【最終話】復讐するゴブリン
【黒国】独立のニュースは即王国全土を駆け抜けた。
魔導テレビ局ニュース報道陣は聖地フェザー跡地、現【黒国】グルエレールを名乗る地に集結する。
『皆さんご覧ください!あれが突如として独立を宣言した【黒の王】の姿です!!』
魔導テレビに人の姿ゴブルが映された。
アナウンサーたちが駆け寄りマイクを向ける。
『黒の王!黒の王!貴方が聖地を滅ぼしたという情報は確かなのでしょうか!?』
『教皇ラス様を始めとした元の住人たちはどこに行ったのですか!?』
『……』ゴブルは答えなかった。
代わりに後ろに付いてきていた者の一人が答える。聖女ラナだ。
今の彼女の肩書きは黒の王の妃となっていた。
『聖地フェザー。フェスタリア教は王都に攻め入る準備を水面下で行い、禁断の魔王研究に手を出しておりました』
『どういうことですか!?それは事実なのでしょうか!?』
『ラナ様!事実なんですね!?』
『はい。教の全貌を知る私が保証します。全てはフェスタリア教、教皇ラスが悪かったのです。故に滅び、ここに居た教徒たちは教皇に殉死し姿を消したのであります』
『いいのですか!?ラナ様、ここでの貴方の言葉は全国にリアルタイムで放映されているのですが!』
『問題ありません。事実を述べているだけですもの。テレビの前の皆さん、黒の王こそ上に立つに相応しい者でありますわ』
『ソ、ウダ。私モ、ホショウ、スル。クロノ王コソ真ノ王。王都ダイイチ王子ト、シテ、私、黒ノ支持スル』
『え!?あ、貴方は第一王子ハローィ様ですよね!?ウソ…なんで…!?ここに…!?王子として黒国独立を支持すると言うことですか!?』
『ハ、イ。ソーデス。クロノオ万歳、バンザ、イ』
パリィン!!大きな魔導テレビにガラスグラスが投げ付けられ粉々になった。
「ハロォォォォイィ!!!!」
王国王都の王は憤怒した。
聖地が滅んだことより、黒国の独立宣言より、テレビに映る第一王子に怒りを見せた。
◆
「聖地近くまで行ったんでしょう?なんで兄を連れて帰ってこなかったのかしら?」
「それは…」
王城の豪華絢爛な一室に若き蒼龍ソランはいた。
相手は薄い眉毛、紫髪の第二王子グローディア。
【黄金龍】率いる彼は聖地に足を踏み入れなかった。
危険があろうと本来なら第一王子を保護に向かうべきだったのだが。
「どうせイーサンでしょ?あいつは小賢しいから」
「…いえ、僕に責任があります。最終決断をしたのは決定権がある僕ですから」
「庇うのね」
ここは彼女の寝室である。
公には女であることを秘めているグローディアはブーツを脱いで、ベッドに腰掛けた。
「兄が間抜け面でテレビに出ているせいで王家の面子は丸潰れ。こうなったのは第一王子救出に向かわずヌケヌケ帰ってきちゃった貴方たちの責任ってのが王宮内の総意見よ」
「はい…。我々が責任に問われなかったのは全て貴女のおかげでございます、グローディア様」
ソランは満遍なく彼女の素足を舐めだした。
「いいのよ。私にとっては一石二鳥、これ以上ない展開だから。私が王位を獲るには兄を殺すしかなかった。それは容易いことだけど、世間体が悪い。勝手に自滅してくれて助かったわ。そして何より私はこの手で兄を殺してみたかった。それも衆人観衆の中で。うふふ、おかげで夢が叶いそう。望んでいた形でね…」
「グローディア様…、そのようなことを口にするのは…」
「大丈夫よ。誰も聞いていない。こんなことを話せるのはソラン、貴方だけ。一緒に地獄に落ちてくれるのでしょ?いいじゃない、このぐらいの愚痴、こぼしても。ああそうだ。あのバラーに掘ったトンネル使えるわ。いつか必ずぶつかるであろう黒国との全面戦争に、戦略的にね」
必死に指の間まで舐めるソランにグローディアはゾクゾクする。彼女が女であることを知っているのは一部を除いてソランだけだ。
誰も彼もが彼女に理想の王子像を重ねていた───
足りぬ兄、ハローィの分も重ねて。
「処刑台送りにされなかっただけ感謝しなさい。貴方の仕事ぶりを評価するからついでにあのイーサンも権限剥奪処分だけに収めてあげたのよ」
グローディアは股を開いた。
期待されるその分、彼女はソランに女をぶつけるのだ。
◆
「ラナ…。何してんだよ」
イーサンが今いるのは暗く狭い小汚いレンタルホテル。
魔導テレビで新興国の妃となったラナを見て【選ばれし者】の彼は訳が分からなかった。
「何だよ、この黒の王ってやつは…。くそ…、あの聖地のやばそうな雰囲気はこいつのものだったのか…?」
この部屋にはイーサン以外にナックルもいて部屋のベッドの上に裸で転がっていた。
一応、生きている。
テレビを見るわけでもなく少女はボケーと天井を眺めていた。
イーサンは第一王子ハローィを救出しに行かなかったことを咎められ爵位の話はなかったことにされ、様々な与えられていた特権を剥奪されていた。
コンコン。
ドアがノックされる。
誰だよ…と思って出ると屈強な男が二人いた。
「イーサン様ですネ。我々、竜撃拳法総本山の遣いデス。ナックル様を迎えに来ましタ」
「ま…」
「ナックル様は本山に帰りマス。ナックル様はどこですカ?」
部屋に入ろうとしてきた二人の屈強な男。
