お嫁に出したくない
「は?アストリアの婚約者?」
「はい、幼い今のうちに決めておいた方がよろしいかと」
「却下」
アタナーズは側近に提案されて、即座に却下した。
「皇帝陛下」
「嫌だよ、聞かない」
「いつかは向き合わなければならないことです」
側近に諭されて、拗ねるアタナーズ。
「妹にはまだ早い」
「早いうちの方がよろしいのです」
「あの子は嫁に出さない」
「いつの間にそんなにバカになったのですか」
バカと言われてさらに拗ねる。
「なんだよぅ…アストリアは可愛いし賢いから、大人になってからでも間に合うだろ」
「嫁ぐに当たって学んでおくべきことなどもあるでしょう。早めの準備も必要です」
「アストリアは優秀だから大人になってから学んでも問題ない」
いつになく抵抗するアタナーズに、側近は頭を抱える。
「ダメでしょう、さすがに」
「あの子がお嫁に行ったら僕はどうすればいいんだ」
「その頃には皇帝陛下もご結婚されて子供がいますよ」
「子供も可愛いだろうけど、あの子も大切に思ってるはずだ」
「それは否定しませんが」
そこまで言って、アタナーズはふと気付く。
「え、その前に僕の婚約者決めなきゃダメじゃない?前婚約者、革命軍にびびって婚約白紙になっちゃったし」
「貴方の婚約者ならもう候補は上がってますよ」
「…誰?」
「貴方の従妹のクラリス様です」
「よし乗った」
クラリスは可愛いもの好きの少女趣味だ。アストリアをものすごく可愛がっている。アタナーズ的にはそれだけで高評価である。
「じゃあ、クラリスとの婚約を進める手続きから始めようか」
「その次にアストリア様の婚約者の選定ですね」
「それは嫌だってば」
「アストリア様の幸せのためですよ」
「そんなことしなくても、僕があの子を幸せにするもの」
側近はまた頭を抱えた。こうなるとアタナーズは頑ななのだ。
「…わかりました。今は保留にしましょう」
「やった!」
「ですが今度、ちゃんと話し合いましょう」
「絶対やだ」
子供のように駄々を捏ねるアタナーズに、側近の心労は続く。