毎晩の悪夢
「うわぁあああああ!」
アタナーズは飛び起きる。今日も悪夢が襲ってきたのだ。
アタナーズは毎晩、革命軍が親兄弟を惨殺したあの場面を夢に見る。
「…ぅ、ああ」
いつものキリッとしたアタナーズは、今はいない。ただただ人の気配に怯えて、息すら苦しくなる。
アタナーズがきちんと眠れるのは、昼間のアストリアとのお昼寝の時だけだ。
アストリアは、もしかしたらそれに気付いていてたまにお昼寝に誘ってくるのかも知れない。
「父上…母上っ…」
子供のように泣くアタナーズ。こんな時しか、涙も流せない。
「うう…うぁああああ!」
部屋の外で待機する護衛騎士達は、その慟哭を聞かないふりをする。
「俺たちが…あの日、革命軍を押し留められていれば…」
「バカ!それを言ったらおしまいだ。それに、俺たちは今何も聞いてないんだ!」
「…くそっ」
護衛騎士達は、たしかに自分たちの使命を果たしていた。ただ、革命軍の方が一枚上手だっただけだ。それでも、誰もがあの日のことを悔いる。
「う…ぐうぅ…」
アタナーズは、自分で自分の身体を殴る。痛みに逃げないと、精神が壊れてしまいそうなのだ。
「ああ、ああ…」
先帝の五番目の妃、アストリアの母は身籠っていた。それでも、腹を裂かれ殺された。
「ごめん、アストリア、ごめん…」
守れなかった。可愛いアストリアの母を、そのお腹の子を守れなかった。
「だれか…僕を許して…」
誰にも届かないその呟き。決して報われることはない思い。
革命軍が残した爪痕は、あまりにも大きかった。
「お兄様ー!おはよう!」
「おはよう、アストリア」
今日も穏やかな朝が来る。アタナーズは、抱きついてくるアストリアを軽々と抱えてその頬にキスをした。
「ふふ、くすぐったい」
「アストリアが可愛いのがいけないんだよ」
そんなアタナーズの頬に、アストリアもたくさんキスをした。
「ふふー!私の勝ち!」
「あはは。負けちゃった」
キスの数で勝ち誇るアストリア。アタナーズはそんな幼いアストリアに癒される。
「朝ごはん食べよう!」
「そうだね、食べようか」
早速朝食を食べに行く二人。二人が食堂の席に着くと、朝食が出される。優雅に食べるアタナーズと、美味しそうに食べるアストリア。
「美味しいね、お兄様!」
「美味しいね、アストリア」
アストリアの満面の笑みに、アタナーズは胸を掻きむしりたいほどの苦しみが少しずつ和らいでいくのを感じた。