52 怒涛のお礼がやってきた!(絶望) ver2
「「「領主様! ありがとうございます!!!」」」
意気揚々と町に出てきた俺に待ち構えていたのは、非情にも領民たちからの感謝の言葉だった。
誰もが曇りのない満面の笑みを浮かべている。
なぜ……なぜこんなことになったんだ!?
困惑する俺の前に、一人の男性がやってくる。
先日、畑が魔物に荒らされているとやらで助けを求めてきたフィガナ村の村長だ。
彼は俺に対して深く頭を下げた。
「領主様、この度は本当にありがとうございました!」
訳が分からない。
訳が分からなさ過ぎて、ズキズキと頭痛が襲い掛かってくる。
「……何に対する礼だ? 【特殊固定魔力砲台】を用意したことに対してなら、既にもらった覚えがあるが」
「もちろん、それらについて再度お礼を申し上げたいと思ったからです! 領主様のおかげであの後、様々な恩恵がございまして!」
「様々な恩恵だと?」
「はい! まず【特殊固定魔力砲台】で倒した魔物ですが、どれも強力な魔物で良い素材になるということで、商人が高く買い取ってくれたのです! おかげで村が以前より栄えました!」
「…………」
村のためになると思って【特殊固定魔力砲台】を提供したら、なぜか想定以上に村のためになってるんだけど!?!?!?
なぜ!? 普通そこは逆に衰退したりするもんじゃないのか!?
くそっ!
事象逆転現象による評判低下という恩恵がないばかりか、そんな最悪な副作用が存在していたとは。
いったいこの世界はどうなっているんだ!?
絶望する俺に対し、村長は続ける。
「さらにお礼したいことがあるのです!」
「まだあるだと?」
「はい!」
村長は力強く頷いた。
「【特殊固定魔力砲台】を使用する際、村の魔力ある者が順番に行っていたのですが……なんとそのうち一人の少年が魔力の才能に目覚めたのです! 何でも【特殊固定魔力砲台】から放たれる魔力の流れを見るだけで学習し、再現できるようになったとか。 その後、冒険者ギルドに向かったところわずか一週間でAランクにまで上り、さらに任務中にたまたま盗賊に襲われていた貴族のご令嬢を助けた結果、なんと婚約することになりました! これでますますフィガナ村は発展するでしょう! 本当にありがとうございます!」
なんか知らないエピソードが繰り広げられてるんだけど!?
えっ、何、もしかしてソイツも転生者だったりしない?
意味の分からない展開に頭を抱えていると、続けて一人の男性が前に出てくる。
特産品発明を依頼してきた商業ギルドのマスターだ。
「領主様に改めてお礼を! まことにありがとうございます!」
「……ごふっ」
「領主様!? いかがなさいましたか!?」
「何でもない。早く続けろ」
「か、かしこまりました。それでは……」
胃から湧き上がってきた血を必死に抑えつつ、ギルドマスターに続きを促す。
既に抜け出せない絶望の渦に巻き込まれているような気がするが、果たしてそれは気のせいなのだろうか。
「領主様が開発された黄金フィナンシェですが、予想通り観光客に大ウケです!」
「そうか。報告はそれで終わりだな?」
「いいえまさか! ここからが本番です!」
縋るように尋ねた言葉は、一瞬で否定されてしまった。
俺はキリキリと痛む胃を抑えながら、ギルドマスターの報告を聞く。
「実はですね、なんとタイミングを合わせたように、レンフォード領にやってくる観光客以外の者が増えたのです! その中でも特に多いのが冒険者や商人、そして隣領であるマルコヴァール領からの移住希望者です! 彼らに黄金フィナンシェが気に入られた結果、領内に収めておくのはとても惜しいとのこと。そこで貴重な王冠蜂の終焉蜜の収穫は冒険者ギルドが、販路の開拓は商人たちが行うという取り決めが行われ、王都を始めとした各地に売り出すことが決定しました! さ ら に! 冒険者や商人たちはなぜか、レンフォード卿のためならばと破格の条件で引き受けてくれたのです! おかげで商業ギルドをはじめ、レンフォード領が大いに発展することでしょう! さすがは領主様でございます!」
なんか知らないうちに大規模な政策になってるんだけど!?
しかも俺のためなら身を粉にしてくれるだなんて、冒険者たちは何を考えているんだ!?
こんな風に恩を仇で返されるなんて最悪の気分だ。
せめて冒険者だけは、ちゃんと俺の悪評を広げる手助けをしてくれていると信じていたのに!!
絶望のあまりクラクラと立ち眩みし、その場に倒れそうになる。
が、そんな俺を許してくれるほど領民たちは優しくなかった。
「領主様! 次は私から感謝を伝えさせてください!」
「いいえ、先にこちらを! レンフォード様へお礼の品です!」
「「「領主様! 領主様! 領主様」」」
フィガナ村や商業ギルドだけでない。
この一週間で行ってきた善行の数々がなぜか、揃いも揃って何十倍の成果になり返ってくる。
ただ1つだけ共通しているのが、彼らから俺に対する尊敬と信頼が膨れ上がっているという事実だった。
その結果、実際に俺が手助けした相手だけでなく、通りすがりの領民たちさえ空気に飲み込まれてキラキラとした目を向けてくる。
「私たち平民のために力を尽くしてくださるなんて、なんて素敵な領主様なのでしょう」
「ああ! あの人のためなら、俺はどんな苦しい仕事だって頑張れるぜ!」
「さすがはレンフォード卿。領民たちの心を掴む術を熟知しているのですね」
「はい! これでこそ私の婚約――ごほんっ、クラウス様です。また一つ大切なことを学ばせていただきました」
領民たちの声の中にはどこかで聞いたものも幾つか混じっていたような気がするが……
もはやそれに意識を向ける余裕はなかった。
俺はただ、心の中で恨み言を告げることしかできず――
くそっ、くそっ、くそっ!
ちょっと領民たちのためになることをするべく、不眠不休で一週間努力し続けただけなのに!
なんで領民たちからの評判が爆上がりするんだ!?
何で……
何でこうなったぁぁぁぁぁあああああ!!!
心の中でシクシクと涙を流しながら、俺はその場に崩れ落ちるのだった。




