気まぐれな皇女殿下
「お兄様みてー!かえるー!」
「おや、カエルだね。小さくて可愛らしいな」
「ゲコゲコ可愛いのー!」
「そうだねぇ、可愛いねぇ」
執務室にきた妹に、つい手を止めて愛おしそうに見つめるアタナーズ。アストリアは忙しくても構ってくれる兄に満足してさっさと帰って行った。
「…ねえ」
「はい」
側近が返事をすれば、だらしない顔で妹自慢を始めるアタナーズ。
「うちの妹可愛くない?」
「世界一可愛いですね」
「間違いない」
その後アタナーズの仕事の効率が急激に上がった。側近曰く妹ブーストと呼ぶらしい。
「お兄様、今日はフォンダンショコラつくったよー!」
「ありがとう。一緒に食べようか」
「うん!」
フォンダンショコラを作ったと言っても、パティシエ達に手伝わせたのだろうとわかってはいる。分かってはいるが、やっぱり妹の手作りは特別だ。
「いただきます!」
「いただきます」
とろりとしたチョコレートが中から出てくる、とても甘くて上品な味わいのフォンダンショコラ。
「こんなに美味しいのを作れるなんて、アストリアは天才だね」
「えへへー」
デレデレしている自覚はある。でも、仕方がないのだ。妹が可愛すぎるのが悪い。
「でも、アストリアはなんでお菓子作りを始めたの?」
「お兄様のためだよ?」
「え」
至極当然という顔で、爆弾を投げてくる妹。
「お兄様いつも頑張ってるから、ご褒美!」
アタナーズは本気で今死んでもいいと心から思った。
「うちの妹は天使か…いや、一周回って小悪魔なのでは?」
「?」
首をかしげる妹に、さらに悩殺されるアタナーズ。
「今日はフォンダンショコラ記念日として制定しよう」
「やめてください陛下。どれだけ祝日を作る気ですか」
「毎日でもいい」
「やめてください陛下」
側近はまた頭を抱えた。心労が尽きない可哀想な男である。
「あ、セザールにもフォンダンショコラ作って来たんだよ!あげる!」
側近にもラッピングしたフォンダンショコラを渡すアストリア。側近は今度は胸を押さえた。
「皇女殿下が…可愛すぎる…!」
「うちの妹は本当に可愛い」
「間違いないです!!!」
今日も今日とて無意識に人を魅了するアストリアであった。