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ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜  作者: 八又ナガト
第二章 王都編

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25 空想の中の師匠【エレノア視点】

 青色のセミロングが特徴的な少女エレノア・コバルトリーフ。


 彼女は恋愛アクションRPG『アルテナ・ファンタジア』のヒロインの一人であり、唯一の先輩キャラ。

 そして王国騎士団長の父親から受け継いだコバルトリーフ流剣術を得意とする、作中最強クラスの人物でもあった。


 そんなエレノアは今、言葉に形容しがたいほどの衝撃を受けていた。



「クラウスくん。どうして君が、我が流派に伝わる奥義の数々を使えるんだ……?」



 その衝撃度合いといえば、思わずそんな言葉を呟いてしまうほど。

 状況を整理するため、エレノアはここまでに至る経緯を思い出すのだった。



 ◇◇◇


 

 本日は王立学園が休みということで町に出ていたエレノア。

 そんな中、突如として戦闘音が聞こえてきたため、場を収めるべく屋根伝いに急いで現地に向かった。


 するとそこにいたのは、貴族街や平民街を問わず、常日頃からよく問題を起こすブラゼク伯爵。

 ただいつもと違うのは、ブラゼクが何者かに圧倒されているという事実だった。


 その少年の顔を見て、エレノアは驚きに目を見開いた。


「あれはまさか……クラウスくんか?」


 クラウス・レンフォード。

 エレノアとは同学年であり、王立学園におけるクラスメイトだった。

 しかし彼は入学後、たった一週間でレンフォード領を継がなくてはならなくなり、学園を休学して領地に戻っていった。

 そのため、エレノアとの間に大した関係があったわけではない。


 それでもはっきりしていることが一つある。

 学園で受けた授業で見た限り、彼には剣の才能などなかったはず。


 しかし、いま目の前で繰り広げられている光景はそんなエレノアの記憶を覆すものだった。


「ブラゼク伯爵も決して弱くはない。にもかかわらず、クラウスくんが剣術で圧倒している? それに――」


 さらにエレノアにとっては、強さ以上に驚愕的なことも存在していた。



「【十六夜(いざよい)】【龍虎(りゅうこ)】【天地(てんち)】【神威(かむい)】【颶風(ぐふう)】【神斬(かむきり)】」



 クラウスが解き放つ技の数々が、ことごとくコバルトリーフ流のものだったのだ。

 しかもその完成度は、エレノアにも決して引けを取らず……いや、既に超えているかもしれない。



「コバルトリーフ流は一子相伝の剣術だというのに、なぜクラウスくんが使えている? まさかどこかで父の戦闘を見て、見よう見まねで覚えたとでも言うのか?」



 少し無理がある想像だが、今のところ考えられるとしたらこれくらいしかない。

 しかし、エレノアが真に驚愕するのはここからだった。



「――最終奥義【星煌剣舞(せいこうけんぶ)】!!!」


「なっ!」



 クラウスの放った技を見て、エレノアは思わず目を見開いた。


 最終奥義とは、コバルトリーフ流剣術に伝わる13の秘技。

 その破壊力は凄まじく、一振りでどれだけ強力なモンスターをも討伐できると言われている。

 しかしその習得難易度は非常に高く、王国騎士団長の父ですら1つしか使用できない。

 当然エレノアはまだ一つも習得しておらず、来るべき時が来れば父から秘伝書を渡されることになっていた。


 父は普段の任務で最終奥義を封印しているため、どこかでそれを見たということはありえない。

 そもそも、あの年齢で使用できることすら――


「まだまだいくぞ! 最終奥義――」


「…………」


 必死に思考を巡らすエレノアをあざ笑うように、クラウスは続けざまに最終奥義を幾つも放っていく。

 最初はあまりの衝撃に思考が停止していたが、徐々にエレノアはその光景に夢中になっていた。


「……美しい、な」


 一般的な技から最終奥義に至るまで、クラウスの動きはエレノアの理想そのものだった。

 今は理屈などどうでもいいと、エレノアはただただ脳裏にその光景を焼き付ける。


 クラウスがブラゼクを討伐して去った後も、しばらくエレノアは無我の境地にいた。

 数分後、ようやくハッと意識を取り戻す。



「クラウスくん。どうして君が、我が流派に伝わる奥義の数々を使えるんだ……?」



 再びそんな疑問が浮かび上がったきたが、今はそんなことを気にしている場合ではないと、エレノアはブンブンと首を左右に振る。


「それよりも、今の光景が頭に残っているうちに修練を行わなければ!」


 エレノアは急いで自宅の修練場に戻り、夢中で剣を振り始めた。

 先ほどのクラウスの動きを理想とし、再現できるように集中しながら。



「違う! 彼の動きはもっと自然で……そう、波のようだった。まだまだ効率的に剣を振るうことができるはずだ!」



 エレノアはぶつぶつと呟きながら、ただひたすらに技の再現に努める。

 その目に焼き付いた、クラウスの剣技に追いつけるようにと。

 空想の中にいる彼を師匠としながら、剣を振るい続けた。



 ――さて、ここで少しゲーム世界の話を振り返る。


『アルテナ・ファンタジア』の全ルートを攻略したプレイヤーに「ヒロインのうち誰が最強だったか?」と質問した場合、多くの者がエレノアと答えるだろう。

 しかしそれは決して、物語の開始時点から彼女が最強だったというわけではない。


 エレノアの個別ルートに入った後、彼女はコバルトリーフ流剣術と向き合うことになり、その流れで全ての最終奥義を習得していく。

 そして最終的には剣術しか使えないにも関わらず、主人公に匹敵する最強キャラの座に君臨するのだ。


 クラウスは、その圧倒的なエレノアの力を知っていた。

 だからこそ彼にとっての理想は彼女の使うコバルトリーフ流剣術であり、それを再現できるようにこれまで特訓を重ねてきていた。


 しかしこの世界において、その流れは少し変わることとなる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして彼女は、未来の自分が至るであろう動きを理想とし修練を始めた。

 その結果、待ち受けるのは原作とは比べ物にならないほどの圧倒的速度の成長であり――



「待っていろ、クラウスくん! 私は必ず君に追いついてみせる!」



 ――原作の物語開始タイミングを待たずして、エレノアは最強への道を歩み始めたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >クラウスが再現した最終段階のエレノアを、今のエレノアが見てしまったからだ 卵が先か、鶏が先か
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