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【第40話】欠けていたモノ


「私は、負けたのだな───…」


「うん」


再生限界を迎え、教皇ラスの身体は朽ちたままである。

崩壊は留まらず今もなお彼の肉体は徐々に崩壊し続けていた。


「黒の王よ。私は、貴様を倒すために生まれたのだな───…」


存在自体がイレギュラーの黒の王ゴブル。

神の想定しなかった歯車は規律を歪め世界のルールを否定し、逸脱した超越者となった。


教皇ラスはその【黒の王】をこの世界から排除するために用意された同等の怪物なのである。


「そして我々は対消滅するはずだった───…」


「ああ…。肉薄した戦いだった。ギリギリだったよ」


「だが足りなかった───…」


白と黒の丸は綺麗に重なって共に消えるはずだった。


拮抗した力を持つ者同士相打ちになるはずだった。


しかし白い丸は欠けていた。

ここに立っている者、倒れ死を待つ者の命運を分けたのはその欠けていた分であった。


「私は手に入れておかなければならかった───…」


癒やしの天使の力を持つ聖女ラナと。

正当偉大な王の血を有す第一王子ハローィ。


「織天使の力があればまさに不滅だったろう…。聖なる原点をこの身に宿すためには由緒正しき王家の血は必要だった───…」


吸収には受け入れられることが条件だが。

殺せば、合意なく取り込めた。


───差異はその者の魂にも救済があるかどうか。


何度もその機会はあった。二人は手に届く位置にいた。

それでも、それでもだ。


教皇ラスは結局最期までそれをやらなかった。


捧げ物のように、目の前に用意された二つの生贄に手を出さなかったのはラス本人。


あの時だって。

地下でラナに手をかけようとした時もゴブルが近くに潜んでタイミングを窺っていたのを()()いなかったとは言わせない。


「…私こそ、背信者であったか───…」


───()の聖人も使徒の一人に裏切られ死んだ。


「人を裏切らず、自分を裏切ったってことでしょ?胸を張りなよ教皇ラス。それは誇らしい死だ。僕は今の貴方を尊敬している」


「黒の王───…」


「ゴブルだ。…僕の名前はゴブル・マーチ」


【選ばれし者】の一人。魔王との戦いで唯一の犠牲となった英雄。


その名前を聞いてラスはすべてを悟った。


「そうか…。そう言うことであったか───…」


魔王鎮魂祠関連は王家の極秘であるが長い時を生きるラスは近いことを知り得ていた。


ゴブル。ラナ。魔王。この地獄。

男の中にあった点が繋がった。


「つくづく人とは罪深いものだ───…」


残された時間をさらに減らすことで教皇ラスは身体を復元させ立ち上がった。


「私は消える。未来永劫人類は救われることはなくなった───…」


すべてはゴブルと同じ目線で言葉を交わすためだ。


「罰は受けた。だからゴブルよ、人を滅ぼすな…」


「それとこれとは別だよ」


ボロボロの腕でラスはゴブルの首を掴み絞める。

力を込めるほど指の方が折れていく。


「451年生きた…。人類は救われなければならない。私は…まだ死にたくは、な───…」


ゴブルが何もしなくとも自壊は進み、教皇ラスは勝手に砕けて消えてしまった。


「…フェザール」


それでも天から伸び降りる白く輝く根は止まらない。

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