54 豊かな森を焼き尽くそう!
『アルテナ・ファンタジア』にも登場した特殊フィールド【冥府の大樹林】。
まさかここに連れてこられるとは露にも思っていなかった俺は、戸惑いと怒りの只中にあった。
「ク、クラウス様? 突然叫ばれてどうされたのですか?」
「いや、何でもない。それより本当に、俺に与えられる領土はここで合っているのか?」
ソフィアの追及を誤魔化しながらそう尋ねると、彼女は迷いなく頷く。
「はい、もちろんです。我がソルスティア王国が所有する最大の領土でありながら、未だかつて治めることのできた者のいない未開の地――【冥府の大樹林】。確かにここをクラウス様に譲ると、陛下から仰せつかっております」
「…………」
なぜ、なぜこうなった。
本当なら今ごろ、国王アルデンのお膝元でぬくぬくと生活している国民たちの阿鼻叫喚を聞いている予定だったのだが。
だというのに、実際に与えられたのは国民一人暮らしていない未開の地ときた。
どうやら俺は完全にアルデンから嫌われているらしい。
何でだろう、ちょっと反意をアピールしたくらいしか覚えがないんだが……
話を戻そう。
とりあえずアルデンから嫌われているという事実はポジティブに受け取るとして、問題は現状だ。
どうして俺に【冥府の大樹林】が与えられたのか。
国王からの嫌がらせだと結論付けるのは簡単だが、他にも可能性は幾つかある。
その中で最もあり得そうなのは、大樹林の資源獲得だ。
この一帯には濃密度の魔力が漂っている影響で、特殊な鉱物や植物が数多く存在している。
当然、その代わりに強力な魔物も生息しているのだが……
魔王軍幹部を二人も倒した俺なら、問題なく入手できると考えても不思議ではない。
「ふむ、この考えで間違いないだろうな」
俺は天才的頭脳によって、アルデンの狙いを看破した。
確かに今の俺なら、この大樹林を自分の庭のように闊歩できるだろう。
だが、だがである。
そんな期待に易々と応えてやるほど、心優しくなどない。
むしろ現在進行形で溜まりつつある鬱憤を晴らすべく、俺は神がかり的な解決策を閃いた。
そうだ、これしかない!
俺は興奮冷めやらぬまま、小さな笑みを浮かべてソフィアに尋ねる。
「ソフィア。ここが俺の領土になったということは、何をしてもいいんだな?」
「え? は、はい。当然、基本的な統治方針はクラウス様に委ねられますが……」
「そうか。それを聞いて安心したぞ」
言質は取った。
俺はさらに笑みを深めつつ、集団の中から一歩前に出る。
そして、この地に来てからずっと湧き上がり続けていた怒りを、余すところなく魔力に変換する。
直後、俺の体は圧倒的な濃密度の魔力によって包まれた。
その存在感は否応にも、周囲に大きな威圧をかけるほどのもので――
「ク、クラウス様? どうして突然、魔力を練り始めて……」
「レンフォード卿!? この魔力は――」
「なんて魔力の圧だ! 俺たち程度じゃ抗おうにも押し返されちまう!」
ソフィア、ウィンダム侯爵、護衛の騎士たちという、この場にいる誰もが困惑の声を上げた。
唯一、平常心を保っているのはマリーくらいだ。
そんな中、俺は改めて眼前に広がる【冥府の大樹林】を見据えた。
国王アルデンは望んでいる。
俺がこの大地から豊かな資源を獲得することを。
だが、俺は決して権力には屈しない。
国王の怒りをさらに買うという大いなる目標のため、絶対にその期待を裏切ってみせる!
具体的には――この大樹林から、そもそも資源という資源を全て消し去るのだ!
「全員、後ろに下がっていろ。これが俺の答えだ」
「クラウス様、いったい何を――」
ソフィアが最後まで言い切るより早く、俺は両手を前に出し唱えた。
「【過剰連撃・炸裂する爆炎】」
刹那、解き放たれるのは炎の奔流。
大気中の酸素と魔力を呑み込むことで巨大化しながら加速するそれは、大樹林の中でもひと際高く聳え立つ巨樹に衝突し、大爆発を起こした。
するとあっという間に、周辺一帯が焼け野原へと変貌する。
「きゃあっ!」
「なっ! なんて威力だ!?」
あまりの衝撃に驚愕の声を上げるソフィアたち。
だが、甘い。
この技の真価はここからだ。
そもそも【冥府の大樹林】はその特性上、一部が焼け果てても瞬く間に周囲から魔力を吸収し復活する。
それでは俺の目的は満たされない。
ゆえに――
ドォォォォォォォォン!
ドゴォォォォォォォン!
ドドドドゴゴゴゴォォォォォォォォォォン!!!
周囲から流れ込んでる魔力に反応し、留まることなく何度でも大爆発を引き起こす。
これこそが【過剰連撃・炸裂する爆炎】。
再生するための土壌と魔力ごと、全てを完膚なきまでに破壊しつくすのだ!
その目論見は見事に成功。
約5分にも及ぶ地獄のような破壊の末、視界全てが焦土にへと変貌した。
「……成功だな」
これで少なくとも、視界に届く範囲からは資源が消え去った。
時間が経てば草木が芽吹くこともあるだろうが、せいぜい一般的な草原程度。元の大樹林の姿に戻ることはない。
この調子で強引に開拓を進めていけば、アルデンの狙いは瞬く間に破断することだろう。
「「「……………………(ぽかーん)」」」
ソフィアたちはというと、想定していなかった事態に困惑しているのか。
呆然とした表情で焼け野原と化した大地を眺めていた。
その光景を見た俺は満足感と共に、心の中で「はーはっはっは!」と高らかに笑い続けるのだった。
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