56 中ボスを配下にしよう!
後書きに【大切なお願い】がございますので、もしよろしければそちらの確認もお願いいたします!
【冥府の大樹林】を焼け野原にすることで、ソフィアや騎士たちからの評価を落とすことに成功した翌朝。
突如としてウィンダムが、神妙な面持ちで話しかけてきた。
「レンフォード卿にお伝えしておかなければならないのですが、本日は急遽、客人がいらっしゃることになりました」
「客人だと?」
「ええ。この地を貸し出してくださっている領主が挨拶にいらっしゃるのです。本来であればこちらから伺うべきところですが、レンフォード卿も知っての通り、今回は事情が事情でして……先方から足を運んでくれることになりました」
「なるほど、そういうことか」
正直何を言っているのかさっぱり分からなかったが、どうせ大したことではないだろうし適当に頷いていく。
とにかく、俺が【冥府の大樹林】を統治するための拠点として土地を貸してくれた領主が来るということだ。
恐らくその領主は、俺が大樹林から資源を獲得し、そこから出た利益を期待して貸し出してくれたのだろう。
大樹林の悲惨な状態を見て腰を抜かす様が今から楽しみだ。
せいぜい俺への評価を下げさせてもらうとしよう。
すると、そのタイミングで隣にいたソフィアが柔らかい笑みを浮かべる。
「ちなみにその挨拶の場には、私も同席させていただきます」
「ソフィアもか?」
「はい。私は陛下より直々に指令を受けて付き添っている立場ですから。そ、それにクラウス様の将来の伴侶たる者として、いついかなる時でもそばにいるのは当然で……(ボソッ)」
「……?」
後半は声が小さくて何を言っているのか聞こえなかったが、とにかくソフィアもついてくるらしい。
「なるほど。それでは挨拶の場には俺、ソフィア、ウィンダム侯爵、それから従者としてマリーで向かうというわけか」
そうまとめる俺だったが、ウィンダム侯爵の表情がやけに険しくなる。
「それがその……少し申し上げにくいのですが、領主の性格を考えたところ、できればそれは控えた方がよろしいかと……」
「なに?」
疑問を抱く俺。
よく見るとウィンダムの視線は、マリーの頭部――すなわち夜空のように真っ黒な髪に注がれていた。
それを見た俺の天才的頭脳は一瞬で答えを出す。
――なるほど。今から来る領主とやらは黒髪フェチなのか。
ウィンダムはその領主が権力を使ってマリーに手を出すことを危惧しているのだろう。
だが心配無用。マリーにはこれまで俺自らの手で暗殺術――もとい自衛の術を教えてある。
そこらの有象無象に興味を持たれたところで、その手に触れることすら構わないだろう。
ゆえに、俺は力強く断言する。
「問題ない。マリーは俺の(鍛え上げた)従者だ。何があろうと(マリー自身の手で)何とかしてみせる」
「……クラウス様」
マリーが輝いた目で俺を見つめてくる。
俺から実力を認められて歓喜しているのだろう。
ふむ、よい。その調子でぜひ、俺の対応力を鍛えるために暗殺術を磨いてほしいところだ。
そんなことを考えている俺のそばでは――
「やはり、クラウス様とマリーさんの関係は侮れませんね」
「権力に屈することなく、何があっても自らの従者を守ろうとするお姿……さすがはレンフォード卿です」
ソフィアとウィンダムが各々の反応を見せていたが、俺は自分の思考に集中していたあまり聞き取ることができないのだった。
◇◆◇
それから数時間後。
とうとう客人が来たということで客間に向かうと、そこには一人の男性が立っていた。
老獪さを感じさせる余裕のある面持ちに、豪奢な服装に身を包んだ小太りな体型が特徴的。
全体的にはまさに貴族然とした風貌をしており、気品のある様はかつてボコボコにした貴族とは比べ物にならないだろう。
そして最大の驚愕ポイントが一つ。
俺はなんと、その男性の事を知っていた。
――マルコヴァール辺境伯。
彼はゲームにも登場した中ボスキャラだった。
(これは少し予想外だったな……)
まさかこんなところで、ゲームの登場キャラに出会うとは思っていなかった。
しかしそれと同時に、ウィンダムが先ほど言っていた内容にようやく納得する。
マルコヴァール辺境伯。
彼はとある黒髪のヒロインルートに登場する中ボスであると同時に、この世界における差別主義の体現者。
今は俺に集中してマリーに気付いていないようだが、本来なら黒髪持ちに対する扱いがこの上なくひどい人物だ。
自らが使役する『幻影の手』という組織には魔族がいるというのにそれなのだから、本当に救いようのない悪人だと言えるだろう。
そしてその特定のルートにおいては、それこそ中ボスでありながら魔王を超える邪悪さと存在感を見せつけていた(ちなみに残り4ルートでは、エピローグにてクラウスと一緒にたった一文で処分される)。
これらの情報から俺がマルコヴァールに抱く思いはたった1つ。
怒り? 憎しみ? 殺意?