「待て!待て待て!!ナックルは今朝風呂に入ってる!すぐ出てくる!少し外で待っててくれ!」
「…そーデスか。分かりました。ならば待ちまス」
意外とすぐ引き下がってくれた。
ドチャンとドアを閉めて鍵をかけて急いでイーサンは奥の部屋に駆け戻る。
「……」
裸のナックルはボケーとしたままだ。
聖地がなくなったおかげでラナの【織天使】のスキルで快楽中毒者になった二人は症状を治療できず未だ苦しめられていた。
特にナックルはぶっ壊れてしまっている感じだ…。
「こんなの見られたら殺されちまうぜ…」
イーサンの現状はこの小汚い部屋そのものだ。
後がない。
薄暗い部屋に魔導テレビの宣伝が流れる。
『───黒国は国民として来るもの誰でも受け入れます!おいでよ♪黒国へ〜♪』
◆
国民0から始まった【黒国】には続々と国民となるべくしてやったきた移民たちが入領していた。
長い人の列が地の果てまで帯びている。
パラレア大教会を改造したゴブルの巨大城の通路の窓からはその光景を眺めることができた。
「黒の王。嬉しいですね」
「ああ…」
白い化身が発した季節外れの大寒波はこの国の家畜を死滅させ作物類を壊滅させた。
そのため王都などの都市結界のある一部の都市以外はどこも壊滅的な食糧難となっていた。
一万年に一度の危機というレベルらしい。
みんな、教皇ラスの起こした奇跡によってこの国唯一の豊かな地となった【黒国】に食料を求めやってきているのだ。
果実はもいでも数日で次のが実り、農作物は一月も待たず収穫ができた。家畜は生まれるとすぐ成長した。
他の地すべての大地から生命力を吸い取っているんじゃないか?と疑いたくなるほどの豊かさだった。
「王都からも多くの移民が来ております。選民はなさいますか?」
「いい。僕は来る者は拒まないよ」
「御意でございます。黒の王」
移民に紛れた王都からの暗殺者は危惧されるが些細な問題である。
「アレは…」ラナは空に淡い青色をしたドラゴンが旋回しているのを見つけた。ドラゴンは珍しい。
「アレはエリーナだよ」
そう言ったのはゴブルだった。
彼は【至高の魔術師】エリーナを全属性のブレスを吐けるドラゴン魔王に改造していた。
「そうですか」ラナは驚かなかった。
一皮剥けばラナとて【魔王】だ。
◆
「今日はありがどうございます、黒の王よ」
頭を下げたのは獣の顔した老人亜人連中とその付き人たちだ。
王国植民地【亜人連命領】グロアの九人の頭取たちである。
大寒波の被害を最も受けたグロアは黒国に食料援助の願いに来ていていた。
他にも援助を要請してきた都市は多々あったが、ゴブルが応え謁見を許したのは亜人の彼ら相手だけである。
「よろしいのですか?黒国に支援してもらうということは王都に反目するということですよ?」とメリッサ。
ゴブルは対応がめんどくさいことは全部メリッサに任せていた。
「…王都は我々の懇願に応えてぐれませんでした。今も多くの亜人の民が飢えて苦しんでおります…。なのに緊急税として穀物を納めろなど、と…。もう王都には付いて行けないのであります」
「そうでありましたか。黒の王からの正式な回答はこの後の会見中になりますが、事情は考慮させてもらいましょう。よき返答ができるよう」
「ありがどうございます!」
また九人の頭取と付き人たちは深々頭を下げた。
こういうのはメリッサに任せれば黙っていても上手くいった。
(ん…?)ゴブルは気づいた。付き人たちの中に自分がよく知る人間がいることに。
「ゴッズ…」
【選ばれし者】のひとり【黒曜の瞳】ゴッズがそこには混じっていた。
護衛についてきているらしい。
彼の頭には獣耳が生えていた。
───ゴッズ、彼は亜人だったのだ。
(ずっとベレー帽脱がない人だなと思っていたけど、そういう秘密があったんだな)
ゴブルが注視すると彼と目が合った。
「ゴブル…?」そう小さくゴッズは呟いた。
イケメン長身長の黒の王と小鬼族ゴブルは似ても似つかぬが直感でそう思ってしまったのである。
ゴブルはニヤリと笑った。
イーサン、ラナ、エリーナ、ナックル、ゴッズ【黄金の希望】は魔王も倒せたので無能でキモいゴブリンをパーティーから追放した。
信じていた仲間に裏切られたそのゴブリンは追放された先で魔王パワーを手に入れた。
そして、小さな彼は復讐を果たすと誓った。
「亜人連命領の方々、食料援助を約束しよう」
「おおー!黒の王!」
復讐劇は続く。
「その代わりと言ってはなんだけど、そこにいるゴッズ。彼をさ───」
黒の王はカメラ集まる会見の場で頭取たちにゴッズの身体へ忠誠の証として持ってきた九本の装飾剣、亜人九葉剣を突き刺してみろと指示した。
自分の国を得ても。
恋が叶い愛した相手を娶ろうとも。
富も名声を得、どこまでも満たされようが。
イーサンにも最後「ざまぁ」と言うまでは。
───ゴブルの復讐は終わらない。
ここで復讐ゴブリンは一旦完結とさせていだきます。ここまで読んでくださった読者の皆様には深い感謝しかありません。本当にありがとうございました。次回作では恋愛ものとかチャレンジしてみたいので是非よければ覗いてくださると嬉しいです。ではでは(*^^*)




