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【第13話】聖地フェザー


王国領地西部に位置する神の寵愛を受けた地、聖地フェザー。

フェスタリア教の本部となるパラレア大教会と教皇ラスが在する尊き地である。


「今日も世界は美しいですわね」


聖地中心部にそびえ立つパラレア大教会の高層部自室から優雅に外を眺めているのは【選ばれし者】の一人ラナライア・パーモンララだ。

裸体にバスローブを羽織る彼女は下界の夜景を堪能する。


「美しい景色を背にした君は更に美しい―――…」


奥の部屋から現れたのは全裸の男だった。

ひきしまった身体は彫刻像のようで、見る者すべてを虜にするような魅惑がある。

恥ずかしげもなく男性器をブラブラさせながら男はワインをグラスに注いで口を付ける。


甘く酸っぱく歴史を感じる葡萄酒は二百年物。

かつての最悪の魔王、レーセンが人口を数割消し飛ばしたあの時代に作られ保管されていた一品だ。

夜景を彩る下界のホタルどもでは一生働いても飲めないであろう品に幸福を感じて男は息を吐く。


男の名はハローィといった。この王国の第一王子である。


「ハローィ第一王子にそんな褒めて頂くなんて、わたくし光栄でございますわ」


「ラナ殿、そう畏まらないでおくれ。私たちは夫婦となるのだから―――…。私もこう呼んでしまおう、ラナ」


「はい…、ハローィ、様、うふふ」


少し照れのあった上目使いにハローィはこの上ない愛しさを感じてしまう。


ラナは凄い女だ。

フェスタリア教の教皇の娘であり、魔王を倒した【黄金の希望】のメンバー、使うスキル【織天使】はあらゆる傷や毒を癒して、神々しい奇跡を起こす母性溢れた女性である。


彼女以上に次期国母に相応しい逸材はいない。

何より可愛く美しくあるラナの柔和な美貌と豊満な胸に第一王子は惚れ込んでいた。


ハローィはラナの腰に手を回した。

女に嫌がるそぶりはなかった。むしろ身を捧げるように男に寄り添った。

唇は至近距離まで近づく。


「いいさ、ゆっくりで。平穏なこの時代、時間だけは余るほどあるのだから」


二人の影は重なった。


王国第一王子ハローィとフェスタリア教聖女ラナは正式に婚約した。


その結婚式をここ大教会で大々しく挙げるために二人はフェザーにいる。


   ◆


ガタンゴトン―――。

   ガタンゴトン―――。


聖地フェザーには街をメロンの表面の如く網目張った鉄道が走っている。


走る列車は魔素で起動するラシャルモニア製の魔導列車カイソクと言った。

聖地での日常生活になくてはならなくなっている乗り物だ。


(列車は規則正しい時を刻んで場を巡る。だから好きだ。正しい時間にそこにあるという安心感。正確な事象にこそ神性を感じてしまうものだ)


カイソクの二両部目に乗るある司祭はきっちりとした表情でそんなことを考えていた。

騒々しい車内の中であるがで紳士的な顔と振る舞いで席に座っている。


彼の名前はフレーラ。シリウス正教校に勤める司祭教師だ。

年齢は五十代後半辺りで、痩身、シミ一つない神職服を着た男性である。


今日は休日のはずだったが優秀な生徒らの課外授業に付き合うため、列車に乗って待ち合わせの場所であるババトワンにまで向かっていた。


休日返上の報酬のないボランティアになるのだが、無償の奉仕こそ神に仕える者としては本懐ではあり進んで受けるべきこと、いつか必ず訪れる神の御許へ参るその日の為に生徒たちからの願い出を司祭は喜んで引き受けていた。


生徒ランセ、グリーモール、アリエンテンス、イップバはもう待ち合わせ場所についているだろうか。

信仰深く優秀な子らだ。きっと全員集まっていることだろう。


少しばかり遅刻しそうなフレーラは不安になるが、正しく進むカイソクは彼の遅刻した分を取り戻してはくれない。


窓の外をゆく馬車の馬と一瞬目が合って平和を実感する。


フェザーはいい所だ。

列車の中から老若男女幸せそうに暮らしているのが見える。

みんないい顔をして、いい汗を流している。住民全員が幸せを享受できているのだ。


聖地の外では魔王の再来と囁かれる怪物が暴れているというのに。


叡智の都ラシャルモニアは壊滅した。


禁忌の研究に手を出していた魔女アリスアンダーの暴走によって、あの魔導科学で人類を牽引していた一都市は一夜の内に滅んでしまった。


雨を引き連れ、通り道に何も残さない怪物【腹ペコアンダー】にもう一体いくつの町や村が都市が消し去られてしまったことか。

新聞でも魔導ニュースでも連日連夜アンダーの動向について報道しているがさっさと討伐されてもらいたいものだ。


しかしフェザーもこの騒動は他人事ではなかった。

実は腹ペコアンダーは一度フェザーに向かって突き進んでいた時間がある。


小都市カンペルを破壊し尽くした怪物は進路をこちらに向けたのだ。

あの時のパニックは凄ましかった。


だが教皇様の起こした奇跡によって怪物は進路を逸らし、フェザーは救われた。


それ以来腹ペコアンダーの脅威をこの地は受けずにいる。


フェザーでは近々教皇様のご息女ラナ様と王国第一王子ハローィ様の結婚式も予定されている。


これからの王国はフェザーを中心に回っていくことだろう。

フェスタリア教の未来は明るい。


「ごほッ!ごほッ!」


そばの男が咳き込んだ。ほんの少し気分が害された。

しかし罪を赦すことも教えである。


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