否――
(――――めちゃくちゃ羨ましいぃぃぃ!)
――という、極めて強力な感情だった。
だってそうだろう!? よく考えてみてくれ!
俺ことクラウスは、全てのルートにおいてたった一文で処刑されるモブ悪役。
対してこのマルコヴァールは、たった1ルートとはいえ魔王やラスボス以上の悪役として君臨していたのだ!
これを羨まずしてどうしろと!? できることならクラウスじゃなく、こっちのキャラクターに転生したかったくらいだ!
そんな風に内心で歯痒い思いを噛み締めていると、マルコヴァールはゆっくりと口を開く。
「初めまして、私はこの地を治めている領主のマルコヴァールと申します。貴方がレンフォード卿ですね。お噂はかねがね伺っております」
胡散臭い笑みのまま、マルコヴァールは続ける。
「なんでもレンフォード領の統治はとても素晴らしく、人々からの支持も集められているのだとか。なにせ我が領民の中から移住する者が現れるくらいですからね……どのような手段を用いればそんなことが可能なのか、ぜひご教授いただきたいところです」
その言葉の端々から、俺に対する敵意が見て取れる。
しかしそうなるのも当然だろう。
ゲームのエピソードを振り返って考えると、コイツの背後にはこの時点ですでにラスボスのルシエルがいる。
そしてマルコヴァールはルシエルの指示に従い、様々な悪辣な計画を立てている最中のはずだ。
それに対して悲しきかな、俺は様々な偶然によって現時点でこの国の英雄に仕立て上げられている(本当にひどい、泣きそう)。
マルコヴァールたちの目的を考えれば、俺は真っ先に排除しなければならない対象なのだ。
まったく、こちらはこんなに好意的に思っているというのに、なんともひどい話である。
まあ、それはさておくとして。
こうしてゲームの中ボスと遭遇した今、俺のすべきことは何か。
マルコヴァールの計画を事前に食い止める? 否、それは主人公の理屈だ。
ラスボスを目指す俺が取るべき選択など、たった一つしかない。
――そう! その選択とはずばり、マルコヴァールを俺の配下に加えること!
もっと正確に言うなら、ルシエルから俺に鞍替えさせるのだ!
もしそれが叶えば、卑劣なマルコヴァールを配下にした俺の評価が下がるだけでなく、ルシエルからのヘイトを稼ぐこともできる!
ラスボスを目指す上で、ルシエルはいずれ必ず敵対しなくてはならない相手。
この時点でそのきっかけを作れるなんて、最高じゃないか!
「フフ、フフフフフ……」
「ど、どうかされましたかな、レンフォード卿? 私はただ、貴方のやり方を参考にしたいと思ってお尋ねしただけなのですが……」
降って湧いたチャンスに対し、思わず笑みが零れてしまう。
【冥府の大樹林】を燃やし尽くすだけなどつまらないとおもっていたが、まさかの嬉しい誤算だ。
様子の変わった俺に気付いたマルコヴァールが戸惑っているようだが、そんなことは些細な問題と思えるほどに。
(さて、となると問題はコイツを配下に加えるための手段だな……)
ゲーム知識を利用し脅すのもいいが、マルコヴァールがこの時点でどれだけの悪事を企んでいるかという詳細までは分からない。
そもそも俺はコイツと敵対したいのではなく、同じ悪役として仲良くなった上で、手足のように動かせる奴隷――じゃなかった、配下にしたいのだ。
そんな手段を用いては関係に傷が入るというもの。
もっときちんとした方法で、正しく清らかな関係を築かせてもらうとしよう。
そのために時間がかかってでも、コイツの弱み――じゃなかった、親しくなるために使えそうな情報を集めるのだ。
よし、決まりだ。
この滞在期間を利用し、【冥府の大樹林】を破壊する片手間にマルコヴァール辺境伯を鞍替えさせ配下に加える。
それが俺の新たな目標だ!
ラスボスに繋がる新たな道筋を見つけた俺は、興奮冷めやらぬままマルコヴァールに向けて宣言する。
「もちろんです、マルコヴァール卿。この私みずから、貴方が進むべき本当の道を教えて差し上げましょう」
「――――ッ!?!?!?」
なぜか目を大きく見開き、後ろに下がるマルコヴァール。
ふむ、せっかく快く俺のやり方を教えてやろうと思ったのに散々な反応だ。
まあいい。それでも俺の目標自体は変わらない。
現時点のマルコヴァールが持つ情報を全て掌握し、コイツを心から俺に仕えさせるとしよう。
さすればコイツが悪事を行うたび、俺の悪名も一層轟くはずだ!
俺は最後に力強く心の中で誓う。
(待っていろ世界! 今度こそ――今度こそ俺が、この世界に絶望と恐怖をもたらしてみせる!)
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