【第42話】氷の世界
聖地フェザー近くに在る小さなサアル村。
住人たちは異変に気づく間もなく氷漬けになった。
少し大きめな中継都市バラン。
賑わっていた大通りには氷像がひしめく。
バラー平原の【黄金龍】とイーサン・ナックル。
みんな凍っていた。
「なんであるか!?この寒さは!?雪は!?」
王都の王、カーシャルロレッタ・ディン・ダナフォーペッタは白い息を吐きながらこの寒波に慄いた。
空が暗転を繰り返しいくつもの星が一挙に流れたと思いきや、今度は異常な寒さ。
雪なんて王都では初めて観測される気象だ。
王都には防衛魔法陣結界が張られている。
内部環境保全も都市結界の機能の一つ。
それがありながらこの寒さはありえないことだった。
「何か起きているのだ…」
カーシャル王はテラスから空を見上げる。
白い雪。その先の天に青白い魔法陣を見つけた。
◆
雲より高い場所。
───それは魔法陣ではなかった。
雪結晶、六花の形をした直径約二十キロの氷隕石であった。
ゴゴゴゴゴ!!
あまりにも大きすぎて距離感はおかしくなる。
巨大すぎるゆえに空気抵抗を受け、遅くは感じるが六花の大質量の氷は落ちてきていた。
かつて大型爬虫類が繁栄した時代があった。
しかしその時代は一つの隕石を起因に終わりを迎えた。
「再現する気なのでしょうね」
メリッサが言う。
大型爬虫類の滅亡は隕石の落下による起きた衝撃によるものではない。
落下衝撃により舞い上がった粉塵によって陽の光が数世紀に渡り断たれ、その結果多くの命が奪われたのである。
あの六花の滅びが地に落ち氷爆を起こせば同じ現象が起きるだろう。
かつてと同様に人類も滅亡だ。
「ううう…終わりなのですね…」
ラナがヨロヨロするのでメリッサがまた支えてあげた。
「安心して下さいラナ様」
雲海に黒い龍が泳いでいた。
───その龍の額には人が乗っている。
「人類を滅ぼすのは黒の王です」
六花の滅びは上空で砕け散った。
氷の破片が雪と共にキラキラと綺羅びやかに散り舞う。
ブォオオオオオン!!
満月を背景にする影が降りてきた。
それはオレンジのラインを線引かせた漆黒の機体───
六対の別離した機械翼を展開する巨大ロボだった。
《機体内熱暴走率1000パーセントオーバー!!》
《右腕部シャフト熱融解!!》
《オーバースプリット開始!!自律解除制限!!》
《準予備電源使用!冷却開始!被率98パーセント!》
ピーピーピー!赤く警告音の鳴る操縦室にいるのはゴブルだ。
「【モード・破滅黒王機形態】解除」
ゴインゴイン!プシュー!と漆黒の機体は内側に変形しながら縮んでいった。
機体はゴブルの漆黒の杖【ルラドータス】になる。
ゴッブルウェインはルラドータスの奥義スキルの一つだった。
宇宙空間で教皇ラスを打倒したのはこの巨大ロボである。
機体を失いゴブルは生身で落ちていく。
「滅ぼすのは僕だよ。だから守るんだ」
ゴブルは漆黒の杖を自分の腹に突き刺した。
「【帰順】」
あまりにも大きすぎた力。
今のメリッサやレーセンの真の姿が魔王のそれであるように、魔王らの王となったゴブルもこの顔のいい青年姿や元のハイゴブリン姿は変身魔法による擬態でしかない。
「黒の王…ッ!!ついにそのお姿にッ…!!ああなんと!」
「え…、メリッサさん…」
これまで歴史上に現れた魔王ほぼ全員分のパワーを得たゴブルはそのパワーほぼ全てを杖に移譲し自身から分離させていた。
理由はひとつ、危険だったからだ。
あまりにも大きすぎる力は地球そのものを破壊する可能性があった。
【ルラドータス】はゴブルの腹にめり込んでいって吸収される。
杖とゴブル、力と入れ物は一体と合いなった。
誰か力を受け止めてくれる存在がいなければ、その姿になることすら忌避される魔王の王の真の姿。
ギァォオオオオオ!!
ゴブルは今の本当の姿を現した。
彼はもうゴブリンでも人でもない。
トゲトゲの背中を持った弩級のドラゴン!
恐らく二度と出番ないであろう滅亡と破壊を司る化身!
大怪獣ゴブル!!!!
巨大な足が大地を捉えて着地した。ドズンッ!
大怪獣と白き化身は対峙するのと同時に動いた。
互いの前方に魔力エネルギー大球が発生する。
圧縮された黒い魔力は太陽の如く燃え盛り。
圧縮された白い魔力は満月の如く静まり返った。
二つの破滅の極玉。放たれる。
月と太陽が地上で衝突した。
どちらの一発も国を軽く消し飛ばすほどの威力。
「キャアアアア!!」
ラナは死を予感して叫んだ。
破滅の衝突に夜景が、次元が歪んだ。
対消滅を果たす。
極玉同士は消滅し合い消え去ってしまった。
そのとき一方は次の一撃を備え終えていた。
ゴブルの背中のトゲドケに蒼雷が。
バチバチバチバチバチバチ!!
ギャォオオオオオン!
赤く青い波動が口から放たれる。
両手を前に突き出し魔力防壁を張った白き化身を波動は壁ごと消し飛ばした。




