅 ②
ドドドドゴゴゴゴォォォォォォォォォォン!!!
「「「――――――――!?!?!?」」」
これまでで最大の爆音と共に、地獄の業火が集落の手前まで届く。
その業火は驚くことにエルフ全員を避け、『幻影の手』の者たちだけを完全に焼き尽くしていった。
「いったい、何が起きて……」
セディーアたちは困惑を隠しきれなかった。
この業火は、彼らが集落を探すために発動していたもののはず。
それなのになぜ、彼らだけを巻き込んでいるのか。
すると、その答えを告げるように『幻影の手』の者たちが叫び声を上げる。
「馬鹿な! なぜこのタイミングで再び特大規模の爆炎が!?」
「それもエルフではなく、俺たちだけを目がけて……」
「クラウス・レンフォード! まさか初めから、これを狙って……!? 俺たちを一網打尽にすべく誘い出したというのか!」
「「ぎぃぃぃやぁぁぁあああああ!!! 熱いぃぃぃいいいいいいいいい!!!」」
やがて業火は、『幻影の手』たちを全て焼き尽くした後、役目を終えたとばかりに消滅した。
その一部始終を、セディーアたちはただ呆然と眺めることしかできなかった。
「族長、いったい何が起きたのでしょうか?」
「分からん。最後の言葉を聞くに、クラウス・レンフォードという者が守ってくれたことだけは確かなようだが……」
『幻影の手』と敵対していること存在であることは間違いないだろう。
問題は、なぜその人物が自分たちを守ってくれたのか。
「クラウス・レンフォード……聞いたことがあります!」
その時だった。
金髪セミロングの少女、リンシアが突然声を上げる。
彼女は集落の情報収集役として、時折人里近くに赴き、優れた聴覚によって様々な情報を持ち帰ってきていた。
『幻影の手』と遭遇して以降は、結界の中に閉じこもっていたため役目を果たせなかったものの、それまでは貴重な情報源となっていたのだ。
「知っているのか、リンシア?」
「はい。風のうわさで聞いたのです。ソルスティア王国の貴族であり、魔王軍幹部を二人も倒すだけの実力を持ちながら、国で忌避されがちな黒髪持ちを従者にし、全ての人を救うべくその身を尽くす聖人のような存在だと……」
「――! まさか!」
そこでふと、セディーアは代々エルフ族に語り継がれる伝承を思い出した。
悠久の昔、エルフと人が共に暮らしていた黄金の時代。
しかし一部の人間の腐敗により、その時代は終焉を迎える。
だがその時、ある予言が残された。
『いつの日か、人族の中から選ばれし者――救世主が現れ、エルフ族を取り巻く闇を打ち払う』
初めは笑い話程度に語られるようになったその予言。
それでも代々、エルフ族の長はその言葉を心に刻み続けてきた。
セディーアもまた、幼い頃から耳にしてきた言葉だった。
リンシアの言葉に、セディーアは思い返す。
『幻影の手』が襲撃してきた時、なぜ彼らだけを焼き尽くす業火が放たれたのか。
「それもまるで……私たちを守るかのように」
これまでの経験から、セディーアは人族を全く信用していなかった。
魔族も同様だ。
多くの同胞が、彼らによって連れ去られ、二度と戻ることはなかった。
人も魔族も、野蛮な存在しかいないと思っていた。
しかし仮に今、自分たちを助けようとしてくれていた存在がいるのならば。
クラウスと呼ばれた存在こそ、幼き頃から心のよりどころにしてきた、自分たちの救世主であるに違いない。
「そうか……とうとう、私たちが救われる時が来たのだな」
「族長? それはどういう?」
「……つまり、クラウス・レンフォードが私たちの長年追い求めていた救世主に違いないということだ」
「っ……!」
「私たちの全身全霊で歓迎する必要がある! さあ皆の者、救世主を迎え入れる準備を整えよ!」
「「「はい!!!」」」
かくして『幻影の手』は壊滅し、エルフたちは感極まった様子で、自分たちを守ってくれた救世主を待つのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
面白ければ、ブックマークや広告下の「☆☆☆☆☆」から評価していただけると幸いです。
作者のモチベが上がりますので、ぜひよろしくお願いいたします!




